1 魔力が欲しい
今日も大学へ行くのが億劫だ。
行くのが?
いや、もうそんな次元ではない。
しばらく行ってないし。
学費と生活費を貯める為、バイトに明け暮れたら今度は、バイトがメインの生活になってしまったのだ。
一人暮らしを始めたはいいが、実際こんなに苦労するとは思ってなかった。
そんな俺は、西野隼人。
今年辺境の大学へ進学した18歳だ。
裕福ではない家庭環境もあり、大学の授業料は自分で稼ぐからと言って何とか一人暮らしを許してもらったのだ。
奨学金に頼る事も考えたが、あいにく返済義務のない優等生枠ではない。
だから、奨学金制度は利用したものの就職したらきつい返済が待っている。
これは俺の概念から言うとリスキーだった。
社会人になったからと言って、ずっと五体満足で返済を頑張れるか? と言ったら確証がないから。
だったら大学通いながら、一生懸命バイトで稼ごうと決めたのだ。
高校では弓道部に所属し、少しばかり名は知られていたので、そこで身に着いた忍耐力は自信がある。
そういった経験はバイトに生かせるかなと思い、頑張る決心をした。
そして、その結果がバイトの傍ら、大学へ通う……いやしばらく通ってすらなかった。
しまった……これじゃ本末転倒じゃないか!
まあ、明日は絶対大学行こう。
明日はちょうどバイトは1か月ぶりに休みだ。
あー、そういえば、コンシューマーだけどやりっぱのRPGゲームがあるんだった。
今日は夜気長にリラックスしながら進めよう。
かなり設定もいい加減なRPGだ。
だけど自分のペースで進められる。
時間がほとんど自由にならない俺としては、ネットで人と関わって時間を作るMMOゲームは適さないのだ。
あっ! またやばい状況じゃん。
もうこのボス5回目なのに。
結構強力な魔法は習得したが、魔力量がそれに見合わずすぐに枯渇してしまうのが致命的だった。
せめて魔力が枯渇しなければ、このレベルでもいけそうなんだけどな。
あ~、これで全滅5回目か……
シエラ……ごめんよ。
5回も死なせてしまった。
このパーティーで唯一の推し。
AI担当だが、たまにここぞと言う時、彼女のターンで″シエラはハエ叩きに没頭している″などと、無駄な行動を起こすが、優秀で才色兼備な聖女だ。
俺は特にこのおとぼけ聖女が大好きで、彼女に最もいい装備を与えていた。
回復役に無駄な投資などとは全く思わない。
歩く回復薬だとも思わない。
この世界可愛いが全てだから。
そうだ! 少し散歩がてらコンビニで買い物でもして気分転換してから、もう一度挑もうか。
そして俺は夜間の寂しい道を歩いた。
……連携も悪くない。
装備も属性対策で的確。
シエラのハエ叩きターンつぶしも織り込み済み。
やはりあとは火力。
強力魔法があと2~3発放り込めれば……やっぱ魔力量なんだよな~。
そんな事を考えていると、30メートルほど先に若い男女が言い争いをしている現場に出くわした。
痴話げんかかな……こんな夜遅くに近所迷惑考えてほしいな。
ふと男の方へ目をやると、やばい、あいつ包丁持っている。
目が血走ってるような感じだ。
逆上したような感じで行動が読めない。
まずい、これよくニュースになる痴情のもつれ系のあれ?
ただ見た所、女性の方はかなり若く15歳前後に見える。
痴情のもつれが作れるほどの年齢ではない気がする。
女の子は怯えているようで、さっきまで大声で言い合いをしていたのが嘘のように怯んでしまっている。
この光景を見てしまったからには、見て見ぬふりは出来ない。
咄嗟に体が動いていた。
そして、何故知り合いでも友達でもない他人にそこまでしたんだ! 俺!
どことなくこの子の陰影がシエラと重なったからなのか……今となってはよく分からない。
ついには女の子が刺されるはずの包丁の軌道上に自分の身体を捧げていたのだ。
「うっ! やべっ!」
俺を刺した男は即逃げて行った。
包丁は俺の脇腹に深々と突き刺さっていた。
俺は怯えていた女の子が必死に自分に向かって何か訴えているのを最後に意識を失った……
――目が覚めた? いや視界は真っ暗なので覚めてはいない。
しかも身体は全く動かない。
何となくだけど、俺死ぬんだ……理解した。
分かってはいたけど怖くなった。
その時、頭の中に直接語りかけてくるような声があった。
透き通るような女性の声だ。
「あなたは残念ながら今世での生涯は終わりました」
やはりそうなのか……あ~やっぱ奨学金返済できないな。
まあ、仕方ないよな、この場合。
「わたくしは幸運の女神。あなたをこれから転生させます。生前の行動を鑑み、一つだけ望みを叶えて差し上げましょう」
転生かぁ。
しかも何故か出てきたのは幸運の女神様。
これ拒否するとそのまま死ぬだけだよな。
だったら……せめてあの5回も全滅させられたボスを倒したかった。
それには、枯渇しない無限の魔力が欲しい!
「無限の魔力でございますね。承知致しました。では、その能力の付与を望みと致します。次の世界では素晴らしい人生を送ってください」
ん? 俺心の中で祈っただけだぞ、口に出して言ってない……
……そして俺の記憶はそれ以降プツンと途切れた。




