8 ほんの些細な事
俺は、自分の生い立ちをオベールさんに包み隠さず話す事にした。
俺が地球と言う異世界で死んでしまい、それがきっかけでこの世界に転生したこと。
その際、女神様から一つだけ願い事を叶えられると言われ、枯渇しない無限の魔力をお願いした事。
前世の記憶をそのまま受け継いで生まれてきた事。
これらの話がこの世界の人間からすれば、荒唐無稽であるにも関わらず、オベールさんは熱心に聞いてくれた。
シエラも、自分の思いをぶつけるようにオベールさんに生い立ちを伝えていた。
自分はお兄ちゃんに助けられた。
だから、お兄ちゃんに何としても恩返しがしたい!
お兄ちゃんがいるから、幸せになれる!
お兄ちゃんの事を守れる妹でありたい!
力説しているのを聞いていたら、何だか照れくさかった。
「二人ともそんな体験をしてきたんだね。いきなり慣れない世界の住人になってしまい大変だったろうね」
意外な反応だった。
荒唐無稽な話だ。
なかなか信じてくれと言っても難しいと思うんだけど。
オベールさんは何か不思議な眼光を持つ人だった。
嘘が通じないし、嘘がつけない人なのだ。
持って生まれた純粋さなのか、育った環境でくもりのない眼になったのか。
偽りのない綺麗な瞳だった。
「俺達の話信じてくれるんですか?」
「疑うくらいなら、最初から聞いてないさ。君達の目を見れば全てが嘘偽りない事が分かるし、君達が大人びた話し方をする事にも合点がいく」
「すごい。お兄ちゃんの言う通り、わたしのお話までバカにしないで聞いてくれた。オベールさん、ありがとうございます」
「いや、それよりもユーベル君が当初あれだけ魔法の資質を気にしていた理由も分かったしね。逆にそうなると、ユーベル君に魔法の資質が全くないのはおかしいって事になる」
「え? どういう事ですか?」
「考えてみてごらん。女神様は、間違いなく君の願いを叶えている。シエラちゃんの願いが叶っている事を鑑みると、無限の魔力はあるはずなんだ。魔法の資質自体がないなら、どうあがいても、無限の魔力どころか、魔力自体が君には全く通っていない事になる。身体自体が魔力を拒絶しているって事になるんだ。もし君達の言う女神様が本当に願いを叶えてくれているのなら、ユーベル君、君の身体には、龍脈のような状況で常に身体に魔力が巡り巡っている事になるんだ」
「俺の身体に魔力が? 魔力自体は流れているのか……適性属性がないから魔法としては使えない……か」
「判然としないかい? 女神様は必ず願いを叶えているようだしね。僕にはシエラちゃんのお願いの方が、難しくて途方もないように聞こえたけどな」
シエラの願い……俺に会ってお礼を言いたい。
「……そうか、シエラ。ごめん。もしこの世界がすごく危険な世界なら、俺がお前を危険に巻き込んでしまった事になる。おそらく女神様は、幾多ある世界から俺のいる世界だけを抽出し、しかも必ず俺に会えると言う設定を作ってくれたんだ」
「わたし、後悔なんかこれっぽっちもしてないよ。わたしのお願いは、あなたに会ってちゃんとお礼を言う事。あなたに会えるなら、そこがどんな所だろうと構わない。だから気にしないで。女神様は、この途方もないお願いを叶えてくれたの。わたしにとってはこれはどんなすごいチート能力よりも、必要な事だったの」
「シエラちゃん。君は聡明だね。そして、ここは残念ながらかなり危険を伴う世界だ。だから君は、ユーベル君を助けられるよう魔法が使えるようになりたいんだよね?」
「はい、わたしはお兄ちゃんの支えになりたいんです! だからここにいます」
「……シエラ」
俺は、シエラの決心の強さに驚いていた。
俺に会いに行く、たったそれだけの事だ。
でもたったそれだけの事の為に彼女は2回目の人生を全て捧げた事になる。
もう戻る方法などないのだから。
それどころか、彼女は俺の支えになりたいとまで言っているのだ。
俺は、シエラにこれから何をしてあげられるのだろうか?
「ユーベル君、現実に引き戻してしまい、申し訳ないが、はっきり言ってここは危険と隣り合わせの世界だ。もし、シエラちゃんに魔法の資質があるのなら、早い段階でそれを咲かせてあげるべきだ」
「すごい。オベールさん。わたしの考えが読めるの?」
「僕は聖職者だけど、さすがに読心術の心得はないよ」
こうは言ってるけど、オベールさん、本当に俺達の考え見透かしてるようなんだよな。
「じゃあ、オベールさん、わたしの魔法の資質調べてください。多分、お兄ちゃんと同じで適性は出ないとは思いますが」
まあ、普通に考えればそうだろうな。
俺もシエラも同郷の日本人なのだから。
「準備は出来ているよ。そうだね。今までの話の流れから言ってシエラちゃんにはユーベル君同様、適性属性がないと予想出来るのだけど」
「シエラが魔法使えなくても、俺の剣があるから」
「あはは、ユーベル君、ハンスみたいな事言うんだね」
「毎日、長い時間、剣と父さんしか見てなかったせいか、似てきたのかな」
「やだ~。お兄ちゃんはあんな野蛮人になっちゃいけません」
「……あはは、散々な言われようだな。この通りすっかり嫌われちゃってるみたいだよ。どうするよ? ハンス!」
「えっ?」
その刹那、診察室のドアが開いて入ってきたのは、頭を掻いて苦笑いするハンスだった。
「父さん!」
「野蛮人……じゃないパパ!」
「やっぱ気付いてたか、オベール。いやな、驚かせるつもりはなかったんだ。ここんとこ特にシエラの表情に迷いが出ているように感じてな。今日は狩りに行くと母さんに言って、こっそりついてきたんだ。ほんとすまん」
「父さん、俺たちの話聞いてたんだよね……」
「パパ、ごめんなさい。わたしこんなつもりじゃ……」
「二人ともよく聞くんだ。俺はともかく母さんの事は信じていなきゃ駄目だ。何があっても絶対にだ。
母さんなら、俺の選んだマリアンなら、大丈夫。何も心配はない」
「父さん……」
「パパ……」
「ついでに俺なんだが、どうやらお前達二人とも異世界から来たバケモンなんだろ? たったそれだけの事じゃないか。お前達が一体何だろうが俺とマリアンの命より大事な子供だ。それ以上でもそれ以下でもない」
父さんはもしかして何か気付いていたのかもしれない。
それでも気付かないふりをしてくれていたのか。
俺達がいつか言い出してくれるのを待って。
「父さん、ごめんなさい。一番先に話せなくて」
「いいさ。オベールは試しに秘密を話す実験台には最適だしな。オベールにとってはさしずめ懺悔室で聞く懺悔と大差ないんじゃないか?」
「ひどい言いようだな。だけど、今回はハンスの言う事が正しいよ。ハンスにとっては君達兄弟の秘密なんかほんのささいな事なんだ。大事なのは君達があの英雄ハンスとマリアンのまぎれもない子供であり宝物だという事だ」
「……パパ! ごめんなさい! ほんとはね、わたしだってパパが大好きなんだよ! お兄ちゃんにたくさん怪我をさせるのはマイナス100点だけど、いつも遊んでくれて元気づけてくれてママも大切に出来るところは100点満点だよ!」
プラマイ0って事か。
そうは言っても感極まったシエラは、ハンスに泣きついていた。
本当に可愛い妹、そして偉大な父親。
俺は最高の家族の元に生まれてきたんだ。
改めてそう思った。




