17 実技試験
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです!」
と言いつつ、彼女の眼はメニューのスイーツに向いていた。
可愛い眼がこの時ばかりは獲物を狙うライオン並みに鋭くなっていた。
やっぱり食べたいのかなぁ。
「分かったよ。好きなデザートどうぞ」
「えっ? いいのですか? こんな食べさせて頂いたのに、こんなずうずうしく……」
こうも子猫のような目で見られちゃなぁ。
リーゼは、すかさずチーズケーキとマンゴープリンを頼んでいた。
また二品か。
「で、話の続きなんだけど、編入試験は明日まであるから、今日も寝床がないんだよね?」
「……一文無しなので」
俺はある程度余分な持ち合わせはあったが、さすがに宿を二部屋にしてもらうとなると、かなりの負担だ。
「あの~。お部屋はわたし床でも大丈夫ですので、気にしないでください」
「ごめん、二部屋は確かにきつかったけど、女の子を雑魚寝させるわけにはいかないよ」
「でも。もともとわたしが悪いんですし」
「とりあえず、今日はコンディション最悪での筆記試験だったから、疲れているよね?
部屋にシャワーあるから、先にどうぞ」
部屋の鍵を渡した。
「本当に何から何まですみません。あのユーベル様は?」
「あ、俺は外で明日の予行練習しておきたいから、しばらくしてから行くよ」
おかみさんに事情を話したところ、料金の割り増しはなしで良いとのことだった。
変な目で見られないか心配したけど、お人好しだね~と言われただけですんだ。
平民に優しい宿で良かった。
明日の実技試験は武術専攻も、魔術専攻もまだ非公表だ。
まあ、分かってたら対策がとれちゃうし、本当の実技とは言えないしな。
よくよく考えたら、出来る事ってそこまでないか。
ある程度時間がたったので、部屋へ向かった。
ノックした。
……返事がない。
ゆっくりドアを開けて入ってみた。
「おじゃましま~す」
まあ俺の部屋なんだけどね。
あれ? リーゼはシャワーは浴びたらしく服も来ていたが、髪が濡れたままベッドで寝息を立てていた。
よっぽど疲れていたんだろうな。
編入試験は一度きりだ。
お金を落として受けられなかったなんていったら、一生後悔しそうだし、助けられて良かったよ、ほんと。
俺はリーゼを起こさないよう、濡れた髪をタオルでふき取り整えておいた。
まじまじ見ると、いいところのお嬢様のようにも見えなくはない。
とりあえず、これで彼女は明日体調万全で臨めるだろう。
俺も家族の期待を一身に受けているのだ。
早めに休むことにした。
――翌日。
「ユーベル様! ユーベル様!」
「おっ。早いね。疲れとれたかい?」
「すみません! ベッド占領しちゃって」
「いや、そんな事いいから、そろそろ支度しよう」
「はい」
朝はやはり備え付けの食堂で二人で食事をとった。
おかみさんが何を勘違いしたのか赤飯をサービスしてくれた。
さて、いよいよ実技試験だ。
「リーゼ。君は武術専攻? 魔術専攻?」
「わたしは魔術専攻です」
「そうか、俺は武術専攻だから、ここまでだね。合格できるよう頑張ってね」
「はい! このご恩はいずれ必ず……」
とりあえず、明日合格発表があるので、もう一泊宿はとってある。
終わったら、宿に来るよう言ってあるので大丈夫だろう。
俺は武術専攻の試験場であるグラウンドへ向かった。
実技試験は、平民も貴族も一緒に行われるようだ。
平民は15人ほど、貴族は50人ほどだ。
武術専攻となると、やはり女子は少なめだ。
いよいよ実技試験の説明が始まった。
まずグラウンドに直径1メートル程の大きな円柱と、直径50センチほどの的が運び込まれた。
両方とも、超硬質のオリハルコン製だと言う。
円柱に対しては、近接戦闘用の武器を用いて、一撃でどれだけ傷がつけられるか?
的に対しては、30メートル離れた地点から、弓矢を用い、1本の矢で同じくどれだけ傷つけられるか?
弓矢に関しては、より精度の高いエイミング能力が要求される。
勿論、近接戦闘用武器の方が威力は勝るため、その点は加味される。
どちらを扱うにしろ、試験官により強い印象を植え付ける事が求められるだろう。
得意な方を自由に選べる方式だ。
人数が65人ほどいて大人数の為、チャンスは一撃、または矢一本だ。
名前がランダムに呼ばれていった。
7割が剣を選択したようだ。
剣は、アカデミー備え付けの物もあるが、大半は自分の愛刀を持参していた。
特に貴族はこだわりがあるだろう。
最初に名前が呼ばれた男性は貴族のようだ。
剣を構え、息を整えると、円柱に向かい剣を薙ぎ払った。
鈍い金属音がした。
おっ!
一応申し訳程度の傷が、円柱についていた。
ただ彼は苦悶の表情を浮かべている。
オリハルコン製は、伊達じゃないって事か。
ただし、俺が見た所、やはり構えに隙があり、剣の角度も改善の余地が見え見えだった。
貴族の振るう剣、優雅だと言われるがこんなもんなのかな?
次は、貴族の女の子。
髪を後ろに束ね、貴族ではあるが質素な装いだ。
白銀の弓矢を持って登場した。
ミスリル製なのか。
見た目は美しく羽のような装飾が施されているが、軽量で扱いやすいようだ。
矢の引き絞りがたどたどしい。
それでも、30メートル先の的の隅を捉えた。
本人は、飛び上がって喜んでいる。
会心の出来だったのかもしれない。
そして、ついに俺の名前が呼ばれた。
「ユーベル君、では競技を申告して」
俺は、既に帯刀していたので、
「では、剣でお願いします」
試験官に告げ、円柱の前に降りたった。




