いろいろ交差してみた。
「うぅ~ん、どうすっかなぁ……。絶対行った方がいいし、いずれは行かなきゃいけないんだから早く行くのに越したことはないよな。——でもまだ一人で外に出るのはちょっとな。……や、やっぱりヒナタに頼んで一緒に——、い、いやいや! 昨日一人で行くって決めたじゃないか!」
ター●ネーター襲来から一日が経過した今日。
ヒナタがまだ学校から帰って来ていない昼間に、俺はあることで葛藤していた。狭い部屋の中を右往左往して、悩んでいるという感情が顕著に行動に表れている。
何故俺がこれほどに悩むこととなっているのか。それは、昨日のちょっとした思い付きに原因があった。
名も知らぬ大男さんが訪問する数刻前、パソコンの容量が満帆に近いことに気づく。
それによって案の定、問題を先延ばしにする俺が明日の俺にことを託した。
そして、とうとう今日、俺がことを託された明日の俺になってしまったのだ。
前まで俺なら明後日の自分に任せ、明後日の自分が三日後の自分に任せるという負のループに陥って、結果的に買わないという結論に着地する。
だがここ最近心境の変化というのが少しばかりだが芽生えていた。
スパルタ教育で性根が多少なり叩き直されたり、デパートでの一件で自身への更生願望のようなものが生まれていたりと、とにかく心の入れ替わりが起きた。
——要するに、俺は頑張りたい気分なのだ。
このやる気スイッチがオンの状態で行いたいのが、一人での外出だった。
引き籠りにとっては最難関ともいえる挑戦。しかし、既に幾千の修羅場を潜り抜けた(気分の)俺はなんかイケる気がしていた。
「——……よっし!」
葛藤の末、俺は部屋着からデパートで購入した男女兼用とされるパーカーとジーンズに着替える。
もし人の視線に耐えられなくなってもフードを被れば防げるという利点を考慮して買ったこのパーカー。面白がったヒナタに散々着せ替え人形にされた挙句、フリフリで明らかな女の子の服を買わされそうになった、デパートの悪夢の中で得た貴重な戦果の一つだ。
あ、その前に、ヒナタが来た時のために置手紙でもしておくか。
半年以上使っていないノートをクローゼットの奥底から引きずり出し、そこから一ページを切り離して伝えたい用件を端的に書く。
まあ家を出ることだけ伝えておけばいいか。あと一人で買い物したいから、ついてこないように一文付け加えておこう。それとタメ口で手紙書くと頭悪そうに見えるから、敬語で書いておくか。
「……これでいっか」
『家を出ます。探さないでください』
……なんか、あらぬ誤解を与えそうな文章になっちゃったな。
「——まあ、ヒナタならわかってくれるだろ」
俺とヒナタの長い付き合いを鑑みれば、この短い文章でも十分に内容が伝わるはずだ。
部屋に入って一番目に付きやすいであろうベッドの上に置手紙を置いて、万端の状態で家を出る。
◆「真泉」
六時間目終了の鐘が鳴ると同時に帰宅の準備をして帰路へとつく自分だが、今日は生まれて初めて放課後に帰路以外の道を歩むこととなった。
「やっぱ遊ぶなら大通りっしょ」
町の中心部とも言えるこの大きな通りには、背の高いビルや店舗が道に沿うようにそびえ立っていた。それに、
「人が多いな」
歩道には絶え間なく人の波が生まれており、少しよそ見をしただけで人とぶつかってしまいそうだ。
「まあ時間が時間だしな。俺たちみたいな学校帰りの学生がわんさかいて当たり前だ」
「世の学生というのはこれほどに夜遊びをしているのか。風紀が乱れているな」
「まだ午後四時なんだが?」
「この時間には遊びを切り上げて帰るのが普通であろう」
「小学生だってまだ遊んでるわ!」
「そうなのか?」
首を傾げる自分に、ほとほと呆れた様子の純也君。
だがそれも仕方のないことだ。なにせ自分は彼が呆れるほどに人との交友関係について無知である。
小学生の頃から人と遊ぶということ自体がなかったため、そのようなことには疎いのだ。
「——まあ、いいや。なら今日はとことん遊びつくして、とことん教えてやるよ」
「ああ、頼む」
こうして、自分は初の放課後遊びに興じるのであった。
◆「ヒナタ」
「咲人、入るわよ」
授業を終え自分の家よりも先に、咲人の部屋に訪れた。
ノックせずにドアノブに手をかけて扉を開く。
「……咲人?」
しかし、その部屋に咲人の姿はなかった。
トイレにでも行ってるのかな。と考えながら勝手に部屋に足を踏み入れると、真っ先にそれに目が行く。
ベッドの上に置かれた一枚の紙。ノートを切り離したものだろうか。
そこに置手紙のように伝言が書かれていた。
『家を出ます。探さないでください』
「なっ——ど、どういうことよこれ……!」
衝撃的な文章に思わず目をむく。
どう見たって家出を伝える文章だ。
で、でもアイツ、引き籠りで家出どころか外出すらまともにできないはず。
そう、家出なんて絶対あり得ない。第一咲人の変化した体のことを考えると、行く宛てがあるなんて思えない。
どうせアイツのことよ、ちょっと一人で出かけることを置手紙にして書いただけでしょ。
「…………でも」
デパートでの一件が頭をよぎる。
何があったかはわからないし、咲人もそのことについて話したがらないけど、アイツにとって何か傷つくようなことがあったのは確かだと思う。
もし、万が一、それが咲人を思い詰めさせるほどの事だったら、……この置手紙の意味合いも変わってくる。
「まさか、本当に何処かに……」
嫌な想像ばかりしてしまう。
当然不安で不安でしょうがない。
行く宛てもないアイツが何処かでさまよっていると思うだけで、居ても立っても居られない。
——けど、それ以上に、……咲人が何処かに行ってしまうのが怖かった。
「とりあえず電話を——」
スマホを取り出すよりも先に、スマホが目に入った。
私のスマホじゃない。咲人のスマホが。
アイツ、なんでスマホ忘れてんのよ。いいや、もしかしたらわざと連絡を取れないように置いてって……。
考えれば考えるほどネガティブな思考になる。
「ああもう!」
だから考えるのをやめた。
学校指定鞄を咲人の部屋の中に投げ捨て、駆け足で家を出る。
何処に行ったかなんて見当もつかない。けど、暗中模索になろうと探すしかない。
私は宛てもなく駆け出す。
「どこ行ったのよ、バカ咲人……!」




