11 謎の剣
夕飯は、母さんの渾身の料理だった。
俺もシエラも大好きな朝家畜のニワトリから採取した新鮮な卵で作られたオムレツに、農場からの採れたてのキャベツを使ったロールキャベツ。
今夜は特に品目が多く、活力みなぎるメニューだ。
前世の高級レストランの味にも引けをとらないご馳走だった。
「……すごい! 母さんの本気の愛情食べられて、本当に幸せだ」
言葉が他に見つからなかった。
それほどの味だった。
「マリアンさん、ハンスと結婚して更に腕上げました? この味は流石にハンスが羨ましいな」
「オベールさんもいらっしゃる気がしていましたから。この村の教会にあなたがいらっしゃって、本当に助かります」
後から聞いた話によると、母さんを決死の覚悟で救った父さんが気絶した後、たまたま教会の巡業中通りかかったのがオベールさんだそうだ。
気絶しながらも、なお近づく者を排除しようと剣を出す父さんに対して、正気に戻すのは容易ではなかったようだったけど。
ただし、オベールさんは、父さんの男気と剣捌きの華麗さに惚れ、父さんの相棒となったそうだ。
父さんは、母さんを見放したギルドにそれ以上所属は出来ないと、行方をくらまし、この辺境の村アイラにたどり着いたそうだ。
そして、父さんの横には愛し合う母さんがいた。
もうわだかまりのなくなった我が家の夕食は、最高の思い出になった。
――そして、また月日は流れ、俺は15歳、シエラは11歳にまでそれぞれ成長していた。
「母さん、ただいま、今日は、極楽鳥狩ってきたよ」
最近は父さんの代わりに狩りに出ることも増えた。
周辺ではワイルドボアの他にも、極楽鳥という肉質が格段に美味しい魔物もいる。
炎のブレスが厄介な大物だ。
極楽長は巨大過ぎるので、既にナイフで解体済みだ。
「ユーベルありがとう。そういえばお父さんが探していたわよ」
父さんは、自体の牧場でニワトリのエサやりをしていた。
最近は、俺が大物を狩ってくるので、父さんは比較的時間がとれるようだった。
「お? ユーベル、来たか。極楽鳥手強かったか?」
「いや、そうでもないかな。とりあえずホバリング状態の時、焦れったいから剣を投げつけたんだ」
「戦術としては50点だ」
「え?」
空中の魔物は、はっきり言って剣士では相性が悪い。
極楽鳥は地上の対象に向かって炎を吐くため、比較的低空でホバリングする。
そこを剣の投擲で絶命させるのだ。
「もし、その1回の投擲で仕留めきれなかったらどうする。または、気配感知をかいくぐれる背後からの魔物と極楽鳥が共闘していたとしたら?」
「まずは周囲を確認しろ! 戦術を考えるのはそれからだ」
俺にはまだまだ実戦が決定的に足りないらしい。
「ただそうは言っても、剣を弾かれる、又は投擲を交わされる、そう言った事は熟練の剣士でもある」
「確かに今日は一撃で仕留められたから、良かったけど」
「だから、今日は、剣を弾かれ、手ぶらになってしまった時の稽古をしようと思う」
そういえば、以前父さんは、人の強さは決して剣では推し量れないと言っていた。
剣に頼るな!
強さは、窮地の際の地力に左右されると言う事かもしれない。
「俺は、今日も剣を振らせてもらう。真剣でだ。実戦形式でないと意味がないからな。お前はその時、どうするのか? 覚悟はいいな?」
いえ、出来ていません。
いつも剣ありでなんとか凌いでいる、父さんの剣戟を剣なしで対応するなんて。
しかも真剣かよ。
死ねるじゃん……
「さあ、行くぞ。もう初撃の技の宣告もなしだ」
恐ろしい。
父さんは一体何のスイッチが入ったんだろうか?
何とか初撃は、剣閃の角度から交わす。
そして、次は切り返しからの突き上げ……
フェイントだった。
恐ろしい速さで振られる剣の軌道を自由自在に変えるとか、チートもいいところだ。
父さんは、突き上げ技をすんでの所で手首を捻って胴凪に切り替えた。
まずい、対応仕切れない!
剣が欲しい!
……剣が欲しい!
うわっ駄目だ。
……ガキーン!
周囲に甲高い金属音が鳴り響いた。
「なっ! ユーベルお前その剣どっから出したんだ?」
父さんが珍しく慌てている。
それもそのはず、当の本人ですら何が起こったのが分かっていなかったから。
俺の右手には、父さんの真剣と同一の剣が握られ、剣戟を受け止めていた。
どうして俺の手に剣が?
「父さん?」
「ユーベル、すまん、すんでのところで峰打ちにするはずだったんだけどな。つい力が入って、大惨事になるところだった。胴真っ二つとかホラーだな。ごめんさい」
謝り方!?
確かに俺も完全に危険を感じた。
ただし突然出現したこの剣は一体?
よく見ると、デザイン形は父さんの持つ剣と一緒だけど、陰影がユラユラ揺らいでいるようだ。
「じゃあ、合格じゃないけど合格!」
判定微妙だな。
「父さん、これって?」
「分からないな。ちょっと貸してくれないか?」
俺は、剣を渡そうとしたのだが、俺の手から離れた瞬間綺麗さっぱり消失した。
「どういう事? 何かの魔法かな? でも僕は適性属性ないはずだよね?」
「もう一度出したり出来るのか?」
あっ! その手があった。
俺はさっきの窮地をイメージした。父さんが勢い余って俺を真っ二つにしてしまう……その状況を脳内へ練り上げ、剣が欲しい!
剣さえあればと必死に願ってみた。
――その刹那、俺の右手には剣が握られていた。
「これはオベールさん案件って事?」
「あいつしか分かりっこないだろう」
俺に聞いてどうするって顔をされた。
「じゃあ、早速オベールさんの所行ってみるね」
「俺も今回ばかりは気になるから、付き合うよ」
正に父さんが仕出かしたミスから生まれた不可思議だった。




