異世界にてこんにちは
女性から少女という表記になっていますが、こちらの世界からしたら
主人公が幼く見えるためわざと、そのように表記しております。
後々、解明されていきますので何卒ご理解下さいませ。
同時刻、月夜に浮かぶ船上で、二人の男が酒を酌み交わしていた。
「今日はやけに、満月が綺麗だな。こんな日に呑む酒は最高に上手い。なぁ、そう思わねェか、シン?」
酒を片手に勢いよく煽りながら、男は呟く。
「はぁ、貴方は酒が呑めればなんでもいい癖によく言いますよ、カイト。」
シンと呼ばれたもう1人の男も呆れた顔をしながら同じように酒を勢いよく煽る。
「ん、あれは何ですか!?光の塊…?このままだと船にぶつかります。どうしますか船長?」
突如現れた怪しい光の塊に、シンは、慌てず冷静にカイン基、船長の判断を仰ぐ。
「ありゃ人だ。光の中に女がいる!俺が何とかする、お前らは大人しく下がってろ。」
騒ぎを聞きつけ、船員達も船内からすぐにかけつけてきたが、カインは下がっているように指示するや否や、背に白銀の大きく美しい羽を生やし光に向かって飛び立つ。
羽で風を起こし、光の勢いを殺しつつ、人を受け止めようと考えていたカインだが、
光に触れようとした瞬間、少女を包んでいた光は消え、今までの勢いがまるで嘘のように少女の身体はふわり浮きとカインの腕の中に舞い降りてきたのであった。まるで光が後は任せたぞと言わんばかりに。
カインはじっと少女を眺めてみるが意識はなく、本当に生きているのかと何度も呼吸を確認する。それ程までに、少女は生きた人形のようであった。
カインは、少女を抱えたまま、船に降り立った。
「船長、この女、何者ですか?人間?始末します?」
「生きてるのそれ?」
「人形みたい・・・」
「まだ幼いね」
シンを筆頭に少女に警戒しながら駆け寄ってくる船員達。
「人間の女みてェだな。とりあえず目覚めるまで待つ。それまで危害は一切加えるな。シンとミラ以外、各自持ち場と部屋に戻れ。」
カイトは、シンとミラを引き連れ医務室に向かった。
ミラはこの船の船医であり、この船の紅一点である。ちなみに紹介が遅れたが、シンはカイトの右腕であり、副船長である。
「船長、ベッドにその娘を寝かせて下さるかしら?診察しますわ。」
カイトはベッドに丁寧に少女を降ろす。
その後ミラは、男二人を部屋から出し診察を行っていく。
「カイト、何を考えているんですか?目覚めて何かあってからは遅いんですよ。今のうちに始末した方がよろしいかと思いますが?」
「シン、お前の気持ちも分るがどうみても、唯の人間だ。筋肉もほとんどないし、非力だ。無駄な殺しはしない。これ以上反論は聞かねェぞ。」
シンは渋々黙った。こう言い出したら、カイトが話を聞かないのを長年の付き合いでよく理解しているからである。それに、珍しいことにカイトが人間の女に興味をもっているように見える。人間嫌いのはずなのにだ。
「船長、シン、入ってきていいですわよ。女の子が目を覚ましましたわ。身体に異常はないようですわ。ですが…。」
ミラの呼ぶ声に慌てて部屋に入る二人。
ベッドに駆け寄ると、確かに目を覚ました少女がそこにいた。
「ここはどこですか?天国?地獄?」
無表情で問いかけるその少女は目を覚ましてもやはり生きた人形のように見えた。
「ここは、残念ながら黄泉の世界なんかじゃねェ。俺達の義賊団『十三支』の船だ。お前、名前は?何で空から降ってきた?」
カイトは少女に問いかける。
「名前は、如月 満月です。義賊団??それに空から?確かに、ビルの屋上から飛び降りたはずですが、下は船ではなくコンクリートだったかと…?」
よく分からないことばかりのため、無表情で首を傾げる。少々異様な光景だが、少女、ミツキがやると何故か可愛らしく見えた。
「飛び降りた?お前死ぬ気だったのか?なぜ?」
飛び降りたという言葉に怪訝な顔をする三人。
「私が『いい子』じゃないからです。私はいらない子です。」
迷わずそう答えるミツキからは、一切に感情が読み取れない。
「……なら、俺達の家族になるかミツキ?詳しい事情なんか知らねェが、お前をいらないという奴等なんかお前から捨ててやれ。だが、俺達は家族を…ミツキを決して見捨てないし、裏切らねェ。どうする、ミツキ?」
真直ぐにミツキを見据える淀みのない金色の瞳に目が離せなくなる。僕は味方だよと言葉巧みに取り入ろうとしてくる人はたくさんいたが、そういう人程すぐに裏切ると経験上、知っていた。なのに、考えるより先にカイトの差し出す手を取ってしまっていた。
「いらなくなったら遠慮なく言ってください。慣れてますので。」
「バーカ。これからお前は大事な家族だ、いらないなんて言う奴は俺が地の果てまでぶっ飛ばしてやるから安心しろよ、ミツキ。」
そう言ってニヤリと妖しく笑う様は、さながら魔王様のようであったが、ミツキには、今まで見たどの笑顔よりもとても綺麗に思えた。
この選択がミツキの人生を、世界を大きく変えることになるとは本人はまだ知らなかった。