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偶然再会してみた。

「あっ、携帯忘れた」

 一番近くの電気屋がある大通りにやってきたところでそのことに気づく。

 ここまで来てしまったら取りに帰るのも面倒だし、まあなくても大丈夫だろう。

 

……にしても、今日たくさん人いるなぁ。そういや、放課後のこの時間は学生が多くいるんだった。

 ここ半年外出一つしていなかったため、大通りの人混み事情を忘れていた。

 ど、どうしよう。こんなに人多いなら、遠くても隣町までいけばよかった。

まあでもとっとと買ってとっとと帰ればいい話だ。

 早急に用事を済ませようと電気屋へと速足で向かう。


にしても、なんか通りすがる人全員に見られている気がする……。

全員というのは流石に俺の自意識過剰だが、見られているというのは事実だ。

通り過ぎ去った後も後ろから視線を感じるし……。まるで紛争地帯の銃弾かのように、絶え間なく視線が俺の体に浴びせられる。

 確かに俺は自他ともに認める美少女ではある。だがこれほどに人の視線を独占するほどの魅力があるとは予想外だった。

 視線……コワイ……。

 引き籠り拗らせて対人恐怖症に陥っている俺にとって、ここは恐怖の巣窟。羊にとっての狼小屋同然である。


 でも大丈夫! こんな場合を備えて、俺は顔を隠すためにフード付きの服を着用してきたのである!

 俺は防御態勢の「フード着用モード」に移行する。しかし、当機パーカーには致命的な欠陥があった。

「……っ!?」

 このフード、想像以上に奥行きがなく全然顔を隠せない。

 これじゃあただフードを被っただけの美少女だ。注目を避けるという主目的は一切遂げられていない。


 ……やばい、本格的に帰りたくなってきた。

 と、とりあえず、あんまり顔を見られないように俯いて歩けば——。


「ねえねえ君、俺らと一緒に遊ばない?」

「え……」

 制服を身に纏ったチャラそうな男子学生が、俺の肩を叩きナンパのテンプレみたいな言葉を掛けてくる。


 …………また?


◆「真泉」


「ここがゲームセンターというところか。初めて来た」

 ゲーム音轟く店舗。激しく鼓膜を振動させる環境下に、思わず耳を塞ぎたくなる。

 初の入店だが、これほどに爆音響き渡る店舗だとは……。

「その歳でゲーセン初めてってマジか。箱入り娘かよお前」

「自分は娘ではない」

「見りゃわかるわ」

 聞き飽きた反応に飽きたような様子の純也君。


「まあいいわ、とりあえず遊ぼうぜ。——何からやる?」

「何から、と言われてもな……」

 自分はゲームセンターへの入店自体初めてで、ここにどのようなものがあるのか一切把握していない。

 知識のない自分に何をしたいかと問われても、返答に困る。

「自分は何もわからん。だから純也君が何をするか決めてくれ」

「初めてだしそうだよなぁ。んじゃ、俺に任せな」

 ドンッと純也君は自身の胸を叩き、頼りにするようアピールする。



「まずはゲーセンの定番、UFOキャッチャーでしょ」

「中にぬいぐるみが入っているな」

 透明なアクリル板の向こうにはファンシーな柄をした空想動物のようなぬいぐるみが山積みになっていた。

「むっ、ぬいぐるみが中に入っていては買えないではないか」

 住宅の窓のようなスライド構造になっているアクリル板だが、動かすことができない。鍵穴があるため開閉は可能なのだろうけど、閉められているというのは盗難防止の意味合いなのだろうか。しかしこれだと客が商品を手に取れないではないか。これではレジまで持っていくことができない。店員を呼んで開けてもらえばいいのか。

「ホントになんも知らねえんだな……。これはレジに持って行って買う商品じゃなくて、お金を入れて景品を台から落としたらゲットできるって仕組みなんだよ」

「なるほど、屋台の射的や輪投げなどと同じシステムか」

「そうそう、まあ物は試しに百円入れてみろよ」

「ふむ」

 言われるがままUFOキャッチャーなるモノの硬貨投入口に百円硬貨を入れる。

 すると、この機械にある前方と左方を向いた矢印のボタンの内、前方の方のボタンが点灯する。

「その二つのボタンでアームの場所を動かすんだよ。二つとも押し終わったら自動でアームが降下して、アームが景品を掴んで持ち上げる。——つっても、簡単に取れるようなものでもないけどな。ぬいぐるみのサイズも大きいし、何より初めてやるとなると感覚が掴めな——」

