18 目立ちたくない
剣の柄に手をかけた。
やはり、この剣が手に馴染む。
自前だ。
自前と言うのは、俺自身が造りあげた正真正銘の自前である。
移動するにも、武器を持たなければ邪魔にならず、実際はメリットだらけ。
この謎のスキルは、一体何なのか?
やはり、気になって仕方ない。
――さて、気を集中して。
剣を抜き、振るった。
そして再び鞘に戻した。
……あれ?
手応えがない。
「ユーベル君、どうかしましたか? 受験生も多いので早くして下さい」
しかも、試験官には、抜いた動作すら認識されてないのか。
まあ、平民の扱いなんてそんなものだよな。
確かにこの編入試験には、各地の貴族学園の中でも選りすぐりが来ているのだから、試験官も自ずとそちらに目が行くわけで。
手応えと言うか、今初めてこの剣の真価を知ったのかも。
――刹那。
オリハルコン製の強度を持つ円柱に、横一閃斜めに亀裂が入り、上部がずり落ちてきた。
轟音と共に巨大な砂埃をあげ、視界が戻った頃には、3人いる審査員の人達も呆然としていた。
豆腐を切るような感覚だった。
そういえば、この魔力の集合体の剣、偶然の産物だったのだけど、父さんとの稽古にしか使ってなくて、肝心の切れ味は試してなかった。
父さんの闘気を纏った真剣には、重さが乗っていて、この剣にもしっかり手応えとして受け止められていた。父さんってやっぱり凄いんだ。
今更ながら感じたのだった。
受験生皆壮絶としていた。
円柱に傷をつけるどころか、それごと、ぶった斬ってしまったのだ。
思い切り目立ってしまった。
「ありがとうございました」
審査員席に一礼した。
とりあえず何もなかったように立ち去ろう。
あの円柱一体幾らするのかな?
後で、損害賠償請求させられるんだろうか?
何事にも限度はある。
ある程度傷を残し、少しばかり歓声が上がり、去りゆくはずだった。
それが、試験官は俺の抜刀にすら気が付かず、審査員ばかりか、受験生全員を驚愕させてしまったのだ。
これで威力を制御出来なかったから、失格とかになったら、悔いは残るのだろうか?
それより、快く送り出してくれた両親と、シエラ、家庭教師役を買って出てくれたオベールさんに申し訳が立たない。
どう判定されるか分からないけど、待つしかないか。
合否発表は、翌日だ。
遠くからお金や、時間をかけてきている受験生も多い為、この早い対処はやはり助かる。
リーゼの方はどうだろうか?
心配になった俺は、魔術専攻の会場へ、足を運んでみる事にした。
会場では、まだ30人ほどの受験者が残っていた。
現在進行しているのはある貴族の女の子。
ピンク色の髪でやはりリーゼよりは、気品に満ちた目をしている。
魔術専攻は、まず得意な属性の魔法を申告し、それに伴う魔法を使い審査されるというものだ。
試験基準は出力、状況判断、詠唱のスムーズさなどだ。
どうやら彼女は火と水が申告属性のようだ。
火はまず20メートルほど先の的に火魔法を当てるというもの。
念入りに詠唱し、ワンドを振りかざし飛ばした火球はバスケットボールほど。
へ~。
かなり大きい。
他の子の試験は見ていないけどこれはかなり頑張ったんじゃないだろうか。
的も的確に捉え、深呼吸をしている。
「マリーナ君、では続いて水魔法を」
「はい」
間髪入れずに水魔法のゾーンへ。
連続で使えるかも試験に入っているようだ。
水魔法はどの程度の水を産生出来るか、または火魔法と同じく水球を作り出し的にあてるという試験のどちらかを選択するようだ。
この子は水を産生させる方を選んだようだ。
前世で言う25メートルプールというところだろう。
そこに向けて水魔法で水を産生する。
単に出力を試験されているようだが、水に関してはこの出力が重要な要素らしく、産生量が多いほど応用に有利となるみたいだ。
マリーナと呼ばれた子は、やはり念入りな詠唱。
ワンドをプールに向けると、どぼどぼ水が湧いてプールを満たしていった。
プールの8割ほどまで水が満たされた。
彼女はぜーぜー言っている。かなり頑張った方だろう。
正直、貴族は頑張るのが苦手、息を切らすことは恥ずかしいなどと変な先入観があったのだが、彼女は違ったようだ。
周りは頑張りを称え、拍手をしている。
意外に良い人たちの集まりなのかもしれない。
俺も平民風情がなんて目で見られてもないもんな。
3人いる審査員も何やら頷きあっている。
好感触のようだ。
俺は魔法は使えないが、こういったものは参考にはなる。
俺も思わず拍手していた。
それから、3人ほどの受験生の試験を目にしたが、マリーナ嬢ほど卓越した者はいなかった。
リーゼはいないところを見ると、既に試験は終了し、宿に向かったのだろう。
俺は踵を返し、会場を後にした。
――その刹那、会場を出たところの控室だろう。
ちょっとした休憩所があり、そこから何やら男女の会話がダイレクトに聞こえてきた。
言い争い?
女の子の声が特に張り詰めた感じだ。
そういえば、前世でも同じような状況なかったか?
俺の警戒心が警鐘を鳴らしている。
――関わってはいけない!
関わったら大変な事になるぞ。
控室のドアは閉まっている。
今回は明らかにストーカーとかそういう類ではない気がする。
だから、このまま過ぎ去ろう。
その刹那。
「待ってくれ! マリーナ! 早まってはいけない!」
マリーナ?
さっきの頑張った女の子だよな。
男の方の声が裏返っている。
何かよろしくない状況が起きているのでは?
マリーナがナイフを持って……とか?
まぁ、待て。
早とちりは俺の悪い癖だ。
もう少し静観しよう。
いけないと思いつつも、俺はその場を動けず、控室内部からの声に聴き耳を立てていた。




