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馬鹿


 行く人選は決まった。そうなれば段取りだ。

 くるみは見た奴らの確認と、もしもの時は足を活かした伝達手段で待機している雫達に知らせに行かせよう。

 葵ちゃんは最初隠れてもらい、危険がないと判断できれば出てきて確認してもらえばいい。

 俺はこちらの男の数が不利なためまずは説得し、何か企んでいそうなら武力行使で無理矢理追い出そう。


「梯子を降ろして俺達が四階に辿り着いたら一旦上げてくれ。何かあればくるみが知らせに行くから」

「わかったわ」

「葵ちゃんには念のためスタンガンを、俺はネイルガンを持っていくとして、くるみはどうする?」


 あちこち駆けずり回れるといっても、いざ戦闘になるなら何かあったほうがいいだろう。


「あたし? そうね、アルコールがあればそれで――」

「却下だ」

「なら飲み干した後、武器として使える一升瓶のお酒で――」

「却下だ。お前飲むことしか頭にないだろう!」

「えへへへへ、バレちった」


 全く……どんだけ飲み足りないんだよ。酔って淫乱モードにでもなってみろ。

 事情を知らない男の子二人が性の犠牲になるんだぞ。そうなればくるみのアダ名はスピーシーズにしてやる。


「じゃあ可愛いブーツが欲しいな。買って?」

「彼女か! 知るか自分で取り放題だろうが」

「――彼女?」


 もういい、こいつは手ぶらだ。後、静かに聞いてた雫もわざわざピクッと反応しなくていい。


「準備も済んだしさっさと行くぞ」

「ちぇ」

「は、はい」



 四階まで降り廊下を確認してみる。血で汚れているなんてこともなく、ゾンビ世界以前と変わらぬ風景だ。


「どこの部屋だ?」

「んーと……多分ここね」


 くるみが案内してくれたのは四〇七号室。確か住人は人付き合いがあまりなく、独り暮らし三十代半ばのおっさんだった気がする。


「正面から行くからくるみは横で顔を確認、葵ちゃんは隣のドア前でスタンバイしといて」

「ラジャー」

「はい!」


 インターホンを鳴らしてみる。応答はないが、ドアの奥から慌てたような足音は聞こえた。

 いつまで経っても出てくる気配はない。警戒して当然か。

 だが、こっちには管理人の特権ともいえるマスターキーがある。悪いが無理矢理にでも入らせてもらおう。

 鍵を開けドアを少し開く。対人間のことは考えてないのかチェーンはしていないようだ。しててもこじ開ける用意はしてたけどね。


「中に居るやつ聞いてくれ。俺はここの管理人だ。別に襲おうってわけじゃないからまずは話を聞いてほしい」

「おぉそれっぽい」

「茶化さんでいい黙ってろ」


 少し経って一人の男の子が姿を現した。

 やせ形の黒髪でごく普通の高校生に見える。


「……どうしてここに誰か居ると?」

「俺は管理人だぞ。モニターで侵入者はチェックできる」


 もちろんそんなのハッタリだ。くるみにこいつかと確認するとすぐさま頷いた。


「襲わないとしたら何の用ですか?」

「君が無害か知りたい。できれば身元を知れたら信用するんだが」

「僕ですか? 僕は高校二年の馬場と言います。奥にもう一人鹿田って奴が居ます」

「ちょっと待っててね、葵ちゃんこっちへ来てくれる?」


 奥の人物の名前まで隠さず言う辺り正直者なのか馬鹿なのか。

 本当に高校二年生なら葵ちゃんとも同学年なはず。知り合いかすぐ確認してもらった方がいいだろう。


「はい、えっと……あ!」

「あれ? 栗山じゃん! 生きてたんだな!」

「どうやら知り合いのようだな」

「えぇ同じ高校の馬場君です」

「へぇ〜」


 となれば、赤の他人よりはまだマシか。

 くるみは暇なのか二人をなめ回すような視線を送っている。


「馬場君一人なの?」

「いいや、奥に鹿田が居る。俺達はあちこち転々としながらゾンビから逃げていて、今は鍵が空いていたこの部屋に隠れてたんだ」

「鹿田君まで居るんだ!?」

「おいおい遅くて騒がしいから誰かと思ったら栗山じゃねぇか!」


 奥から茶髪のツンツン頭が姿を現す。如何にもヤンキーですと言わんばかりの出で立ちだ。


「鹿田君……何か雰囲気が変わったね」

「あぁこんな世界だからな。栗山も生きてて良かった。知り合いに会えたのは初日以来だしな」


 俺とくるみは完全に蚊帳の外だが、見たところそう悪い奴でもなさそうだ。


「私はここに居る勇真さんに助けられてずっと過ごしてきたの。美優と智香も居るんだよ!」

「へぇ黒川と藍沢も助かってたか! 勇真さんって言ったっけ、こいつら助けてくれてありがとな」

「お、おぅ……君達も無事で良かったな」

「なんて好青年かしら」


 他人だろうにまるで家族を助けてもらった礼を言う感覚で喋ってくるとは、少し面を食らってしまった。


「鹿田君と馬場君は二人だけなの?」

「あぁ……」

「三中のことだよね? あいつは突然起きないままゾンビになっちまったんだ」

「そっか、ごめん」

「栗山が謝ることじゃねぇよ。悪いのはこの世界だ」

「鹿田君……」

「わーおお姉さん妬いちゃいそう」


 何このイケメン補正がかかりまくりの高校生。話していくうちに彼らなりの事情も分かった。

 三中という奴が居なくなってから互いに怯える日々で睡眠時間も中々取れてないらしい。もうこいつらは仲間に加えても良さそうだな。


「君達、詳しい説明は上でするから付いてきてくれないか?」

「どうする?」

「そうだな……ここに居ても仕方ないし、この人達は安全だ。俺は行くぜ」

「じゃ、じゃあ僕も」

「決まりだな。準備だけするから先に上がれる場所へ行っててほしい」

「うん、わかった。美優達に伝えとくね」


 葵ちゃんを伝達に行かせ移動して待っている間、くるみにどうだったか聞いてみるも悪印象はないとのこと。

 どうやらすんなりと話し合いも済みそうだ。



「なぁ鹿田……三中のこといいのかよ? 本当のこと言わなくて」

「ゾンビどころか怪物になりましたって? 誰が信じるんだよそんな話……」



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