第19話 夜会での社交
まぁ確かにクラレンスの言う通りなんだけどね。
そう思いつつ、ムーアクロフト公爵夫人に挨拶をするため近付いた。
現宰相の奥方だ。
王妃の派閥のトップの奥方なので、国王陛下ですら無視できない存在になっている。
うちもリオンが、次期宰相候補にあがっているから、和やかな関係を築かないといけないのよね。……って、クリスいるし。あれは、殿下の方よね。
殿下と歓談中であれば、こちらから声を掛けれない。
後で伺う事にして、他の方々の方へ先に行こう。ずっと、歓談してくれてたら挨拶できなかった言い訳にもなるし。
そう思って、方向転換しようとした時にクリスから声を掛けられた。
「あっ。キャロル。こっちへおいでよ」
何で呼び止めるかなぁ。しかも、そんなフレンドリーに。
仕方が無い。私はクリスの方に向かった。
「クリス殿下には、御健勝のことと、お慶び申し上げます」
まずは一番身分の高いクリスに挨拶をする。
「そんなカタッ苦しい挨拶良いのに……。僕とキャロルの仲じゃない」
どんな仲よ。殿下の方とは、この前の不穏な発言をした夜会以来のハズだ。
えっと、周りが誤解しない言い回し。って、キャロルの頭の中が高速回転してる感じがする。
「まぁ、そうでございますわね。未来の弟になる大切なお方ですもの。わたくしを身内と認めて頂いたようで嬉しいですわ」
私は、扇子で口元を隠しにっこりとほほ笑んだ。
うん。クリスの顔が怖くなってるよ。笑顔なのに、怖い。目が笑ってないし。
まぁ、いいや。放っておこう。
私は、無視して公爵夫人の方へ向き直して、ゆっくり礼を執った。
「お久しゅう存じ上げます。ムーアクロフト公爵夫人」
「お久しぶり。キャロル様。しばらく王太子殿下は、他の方を連れていらしたようですものね」
ギリギリ嫌味にとられないって感じかな? 人の良さそうなおっとりとした笑顔で私の方を見ている。
どう返そうかな。この辺は、キャロルのスキルに任せるととんでも発言しそうで怖い。
「いない人間は誘えないものね。リリーがいなくなったという前提の話だけど……」
私が言葉を選んでる間に、何て話題を……。ただでさえ、さりげなくそばにいて情報を得ようとしてる人多いのに。
「まぁ。どういう事ですの?」
公爵夫人が、興味ありげに訊いてくる。
お取り潰しになった家の令嬢は、単独ではどんなに下位の貴族が主催する夜会にも呼ばれたりはしない。だけど、パートナーとしてなら、その身分が平民に落ちても参加自体は可能なのだわ。クラレンスが望めば、この夜会にも連れて来れるんだわ。
リリーの所在が分かれば……の話だけど。
どうしよう。
クリスの考えが分からない。こんなところで、リリーの現状をばらすつもりなの?
こんな、クラレンスの耳に入るようなところで……。
今、クリスの話をさえぎってしまったら、クリスはともかく、公爵夫人から不敬だって言われかねない。
キャロルは、まだ王族じゃないもの。
いいや。同調してクラレンスを呼んじゃえ。
「わたくしもそのお話を聞きたいですわ。他ならぬ、わたくしの婚約者の想い人のお話ですもの」
心臓がバクバクしている。手に嫌な汗をかいてるわ。
「どうせなら、ここにクラレンス殿下をお呼びして一緒に聞きたいですわ」
クリスが面白そうな顔をしている。絶対、私の心読んでるわよね。
「いいよ。呼ぼうか」
そう言って、クリスは近くの使用人に指示を出していた。
冷静に考えたら王太子殿下を呼びつけるって……、それこそ不敬なんじゃあ。
それでも、ほどなくしてクラレンスがやってきた。
不敬って言わないでね。
公爵夫人は、クラレンスに対して礼を執り、挨拶の口上を述べている。
それを軽く受け取って、私の方に目で『何の話題だ?』って訊いてきた。
「クリス殿下が、リリー様のその後をご存じの様ですわ。後で噂を聞くよりは……と思いまして。余計な事だったでしょうか」
にこやかに、型通りの確認を取る。クラレンスも、笑顔を張り付けているけど。
「いや。それで? クリスは何か知っているのか?」
「処刑前に逃げたってことくらいかな? まだ、死んだという話は聞かないから、生きてるんじゃないかな」
クラレンスの表情が一瞬揺れた。すぐに、笑顔に戻ったけれど。
「処刑前に……ね。まぁ、元々行方不明って事だったからな。それで? 捜索はするのか?」
裏事情を知っている人ですら、一家は全員処刑されたと思っていたから、捜索隊は出ていなかった。
私が知っていたのは、賢者の間でクリスに聞いたからだもの。
「どうだろう。ただ、陛下の前に引きずり出されたら、ご両親と同じ道をたどるだろうけどね。当事者だし」
「なるほど。聞かせたいのはそれだけか?」
おや? と、意外そうな顔をクリスがしている。
「意外と冷静だね」
「まぁな。それで、もう行っても良いか?」
クラレンスは、にこやかに対応をしている。
でも、見た目ほど冷静じゃないのではないかな。公爵夫人を軽く無視してるし。
まぁ、社交の場で言う事でも無いけど。
「もともと、キャロルが呼ぼうって言ったんだからね。大した用事じゃ無くて悪かったよ」
クリスもごめんねって感じて言っていた。
クラレンスと目が合う。だけど、その表情からは何も読み取れなかった。
そして、クラレンスは私達から離れて行ってしまった。




