思い出の地
7月20日。別の部屋からどうやったのか乗り込んできた姉に叩き起こされる。2部屋とっていたらしく、姉は別室。ともすれば、親父かな。もう一人は。
本当にどうやって乗り込んだんだ。マスターキーでも借りてきたのか。よほどの事態じゃないと借りれないはずなんだが。
姉さんは、何もありませんでした〜って、笑顔で送り返していた。
なんで見ているだけなんだって言われても、いきなり乗り込んできた挙句、みぞおちを正確についてきたからだ。動けない……。
「ほら、朝だぞ起きなさい」
「まだ……4時半じゃ……ないか……」
痛みに堪えながらなので、搾り出すように声を出す。
「え?だって、いつもこの時間には起きるでしょ」
「向日葵の朝練……の時……だけ……しかも……しばらくやって……ない……」
「あ〜愛花ちゃんと同棲してたんだっけ。高校生の分際でいいご身分ね〜。別れたけど」
追い打ちをかけるように言わないでもらいたい。これでも、反省してるし傷ついてんだから。
「早く行きましょ」
「まだ、早いだろ。あそこだって、自由に出入りできる場所じゃないし、お金こそ取らないけどさ」
「特別に六時から開けてもらえることになったわ」
「嘘こけ」
確か九時からだったはず。
「全く、冗談が通じない弟は可愛くないな〜。ひまだったら『本当⁉︎大好きお姉ちゃん!』ぐらい言って抱きついてくれるのに」
誇大妄想だ。実際、向日葵はそんなに姉さんに懐いてなかったろ。基本的にぼくと愛花のそばにいたし。
アメリカぐらしが長引いて妄想をこじらせ始めたか。
「まあ、それはともかく。ドライブでもしましょ」
「ドライブ?姉さん車あるの?」
「んーん。ないよ。でも、アテはあるから」
何やら電話してる。
外に出てなさいと、指示されると即座に車が前方からやってきた。あ〜たまたまだな。たまたま、この時間にここにたどり着いた観光客の人だな。
「ハッハ〜。ナイスミートゥー」
「な、ないすみーとぅー」
車からおりてきた男は握手を求めてきた。周りにはぼくしかいないので、ぼくに向けられたものだと判断し、握手をし返す。サングラスをしているが、かなり陽気な笑顔をしてるのが見て取れる。
「ミソラはどこ?」
「え?ミソラ?」
シドレド?
「やー、ありがとねー。ジョブス」
ジョブス?
「姉さん。アテってこの人?」
「そう。私のファンクラブの一人。スティーブン・ジョブス」
ん?
「姉さん。この人の名前、もう一度」
「スティーブン・ジョブス」
「あのアップル社創始者の?」
「それはスティーブ・ジョブス。名前そっくりだから色んなところで勘違いされるけど、これただのサーファー」
「ハハハハ!アップル社スゴイネー!ボクもツカッテルヨー!」
ポケットからスマートフォンを取り出して、アピールしてきた。トップは自分がサーフィンしてる写真。本当にただのサーファーのようだ。
「大学の知り合い?」
「そうね。この人は基本的にスポーツマネジメントについて勉強してるわ」
「姉さんは?」
「あー、いかに効率よく石油王と結婚する方法について」
そんなものは大学で勉強する必要はないだろ。
「ファンクラブなんてあるんだ、姉さん」
「羨ましいか」
「全く」
「可愛くない弟だなー」
「オトウト?アーユーブラザー?」
「イエス、アイアム」
「オー!ボク、ミソラのフィアンセデス!」
「姉さん。この人、婚約者気取りだけど」
「いいのよ。言わせておけば。他にごまんといるから、付き合いきれないし」
「だそうです。スティーブさん」
「オウ………」
本気で残念そうだ。
「マア、ノッテヨ」
割と日本語は喋れるようだ。姉さんと話すために勉強したんだろうな。
後ろの席に姉さんと乗り込む。
「ちょっと!タバコ臭いわよ!スティーブン!この車乗り換えなさい!」
「ムリダヨ〜。ファザーからのオサガリナンダ〜」
なんかもう少し流暢に喋れそうな気がするけど、なんだろう。この残念感。
「まあいいわ。夏だし。窓開けててもいいでしょ」
両側の窓を全開にする。外からの風は明け方ということもあり、まだ肌に心地いい。
「どこに向かうのさ」
「日本の夜明けを見に」
日本の夜明けぜよ〜 by坂本龍馬
「もしかして、滞在中、毎日やる気じゃ……」
「まっさか〜。今日だけよ。そのためだけにこいつ連れてきたし」
こいつ呼ばわりのスティーブンさん。しかもこのためだけって、今日中に帰るのか?
「スティーブンさん。この後の予定は?」
「トウキョー行って、アニメミテクルヨー。ニホンのアニメカワイイネ!」
どうやらこの人はこの人で、日本を楽しみに来たらしい。まあ、いいや。同じ日本ってことで、適当に引っ張ってきたんだろ。アニメ好きなら愛花と気が合いそうだな……。
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実に三時間ほどのドライブで元の旅館へ戻って来た。移動してる最中に辿り着かず、日が昇り切ってしまったため、スティーブンさんは姉さんにど突かれてた。車出しておいてもらってなんだけどさ。
ぼくたちを置いたあと、スティーブンさんは陽気に笑いながら何処かへ去って行った。ファザーからのお下がりって言ってたけど、どうやって日本に車持ち込んだんだ。あの外人は。
「ったく。明日徒歩で行けるところまで行って、朝日を見るわよ」
「今日だけじゃないのかよ!」
「あんなのなしよ!なし!まだ時間はあるでしょうが!」
もうめちゃくちゃだ。
「姉さんはいつまで?」
「あ〜。土曜には発つわ。こう見えても忙しいのよ。無理に一週間休暇取ったんだから。あ〜時差ボケ辛い……昼間で寝てくるわ……。私が起きたら一緒に行きましょ」
ふらふらと客室へ戻って行った。ぼくは、いったいその間なにしたらいいんだよ。
久々に会ったし、姉さんの写真を今のうちに撮って、向日葵に送ってやろうかな。
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「なんで姉さんはぼくの部屋にいるんだよ」
カウンターに自分の部屋の鍵を取りに行ったらないと言われ、戻ってきたら、方した布団を敷き直して寝てやがった。しかも寝付くの早すぎる。
「そういや、朝食まだだったな……」
どこかに用意されてるはずだ。食べに行ってこよう。姉は放置。昼まで起こさなくていいって言ったし。時差ボケは辛いよねってことにしておく。
こんなので見つけられるのかな、自分なりの恋の解釈というものは……。




