エピローグの私
誰か説明してください。
いったい何がどうなってこうなったのですか?
拐われて。
何か酷く苦しくて。
でも何故かは覚えてなくて。
目が覚めたら、首都の別宅の自分の寝室にいた私に、いったい何がどうなったのか教えてください。
洗脳されていた私は、後遺症からしばらく寝ていたのだそうです。
戦いが終わって半月もの間、時折呼びかけに応えるくらいで、意識はほぼなかったみたいです。
覚えていないけど、そうなのでしょう。
寝ている間、私の様子を多くの人が見舞いに来てくれたそうです。
まあ、一応城勤めで、交友関係もそれなりに広い私ですから、見舞い客が来るのもわかります。
目覚めても、まだ後遺症からか身体は上手く動かずベッドの上での生活なこの身の上。
話し相手は大歓迎です。
趣味の料理や裁縫をするのは止められて、時間はあるのに退屈でしょうがないのですから。
ですが、バカ王子がこうも頻繁に入り浸りなのは何ででしょうか?
毎回供の人が変わっていますが、出した茶菓子を完食するのは一緒なんですね。
え?アンジェリカが最近冷たい?
知りませんよ。夫婦喧嘩なんて。
下手に関わったら私が割をくうだけじゃないですか。
大体未婚の私に相談するようなことじゃないですよね。なんですか?自慢ですか?
大方、待てができなくて彼女の服を破ったりしたか、彼女宛のケイン君の手紙にしつこく嫉妬したんでしょう?
何でそんな事知っているかって?
あなたと入れ違いで、毎日のように訪れてくださる勇者様から直接聞きましたから。
「お帰りは、こちらです」
新しく雇った侍女が、呆然と固まるバカ王子の腕を引っ張り部屋の外へと追い出す。
結構怪力ですね。
「イレーヌ様、お客様です」
もう一人の従者たるジャックが、次の見舞い客を部屋に通す。
私に是非を聞かずに通すということは。
「今日も元気そうで安心したよ、イレーヌ」
私の婚約者様の登場です。
すみません。目覚めてだいぶ経ちますが、この現実が受け入れがたいです。
笑顔が、笑顔が眩しすぎます。
ああ、お願いです。ジャック。リア。
ニヤニヤ笑って部屋から下がらないでください。
二人っきりにしないで。
目の前でキラキラとまぶしいこの人と。
誰ですか、これ。
誰ですか、これ。
「前から思っていたが、イレーヌは髪を下ろしていたほうが似合うな」
そう言って、私の髪を一房持ち上げ唇を寄せてきましたよ。
本当に誰ですか、これ。
やめてください。
勘弁して下さい。
こちらに向けられる視線が、まるで物理的に私を絡めとりそうな威力を持っています。
「諦められないなら、手に入れるしかないだろう」
目覚めてからはじめてあった時、そう宣言されましたが。
まさかこんな意味だったとは。
「どうした?具合が悪いのか?」
普段は身長差で見上げなければいけない人に、逆に見上げられるとは。
と、いうか、わざとでしょう。その上目遣い。
分かっていて聞いているでしょう。
「な、なんでもないです。ですから、その、手を放していただけませんか?レオナルド様」
そう。
なんと。
この眩しい人が、レオナルドだなんて。
誰か嘘だといってください。
いえ、顔形が変わっているわけでも、別人と言うわけでもないんです。
レオナルドなのです。
目覚める前と変わったのは、爵位を賜ったという点だけで。
ですけど、何で婚約者なんですか?
無駄に色気を垂れ流して迫ってくるんですか?
「ん?嫌か?」
嫌じゃないですよ。
髪の毛くらい触られたって、別にどうということでは。
あああ、だから近い、近い、近いですって。
無理です。胸がバクバク言っているのが聞こえてしまいそうです。
心臓がこのままじゃ持たない。
誰か!!私にどうしてこうなったか説明してください!!
これにて本編完結です。
書ききれなかった蛇足部分は、番外として後日ゆっくりと書きたいと思います。
●イレーヌ
「ゲーム」中ボス
主人公に嫉妬し、敵対する高慢な少女。
日々苛烈になる魔王の侵攻から身を守るため、魔に寝返る。
自身の領地に訪れた主人公を罠にかけるが、返り討ちにあう。
魔に染まっていたため、魔族化し、母親に手をかけ復活。再度、主人公を襲う。
しかし、結局は主人公に倒される。
ゲームとしては主人公が、最初に殺すことになる人間という存在。
「本編」
リオネルとの出会いで、前世の知識(主にゲームに関して)を思い出す。
原作のような結末を迎えたくないと、努力を始めた。
他人に勘違いされやすい顔なのだが、感情表現の問題なためいまいち改善できていない。
下手に前世知識がある為、情緒面の成長は歪なものになった。
成長するに連れ、ゲーム知識は朧気なものになったが比較対象がないので気づいていない。
レオナルドに関しては、一目惚れに近いが、ゲームの攻略キャラ=アンジェリカの恋愛対象=自分の恋愛対象外、という意識が働いて自覚していなかった。




