炭素繊維強化炭素
久々に根を詰めてFlyoutを触ることができたので、今回はイメージ図ありです。
以前述べた通り、この世界では初のジェット戦闘機である隼は、元々単発機として設計されていた。しかし、石川島で開発していたギヤードターボファンエンジンの推力が全く足りないことがわかり、双発機として再設計することになった経緯がある。
石川島重工業 "F-0" 1軸ギヤードターボファン
バイパス比:0.99
圧縮機:遠心式2段
総圧縮比: 9:1
タービン:軸流式3段
入口温度:756℃
推力:818 kgf(地上、静止)
直径:0.56 m
このため、石川島ではエンジン出力向上のため、タービン入口温度の向上を目指して改設計に邁進しており、同時に東北大学と鈴木商店系の製鋼所に依頼して耐熱合金の改良を行わせていた。
「現在、石川島さんには推力向上のため、タービン入口温度の向上に取り組んでいただいております。ただ、今はとにかく温度を上げてくれと言っている状態で、目標値が定まっておりませんでした。今日の会議ではここを整理して、開発のロードマップみたいなのを作れればいいかなと思っています」
耀子はそのように会議の冒頭であいさつをする。
「よろしくお願いします。具体的な目標値もわからず、ひたすら性能向上に取り組むというのは、なかなか万人にできることではないですからな」
石川島側の代表者である土光は、朗らかな笑顔でそういった。「万人にできることではないが、自分はできるぞ」という自負があるのだろう。
「では、まず、直近の目標について、堀越さんから」
「はい、現在、出力向上型ターボファンエンジン、仮称"F-0A"を搭載するものとして計画している改良型双発隼の仕様がこちらです」
帝国人造繊維 TF11F 九七式戦闘機 "隼" 2型甲
機体構造:低翼単葉、先尾翼、引込脚
胴体:難燃性エポキシ樹脂系GFRP+AFRPセミモノコック
翼:ウイングレット付きテーパー翼、難燃性エポキシ樹脂系GFRP+AFRPセミモノコック
フラップ:ダブルスロッテッドフラップ
スラット:単純スラット(先尾翼のみ)
乗員:1
全長:10.0 m
翼幅:9.4 m
乾燥重量:1750 kg
全備重量:4260 kg
動力:石川島重工業 "F-0A" 1軸ギヤードターボファン
推力:1017 kgf(地上、静止)
最大速度:767 km/h
航続距離:2400 km
実用上昇限度:13000 m
武装
25mm 九四式航空機関銃(機首固定)×3
口径:25mm
砲身長:1500mm(60口径)
砲口初速:850m/s
発射速度:720発/分
備考:ガスト式、九四式対空機関銃の航空機搭載版
爆装:250kg
「武装、爆装に変更はなく、推力、最高速度、航続距離を向上させたということですな。全備重量も増えてるから、航続距離の向上は燃料搭載量の増大で対応するということか?」
仕様書をしばらく見ていた土光は、堀越に読み取った内容が正しいか確認を取る。
「ええ、機体の重量バランスを見直して、先尾翼と主翼の一部区画にも燃料タンクを増設する予定です」
「要求されている推力は1017kgf……それなら……」
そういうと、土光はおもむろにメモ帳を取り出し、ぶつぶつの何かをつぶやきながら計算を始めた。
「タービン入口温度の要求は……830℃くらい。今より70℃上げればよいのか」
「難しいですか?」
「いや、先行して検討と実験を進めとりましたから、このぐらいであれば今年中に初飛行までもっていけるでしょう。だが、その話をするためだけに、我々を集めたわけではございませんな?」
そういって土光は耀子の方を見る。
「おっしゃる通りです。もう1つ、石川島さんと一緒に開発したいものがあります。それがアフターバーナーです」
「アフターバーナー……?」
「簡単に言えば、ジェットエンジンの排気にもう一度燃料を噴射し、さらに排気速度を高めることで推力を急激に上昇させる装置の事です」
今石川島がやっているように、タービン入口温度を上昇させるほど、ジェットエンジンの推力は上昇していく。しかしのそのペースは一般的なレシプロエンジンの改良と同等かそれ以上に遅く、そうこうしているうちに単発型隼が陳腐化しかねない。
航空機において、推力の要求が最も大きいのは離陸時の数分、もっと言うなら離陸加速時の数十秒である。単発型が離陸できるようにするにはこの短時間のみ大推力を発揮できればいいので、アフターバーナーを並行開発して実装すれば、単発型隼も初飛行までこぎつけられるのではないかと耀子は考えたのだ。
「なかなか面白いことを考えますなあ……燃焼温度は燃焼室よりさらに高くなるでしょうから、そのアフターバーナーとやらが融けてしまわないか心配ですが……」
「おっしゃる通りですので、簡単ではないと思います。ですが、我々には最近開発したこちらの素材がございまして」
そういって耀子は繊維質な黒色の塊を取り出して机の上に置く。
「これは……炭……?」
「炭素繊維強化炭素複合材料、我々はC/Cと呼んでいます。少なくとも2000度の高温に耐え、高い比強度を持つ自信作です。この前、この材料を使ってノズルを作ったロケットの打ち上げに成功しました」
真剣な面持ちで耀子はC/Cを土光に売り込む。
「炭素繊維……ということは炭の糸なのでしょう? それで補強した炭……確かに熱には強いでしょうが、比強度も高いというのはにわかには信じれませんな……」
複合材は門外漢ということもあり、土光は至極当然の感想を口にした。
「炭素繊維は炭素が結晶化しているうえに、その配向がきちんとそろっているのです。そのために極めて高い強度と弾性率を持ち、その辺の炭とは比べ物にならないほど優秀な材料になっているのです」
「つまり、特性を改良した優秀な炭を、その辺の炭で固めた材料、ということですかな?」
「その認識で大丈夫です。長手方向、幅方向、板厚方向に繊維を通した3次元織物に熱硬化性樹脂を含侵させ、不活性ガス雰囲気で樹脂を炭化させて作っています。……日本が炭素繊維を開発したことは、同盟国にすら明かしていない極秘事項ですから、くれぐれもご内密にお願いしますね」
炭素繊維の製造には莫大なエネルギーが必要になる。元来、資源の絶対量に乏しい日本で製造するには向いていない材料で、そんなものを他国に模倣されてしまえば、簡単に優位を崩されてしまうだろうと耀子たちは考えていた。
そのため、イギリスがあの手この手で炭素繊維の情報を探ろうとした時ですらそれを拒絶し、代わりに無鉛ハイオクガソリンの製造技術を無償提供して手を打ってもらったぐらいである。
「そんなものを、なぜ我々に……いや、それほど、このアフターバーナーを開発したいということですか」
「おっしゃる通りです。レシプロエンジンとプロペラの組み合わせでは、音よりも早く飛ぶことはできません。我が国を取り巻く状況は、日々ひっ迫しています。よからぬことをたくらむならず者国家を返り討ちにするためにも、強力な航空機が必要なのです」
それに、アフターバーナーがあれば、急加速が苦手という現在のジェット機の弱点も緩和することができる。急加速ができれば、空母からの発艦も可能になるので、海軍にもジェット機を供給できるようになるのだ。
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