思い出の地(2)
姉を起こさなかったら、ついに夕方になってしまっていた。あの場所はライトアップとかされるし夜でも10時までは開園している。行っても構わないのだが、どうせ行くなら、昼の方がいい。その方が映える。
まあ、ぼくは行かないという選択肢を取るわけだが、起こさなくて姉さんが駄々だこねても面倒なので一応起こしておく。
「姉さん。もう夕方だよ。今日どうすんの?」
「むにゃ~。ハンバーガーはLサイズでよろ~」
何の夢見てんだ。この近くにファストフード店はないぞ。
どうしようか。5日も猶予があって、その一日目だが、結局謎の外人、スティーブンとドライブしただけだ。何も考えてない。
「確か、近くに総合公園があったっけ」
室内だと有料だが、外の整備されてないところなら無料で使えたはず。少し運動してこよう。やることないし。
「あーポテトはMサイズでいいわ~」
やっぱりファストフード店で注文してる最中っぽい姉を放置して、旅館を出た。
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向日葵とテニスの練習をする予定なので、一応スポーツウェアの類は持ってきている。
軽くストレッチをしてから、走りこみ開始。
……………。
無言で黙々と走る。なんだか寂しいな。まあ、ランニングなんてこんなもんだろうけど。逆に何も考えずに走るのがちょうどいいのかもしれない。
……………。
1時間ほど走ったところで休憩。何の目的もないのに走るっていうのもなかなかにキツイものがある。ただ走るにしても何かしらの目標を立てるか。
『目標:恋の意味を理解する』
走ってる限りは永遠に理解できない気がする。というか、なんでぼくはこの地に来たんだっけ。こんなところで走るためじゃないだろ。部活の遠征でもあるまいに。
「たぶん。原点を再認識するためなんだよな……」
向日葵を、愛花を執拗なほどに過保護に接し、守ろうと誓った場所へもう一度行き、なぜ、ぼくがそうなったのか。それを向日葵は理解させたいんだろう。
待て。向日葵はあくまでもあそこは旅行先の綺麗な場所って認識でしかないはず。ぼくから話したことないし。でも、何らかの形で姉さんか親父から伝わっててもおかしくないか。普通の兄というのとかけ離れてるからな。ぼくは。疑問に思って聞いてみたりしたのかもしれない。
今更、向日葵に問いただす気もないし、姉さんに聞くわけにもいかない。ここを指定したということは向日葵は知っているということだ。
今日のところは倒れるまで走り続けよう。姉さんは……まあ、あの人はどうとでもなるし。下手したら戻ってなお寝てる可能性もあるし。無敵だと思っていたがどうやら時差ボケに弱いことが判明。あんまり大した弱点にはならないけど。起きてても意味分からんけど、寝てても意味の分からん姉だしな。北海道に来てまでファストフードの夢見るなよ。北海道に失礼だ。北の大地の恵みを夢見ろよ。
「…………」
暇だし、夕夜にメールを送ってみよう。
件名:北の大地から
一枚写真添付
何の写真だって?もちろん、スティーブンさんの写真。なかなかの筋肉を見せてくれたサーファーの写真を送ってやった。
数秒後、すぐに返信きた。
件名:なし
誰だよ!
そらそうだ。スティーブン・ジョブズだと送ってやる。
件名:なし
え?これがスティーブ・ジョブズ?ゴツくないか?
お見事なほどに勘違いしていた。文字て打ってんだから気づけよ。
まあこのままでも面白いから、悪ノリする。
件名:なし
姉さんがアメリカで知り合って、一緒に来たらしい。今はソフト開発より筋トレにはまって、趣味はサーフィンなんだと
送信。
件名:なし
ってか、そもそもスティーブ・ジョブズすでに亡くなってるだろ!誰だよ!
流石に気づいたか。
件名:なし
だから、ジョブズだよ
ジョブズはジョブズ以外の何者でもない
件名:なし
あれ?そもそも最初に来たメールにスティーブン・ジョブズってあったか?俺が勘違いしてただけかよ!だったらせめてお前の姉さんの写真を送れよ!
…………。
件名:言っておこう
向日葵にこのメール見せるからな
お前が向日葵より姉さんに興味持ったって
すぐに返ってきた。あいつ以外にメール返すの早いな。あんななりで。まあ見た目でメール打つわけじゃないけど。
件名:すいませんでした
向日葵ちゃん一筋です。他の女の人に色目は使いません。でも、向日葵ちゃんのお姉さんなら俺にも見る権利あるんじゃないでしょうか?
無茶苦茶下手に出始めた。結論からして姉さん見たいだけなんじゃないのか?
仕方ない、あいつの熱意に負けた。送っておいてやろう。
一枚の写真を添付する。
件名:なし
これが姉さんだ
すぐに返ってきた。
件名:なし
これ、スティーブンじゃねえかーーー!!
さて、走るか。