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暴擦



「あのな、状況がおかしいだろう? 俺がいつくるみに気付かれずにここまで運んで服を脱がしたんだよ」

「それは……夜に酒を飲んでから記憶がないわね」

「先輩いつの間にお酒を?」

「部屋に案内された後よ。暇だから外に出たついでに取りに行っちゃったの」

「お前……酒飲むと淫乱になるのな」

「知らないわよ。……あたし何した?」


 智香ちゃんの前で言っちゃっていいのかな。いや、言わねば冤罪が晴れぬ状況か……。


「暇だから話をしようって夜中に来てな、部屋に上げたらいきなり脱いであたしの身体どう? って言い出したんだぞ」

「先輩大胆……」

「いやあぁぁ智香違うから! 不慮の事故だから!」

「様子がおかしいからやめとけっつって言っても、欲を満たしてくれる人間がどうのとか言って聞く耳持たなくてな」

「先輩……アバズレだったんすか」

「待って! それあたしじゃない違うのぉぉぉ!」


 これは良い一転攻勢となった。

智香ちゃんを味方につけるとこうも戦況が変わりやすいとはな、覚えておこう。 


「まぁ説得は諦めて素直に襲われる振りをして、スタンガンを使ったらさっきまで起きなくてな。智香ちゃんがやってきて今に至るというわけ」

「なるほど、先輩反論をどうぞ」

「ぅぅぅ違うのに……」

「聞いてないな」

「勇真さん、とりあえず部屋で落ち着かせて着替えさせてきますね」

「ありがとう助かったよ」

「? いえ」


 俺が礼を言ったのは加勢してくれたことに対してなんだけど、智香ちゃんがその真意に気付くわけもないよな。


 玄関を出る時に雫に見られ勘違いされるハプニングがあったものの、智香ちゃんの説明で事なきを得た。

 なんでどいつもこいつも被害者の俺の話を聞こうとしないんだ。雫は雫で「その手があったか……」と呟いていたが聞き流しておこう。

 以後、くるみに酒を与えるのは禁止だな。


 正気に戻ったくるみと智香ちゃん達三人も集まり、皆くるみに注目していた。本人はフードを深々と被り、気にするなと言わんばかりに存在感を消している。

 さて、俺だけ眠くて頭が回りそうにないが、ともかく今後の計画を決めようと思う。


「昨日夕方から一晩考えてみたんだが、現状では健に対してこちらから動けることはなさそうに思う。近寄れば健の足手まといになるだけだからな」

「捜さないってことですね」

「美優ちゃん、必ずまた会えるから今は待とう」

「……はい」


 厳しいかもしれんが、健自身が俺達を遠ざけているのに邪魔をするわけにいかないからな。

 健の事は治せる方法があるか、別の方法が見つかるまで放置するしかないだろう。


「次にゾンビに対してだ。今までは外出時に複数で出掛けていたが、今後は俺かくるみがここに残るか外に出るかで単独行動することになると思う」

「勇真一人って……どうして?」

「プリデイションタイプとかいう手強いゾンビが何体もいると分かったからな。刺又だけじゃ守りきれん」

「お留守番が増えるということですね」

「あぁ、元々は食糧の心配をせず安全に住めることを第一に動いてきたからな。みんなでゾンビの相手をわざわざする必要もないさ」


 これが映画だとゾンビが餓死したり政府が徐々に制圧してくれるんだけど、約一ヶ月経っても状況が変わる気配ないんだよな。

 自衛隊なら重火器を扱ってプリデイションタイプも楽に倒せそうだが、場所を選ぶしやはり対処しにくいんだろうか。


 それと、健やくるみの保菌者という存在がこの先どうなっていくのかが知りたい。

 何事もなく今まで通り活動できるのか、意識が薄れてハイパワーゾンビと化すのか……。

 くるみにキスされかけて思い出したが、保菌者はあくまで特別な身体の持ち主だ。

 もし俺が保菌者になれない体質ならキスですらアウト。そこから広がる感染映画があったんだよなぁ。危なかった気を付けよう。


「うーん……んん?」

「くるみどうした?」

「昨日の夜から何か聞きたいことがあった気がするんだけど……なんだっけ」

「夜? お前が男を貪る前か?」

「うん……ってなによその言い方! 男……そうよ男の子だわ!」

「次の標的?」

「そうそう……って違うわよバカ! あたしが外に出たって言ったじゃない? その時、一階から戻る時に一瞬光が点いた部屋があったのよ。四階だったかしら」

「ほうほうそれで?」

「気になったから覗いたのよ。そしたらね、高校生くらいの男の子が二人居るのが見えたの。住人かしら?」


 四階、四階……誰が居たっけ。少なくともこのマンションの住人に高校生は俺一人のはずだが……。


「そいつらは多分余所者だな。住人の生存確認はしてないが、心当たりがない」

「どうする? 見に行く?」

「ちょっと考えさせてくれ」


 そこなんだよな。男手が欲しいとは思っていたが、そいつらがまともだとは限らない。

 当初危惧していたこの階の乗っ取りでもされれば、彼女達も無事では済まないだろう。


 だが、いつまでも居座られたんじゃ、梯子を降ろして出入りする時に障害になりうるかもしれん。

 もしかしてゾンビを引き寄せた原因もこいつらかも。ならば、最低限の人数で様子見をしてみるか。


「よし、決めた。俺とくるみが確認してみるが、高校生ということは美優ちゃん達の知り合いの可能性もある。誰か一人付いてきてほしい」

「…………」

「私あんまり男子の顔と名前が一致しません!」

「智香あんたってば……」


 美優ちゃんは未だ健の件で心在らず、智香ちゃんは正直に言い切り過ぎだ。頭に手を当てくるみさえ呆れている。となれば残るは――


「あ、あの、私で良ければ……」

「決まりだね。葵ちゃん頼むよ」

「はい!」




 次の(しばらく?)更新は週末になると思います。



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