 ピロリロリ~ン。

ぬいぐるみが台から落ちたと同時に、機械から奇妙な音が鳴る。

「これでいいのか?」

「え!? 取れたの!? 一発で!?」

 自分が景品を取ったことに、純也君は目をむく。

「ああ、然程難しくない。アームの可動域もわかりやすい上、何処を掴めば台から落ちるか見極めるのも容易だ」

「マジかよ、すげえな」

 唖然とした様子の純也君から関心を得た。

 それと、よくわからんファンシーな空想動物のぬいぐるみも得た。

しかしはっきり言っていらん。



「んじゃ次は格ゲーにするか。せっかくだし対戦するか」

「わかった」

 対戦格闘ゲームか。これも先のUFOキャッチャー同様経験はない。

 ゲームの台に基本操作説明が書いてあるな。これを一読しておけば大丈夫だろう。

「実は俺結構このゲームやりこんでたっていうか、それなりに強いっていうか~。まっ、おまえは初心者だし、ちゃんと手加減して——あっ、ちょ、先手でそんな攻撃連打仕掛けてくんのはズリぃって……。そっちがその気ならこっちも、……って、ジャストガード連発!? どんな動体視力してんだよお前!? まっ、タイム!? そんな中断突きばっか……——あ」

『KO! 2P WIN!』

 純也君の操作キャラクターが倒れ、動かなくなってしまった。

 純也君もまた心の何かが折れてしまったように動かなくなってしまった。



「ま、まあ、ビギナーズラックっていう言葉もあるしな。こういうことだってあるさ。うん。——それより、次は憂さ晴らし——じゃ、じゃなくて、気分を変えてパンチングマシーンでも——」

『記録更新! 新記録ぅ~!』

「なあ純也君。説明通り機械を殴ったら新記録とやらが出たぞ。一体何の記録なんだ?」

「…………お前超人過ぎだろ」



 ——その後、愕然とする純也君と共にゲームセンターを一通り回り終え、店を後にした。

 随分なハイペースで店内を回ったため、店を出た時は入店時からさほど時間が経過していなかった。

体感では五時間ぐらいいたように感じられたが、実際は一時間半程度だった。ゲームセンターにいたときは新鮮なことが多く、時間が長く感じられたのだろう。


「実に有意義な時間を過ごせた。ありがとう」

 小脇によくわからんぬいぐるみを抱えながら、隣を歩く純也君に礼を言う。

「楽しんでくれたなら何よりだよ。——俺は色々疲れたけど……」

「む? 何か言ったか?」

「いんや、なんでもねえよ。それより、まだ明るいしどっか店でも入ろうぜ」

「ああ、構わんぞ」

 友人の気遣いを無下にしないようにと、自分はその提案を快諾する。

 親には既に帰りが遅くなることについて一報してある。日が暮れる前までなら、ここで遊んでも構わないだろう。


 ——実に有意義な時間だ。

 友人と放課後で寄り道をするというかつてない経験に、新鮮な気持ちが心を埋め尽くす。

 本来ならこの楽しいひと時以外に他のことを考える余裕などない。

 無我夢中というのを勉強や習い事以外で体験したことがない自分にとっては、新鮮さも相まってこの時間に没頭していた。


 ……そのはずなのだが、どうも心の内には拭えない一点の曇りがあった。

 深い傷が歩くたびに激痛を走らせるように、その一点の曇りが夢見心地にさせてくれない。どんなに夢中になっても、ふとした瞬間にその傷が彷彿とさせられてしまう。

 忘れてしまいたいわけではない。むしろ、忘れたくはない。

 例え彼女が、誰かの恋人であろうと。彼女のことは——。


「おっ。なあ真泉、あの子可愛くね?」

 純也君がいつもの調子で通行人の一人を指差す。

「やめないか。例え褒め言葉であろうと人の容姿について他人が彼是言うのは良くない」

 彼が指差す方向には目もくれず、不誠実な行いをいつものように正そうとする。

「せっかくだし声かけてみようぜ。ワンチャン一緒に遊べるかも」

「やめないか。ナンパなど不誠実極まりない」

「相変わらずお堅いなぁ。今日ぐらい柔軟になろうぜ」

「ダメだ。たった一日だろうと自分は許さん」

「筋金入りかよ。……しょうがねえ」

 渋々ながらも彼は諦めてくれたようだ。

 やはりどのような形でも不誠実な行いはよくな——。

「しょうがねえから……お前に女遊びの一つでも教えてやるよ。話しかけてくっからちょっと待ってな!」

「おい!」

 脱兎の如く自分の傍から離れ、純也君が指差した通行人の元へ彼は向かった。


 それに、驚愕した。

 純也君の素早い行動にではない。

 彼がナンパをしようと少女にだった。


 絹のような髪、新雪のように白い肌、パッチリとした瞳は小動物を彷彿とさせ、愛らしさと可憐さを兼ね備えたような少女。

 この偶然に、自分は驚愕する他なかった。


「ねえねえ君、俺らと一緒に遊ばない?」


 名も知らない、可憐な少女。

 初恋の彼女が、そこにいた。


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