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妖艶


 さっきまで無人だったはずなのに、今は悠に二、三十体は越えて目の前に居る。

 後ろからも来ているため、まずは前を片付けないと逃げ場がない。

 これが青葉の言っていた力なのか……!


「こいつらディテクションタイプばかりか……? ならまだいける! うおおぉぉぉおお!!」


 近くのゾンビを次々に拳で凪ぎ払う。どれも顔に特徴的な部位が目立つ。

 幸い触覚タイプは紛れ込んではいないようだ。よかった……少なくとも俺未満の戦力ならまだ倒せる。


 打撃でゾンビを倒すには、頭を殴り首の骨を折るぐらいしか有効打がない。こいつら痛覚がないらしく、何度でも起き上がってくるからな。

 時間はかかったが半分程倒したところで、ようやく逃げ道が確保できた。

 だが、後ろの院内から青葉の声がし始めた。


「健君、いい力を持っているようだね」

「黙れ! こんな卑怯なことをして!」

「私もゾンビを引き寄せることしかできない力を恨んでいたが、なるほど。こういう使い途もあったわけだ」


 話を聞きながらゾンビの相手をするのは案外難しい。

 頭を殴れてるつもりが肩や胸に当たり、戦闘に集中すれば何を話しているかが聞き取れないのが厄介だ。


「私もうかうかしていると襲われるんでね。忙しいようだからこの辺で失礼するよ」

「!! 待て! くそっ、邪魔だお前ら」

「生きてたらまた会おう健君」


 院内に消えて行く青葉の後ろ姿が目に入る。

 俺が全てのゾンビを倒せた時、かなりの時間が経過していた。

 急いで青葉を捜すも、院内はもぬけの殻で既に誰も居ない。


 正直ワクチンの話を聞いただけで、あそこまで豹変するとは誤算だった。

 数のことなど気にしていなかったが、一緒に協力しながら根原を翻弄して、いずれは倒せればと考えが浅すぎた。

 確かに数が少なければ最終的に争奪戦になる。青葉はそれを危惧して、今の内に覚醒者の数を減らしたかったんだろう。


 これは今後覚醒者に会うことがあれば迂闊にワクチンの存在を漏らさない方がいいな。

 くるみのように反応が薄ければ、青葉のように唐突に敵になる場合もある。

 やられなかったから良かったものの、もしこれが事前に張られた罠なら簡単には突破できなかったはずだ。

 そういう意味でも初対面の人物には用心しないとな。


 やれやれ……こんな時、勇真と話せれば対策も楽に練れるのに。

 あっちはあっちで、くるみとちゃんと打ち解けてくれていたらいいが……。



――――――――

――――――

――――



 くるみを受け入れた初日、俺達の双眼鏡での観察と簡単な刺又講座を終え、皆が各部屋に戻り眠りについた頃、ドアのインターホンが鳴らされた。

 誰がこんな時間に……とモニターで確認すると、くるみが静かに立っている。

 ドアを開けると、眠らなくていい身体になって暇だから話し相手になってくれと言ってきた。

 今まで一人だった反動もあり寂しいのだろう。部屋に上がらせお互い適当な位置に腰掛ける。


「ドアから来るなんて律儀だな。くるみならベランダからでも来れるだろうに」

「当たり前でしょ。あ、でもそれもいいわね。じゃあ次からはそれで」

「次もあんのかよ!」


 夜中いきなり十一階のベランダに人影があったら軽くホラーだぞ。ただでさえ外の一階はホラー化してんのに。


「んで、何の話をすりゃいいんだ?」

「そうね……何か忘れていた気がするけど、それはまぁ思い出したらでいいとして。ねぇ、勇真」

「? なんだ」


 やけに雰囲気が大人しい。昼間喋った時とは別人に思える程だ。


「あたしの身体、どうかしら?」

「は? 身体?」


 いつの間にかネコミミフードのローブを脱ぎ捨て、いつもの格好ではなくネグリジェ一枚になっていた。


「おま……何してんだよ!」

「ふふふ、見るのは初めて?」


 引き締まったウエストに強調される程好い胸、スラッとした白い脚とピンクのネグリジェに違和感なく溶け込む髪の色、顔も可愛いしさすがはマドンナと言われていただけのことはある。

 ハッ、つい見とれてしまっていたが今はそんな場合じゃない。


「ち、違わい! そんくらい雫の湯上がり姿で学習済みだ!」

「そう、やっぱり雫とそんな仲なのね」

「え、どんな仲だ? この部屋でたまたま見ただけだぞ?」


 なんだか話が噛み合っていない気がするが、一先ず落ち着くためにお茶を飲もう。


「へぇ〜部屋に連れ込んで湯上がり姿って……事後かしら?」

「ブーッ! ゴホッ、ゴホッ……お、お前なぁ」


 ストレートな発言に思わず漫画のように茶を吹き出してしまった。

 自分がまさかこんな絵に書いたような体験をするとは……。



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