15 炎の弓、氷の槍
「師匠、お兄ちゃんの家庭教師まで引き受けちゃって大丈夫なんですか?」
「僕の考えが正しければ、ユーベル君は前世の世界ではではこちらと違い、かなりの高等教育を受けていたようだし、試験での一般教養部分は簡単すぎるくらいに思えるだろうね。だから念のための知識のすり合わせくらいで十分だろう。問題は専門知識だ。これは編入試験であるから、中等部の内容は全て履修済みであるとみなされているわけだ。ここに関してはユーベル君はその3年分すっぽり抜けた状態だ。どうしても補完が必要になる。ただし試験まで3か月ある。いけると思うんだ。マリアンさんの息子であるならば」
いや、ハンスの息子でもあるんだけど。
ただし、挑戦したい気持ちは高まった。
「父さん、母さん、出来るだけオベールさんには迷惑かけないように独学して、分からない場合は聞きに行く程度で一生懸命やってみるよ」
「お兄ちゃんなら大丈夫だよ」
「お前がそこまで言うなら止めはしないさ」
「オベールさん、息子の事よろしくお願いします」
翌日からは俺に日課に父さんとの稽古の他に、受験勉強が加わった。
問題集などは、オベールさんが全て手配してくれた。
本当に何から何まで申し訳ない。
絶対、特待生枠で合格して期待にこたえなければ。
受験勉強であれば、一応は頑張って一度は大学まで受かった実績があるのでコツは掴んでいる。
転生前は理系に進み、一夜漬けなどを駆使し、高校3年生ではクラス上位の成績に顔を出したほどだ。
将来のビジョンなどは浮かんではいなかったが、薬関係の研究職に進みたいと思い、薬学部を目指した。
倍率は高かったが、浪人もせずに何とか受かる事ができたのだ。
ただし、両親に学費は全て自分で稼ぐからと啖呵を切ったはいいが、薬学部は思っていた以上に毎日が忙しく、実験が遅くまでかかるので、バイトにまで注力出来なかった。
だが一度面接に受かったバイトは続けたい。
そう思うようになり深夜バイトから始まり、ある程度取得単位に余裕が出たら、その時間枠にバイトを入れるようになった。
結果、何故か大学とバイトの割合が逆転していたというわけだ。
結局何が言いたいのかと言うと、俺は意外なところで頑張れる才能があるという事だ。
やりがいが更に増えたからなのか、父さんとの稽古もより苛烈になってきた。
父さんはどの修行も木刀でなく真剣になった。
俺の能力に関しても、より精密な制御が可能になってきたようだ。
最近は俺は自前の魔力の集合体の剣で稽古をしている。
このメリットはかなり大きい。
まず武具は消耗品だ。
父さんの剣もレアリティの高い代物だが、永年使えるわけではない。
父さんほどの剣豪でも、うまく持たせることはできても永久に使えるわけではない。
俺の魔力の剣なら、意識すればいつでも出現させることが出来て、勿論劣化もない。
剣を持っている限り、俺の身体から直接魔力がいきわたっているようで、突然消えてしまうこともないので、完全に剣として機能している。
次に組成が魔力なので、強度を俺の意思で自由に変えられる。
出発点は父さんの真剣を模して出来た剣だったが、何も現物がなくても想像するだけでそれに近い造形の剣が出来てしまうのだ。
ただし、俺の想像力が乏しいのか、強度は良くても色は泥色だったりするのだが。
おそらくゲームでいう熟練度のような隠しステがあるのかもしれない。
何としてもやはり未知の能力。
しっかりメカニズムは解析しておきたい。
入学出来れば、解明のチャンスが必ず訪れると信じている。
最近はオベールさんの手伝いから帰ったシエラが家であらゆる魔法を試している。
俺の家は、村の中でも郊外なので、魔法はかなり大っぴらに使用可能だった。
シエラは近頃土魔法にはまったらしく、農園に行き、畑に向かい手をかざしている。
土魔法で農作物が異常な速さで成長するのが楽しいからだそうだ。
ドレインタッチによる魔力制限をかけていない時、一度、土魔法で豊穣が期待できると聞きつけたシエラが畑に魔法をかけた事があったが、その時は、魔力量が多すぎて農作物全てが過度に成長しすぎて、味に問題が出たばかりか、全て1日で成熟してしまったため、5日連続で3食カボチャづけの時もあった。
だが今は保持魔力量を20%にまで制限している。
これで十分だからだ。
そして魔力保持量2割でも、数トンは水を出せるようだ。
この水は飲めるため、サバイバルには適しているかもしれない。
シエラにとっては一番使い勝手がいいのが20%くらいらしい。
そこが確定したので、これからは徐々に魔力保持量を戻していき、最終的に100%の魔力を持たせても、20%時の効果を随時発揮できるよう身体に覚えさせていく寸法らしい。
戦闘転用されそうな魔法は、極力使いたくない。
ここは徹底しているようで、俺としても妹が危険の矢面に立たされるような状況はどうしても避けさせたい。
そういう役目は俺だけでいいのだから。
編入試験が間近に迫ったある日。
俺は既に16歳、シエラは12歳になっていた。
筆記試験も近いという事で、オベールさんが診察後に出張って家庭教師にきてくれた。
「ユーベル君、大分試験対策は万全になったね。ある程度はやまをはる必要があるかもしれないけど、大筋は抑えられたと思う」
「オベールさんのおかげです。ありがとうございます」
「お兄ちゃん、師匠、お疲れ様」
シエラがお茶とケーキをもって部屋に入ってきた。
「もうすぐ編入試験だね。わたしもドキドキしてきた。今日も教会でお兄ちゃんが受かりますように! ってずっとお祈りしてたんだよ。きっと特待生でいけるよ」
特待生枠はたったの4人。
大きく武術専攻と魔術師専攻に分かれるが、それぞれ2人ずつだ。
編入後は、柔軟な対応が受けられるようで、例えば武術専攻であっても、パーティー戦等に有利になるよう魔術学科の科目も受けられるようになる。
将来、パーティー戦での活躍を希望する生徒は、前衛後衛両方の特性を理解しておく必要があるからだ。
俺としても、このアカデミーに入学できるという事は、自分の未知の能力の解析以外にも、自分を高められる場だと楽しみにしていた。
「ユーベル君、ちょっと息抜きに外に出ないかい? ちょっと試してみてはどうかってこと思いついてね」
俺たち3人は満天の星空の元、庭に降り立った。
「で、試したい事って?」
「炎の弓矢、氷の槍を出現させてみて欲しい」
唐突だな。
いつもは詳しい説明から入るのにな。
「余分な予備知識なしでやってみてほしいんだ」
炎の弓、氷の槍……この手の武器は前世のゲームで腐るほど見てきている。
俺はじっとイメージを固めた。
――刹那。
俺の右手には轟轟と燃え盛る炎の弓、左手には凍てつく氷河を彷彿とさせる氷の槍が握られていた。
「お兄ちゃん、凄い! 熱くないの? 冷たくないの?」
「ん~。大丈夫みたい」
「やっぱり出来たか。火属性でも水属性でもないわけだから、暑くも冷たくもないのは当たり前だよ。見た目だけだから。ただし、膨大な魔力の集合体だ」
「これって……」
「遠距離用武器にもなるって事さ」
「炎と氷にしたのは?」
「かっこつけ」
「……」




