第23話 真夜中のインスタントラーメン
うん。なんとなくわかってた気がする。
クリスがゲストルームの前でおやすみって挨拶をしてくれて、中に入ったら賢者の間に繋がっていた。
日本の一般家庭に普及しているユニットバスで、私はのんびり湯船に浸かっている。
いやもう、考えたら負けだ。気持ち良いし。
今日は特にイヤな思いと怖い思いのダブルパンチ食らったから、馴染んだ空間があるとホッとしてしまう。
「寝間着。ここに置いておくからね」
脱衣所の方からクリスの声がしている。って、何してるんでしょうね。賢者様は。
「お風呂、お先に頂きました。クリス様も入るんでしょ?」
お風呂から出てきたら、賢者の間が和風空間に……というか、日本の斎藤家の和室を再現している。
「いや。僕には必要無いからね。第二王子の方ならまだしもって、髪の毛ちゃんと乾かさないと、風邪ひくよ」
ドライヤーでなんてことはなく。手をかざされて、一瞬で髪を乾かされた。
「夜会服は、君の屋敷に送ったし、替えのドレスはゲストルームにあるから、明日の朝、侍女たちに着替えさせてもらったら良いよ」
こっちのクリスは、世話好きなのかな。頼るなって言うくせに甘やかしてくれる。
実際、この空間に癒されてるもの、私。
「えっと、今日はありがとうございました」
「あっちは僕じゃないけどね。多分、伝わってるよ。クラレンスも自分の部屋に戻ったみたいだし」
「結局、協力してもらって」
そう言う私の口をクリスが手で止めた。少し考えるふりをして
「なるほど、ユウキは僕らがわかるんだね」
感心したようにそう言った。
「王宮に入った時、少し雰囲気が変わったから……」
「そっか、僕が入っても、あの体じゃ能力使えないからね。結局、クラレンスを殴って止めちゃった。怖い思いさせてごめんね」
「全く、使えないんですか?」
「王妃とキャロルの体の方はフルに使えるんだけど。第二王子の体は少し強いだけの、普通の人間だからね。賢者の石の方が私より制限されてないんじゃないかな。結界も使えてたし」
ふ~ん。そんなもんなんだ。
「本当にありがとうございました」
私はペコンと頭を下げてお礼を言った。
「ここは、僕と二人だけで誰も来ない空間だから、あまり今日の事は蒸し返さない方が良いよ」
なんで? お礼言っただけなのに。
「見返りを求められても困るだろ?」
見返り?
「まぁ。分からないよね。まだ中身12歳だし。大丈夫、僕はそういう欲はもう無くなっているから。だけど、王子の方は気を付けてね。そういう欲も、しっかりあるからね」
「意味が分からないです」
「そうだねぇ」
と言ってクリスはまた目の前で考え出した。どう説明したら良いのかと悩んでるみたい。
その内に、私の方をクリスが見つめてきた。
なんだか、怖い。大声出された時のような怖さじゃなくて。……なにか、身がすくむような。
気が付いたら、側に来ていて抱きしめられていた。
すぐにでも、逃げ出したい気分になる。やめてって言いたいのに声が出ない。
耳元に息がかかってる。たすけ……。
「塩と醤油と、とんこつと……あと、みそ……どれが良い?」
「へ?」
今までの怖さが無くなってる。
クリスを見上げたら、面白がってる顔が見えた。
「ちょっとは、身の危険感じた?」
「なんか、怖かったです。けど、何ですか? 塩とか醤油とかって」
「ラーメン。お腹空いたよね。何が良い?」
「塩」
「塩……ね。了解」
クリスが台所でインスタントラーメン作ってる。
キャベツとか野菜やウインナー入れて、卵を最後に落として……。
お父さんが作ってくれたラーメンと同じだ。
料理が得意でないお父さんが、それでもインスタントは体に悪いからと、野菜をたくさん入れてくれていた。
「クラレンスを止めたのは、君のお願いじゃなかったからね。あっちのクリスは放置する方針だったようだし。だいたい、ダグラスが止めれないのが悪い」
「それでも、ありがとうございます」
「はい。どうぞ」
ラーメンが二人分できていた。ラーメンをおいたちゃぶ台も、私の家のものが再現されている。
体に悪い……というか、太りそうだけど真夜中のラーメンって、美味しいんだよね。
「この世界で、ラーメンを食べれるなんて思いませんでした」
「第二王子を選んだら、ここにいつでも来れるよ。ラーメンでも何でも、また作ってあげる」
「え? これってそういうアピールなんですか?」
「うん。そういうアピール。僕はユウキの事、好きだからね。せっかくこうして向き合う事が出来ているんだ。一緒に居たいよ」
「その割には、どちらも私に意地悪なんですけど」
「それは仕方が無いね。僕らに頼る事を覚えてしまったら、とても貴族社会で生きてはいけないよ。自分で考えて行動することを覚えてもらわないと。僕に頼り切ってたら、また理不尽な事をしてしまうよ」
また、不穏な事を言っているけど。
「この会話が、ラーメン食べながらっていうのが、なんか」
「僕もそう思うけどね」
そして食べ終わった後、二人で食器とか片付けて、私達はお布団を敷いて寝てしまった。




