豹変
連休中も更新できるかと思います
明日から18時辺りに投稿していなければ次の日に更新します
確かに狂暴性は発動しなかったが、まさかこんなに早く覚醒者に会うとは思っていなかった。
しかも、同じ腕輪を付けているとなれば彼も根原を知っているはずだ。俺が三人目だから、彼は一人目か二人目ということになる。
「そう警戒しなさんな。俺達は同じ仲間だろう?」
「……その腕輪は根原の?」
「そうだ。奴は私を二人目と言っていたからな。君が一人目かい?」
「いえ、僕は三人目と聞いてます。僕達以外にも自然に増える可能性があるとも言ってました」
二人目……か。彼は狂暴性の持ち主なんだろうか?
その割には体格も貧弱で、よく居る出不精な青髭生やしたおっさんって感じだ。
「そういうことか。私は青葉茂という者だが、君は?」
「黒川健です」
「健君か、見たところ随分若いようだが学生さんかな?」
「はい、大学生をしてました。失礼ですが青葉さんのお歳は?」
「四十二だ。個人商店を経営していたが世界も私もこんなことになり、もはやなんにもやる気は出ない。大殺界とはよく言ったもんだなワッハッハ」
そんな大殺界は嫌だ……苦笑いしか返せない。おそらく人生で一番悪い不幸だと思う。
しかし、見た目だともっと歳がいっていると思っていたが、老けて見えるのは格好のせいか。
ヨレヨレのシャツに伸ばしっぱなしの無精髭、寝転んでいたのか寝癖がつきっぱなしである。
「それはそうと、健君はあの根原とか言う奴にどう出会ったんだい?」
「僕は道端で倒れている所を助けられました。その後、覚醒者となり説明を受けてデータを集めてこい……と」
「なるほど、私と似ているな。私は店に妻を残し助けを求めに行ったんだが、運悪く気絶し気付けば奴に運ばれていたよ。そこからは君と一緒さ」
「ハハお互い運が良いんだか悪いんだか分かりませんね」
「君はともかく私はまだ悪いことしかないな」
そりゃ大殺界だもんね。
「それからはずっとここに?」
「いや、一度店に戻ったよ。ただ私が戻るには時間が経ちすぎていて、中からお出迎えしてくれたのはゾンビ妻だった。そこでもう世界のことなどどうでもよくなった」
「それは……残念です」
「根原から私が無事だった原因を聞いた時に覚悟はしていたさ。私はB型で妻はA型。覚醒者になれる条件に合わないんだ」
「確かに……」
B型とAB型しか助からないみたいだし、知らずにコーヒーを飲めばもうウイルスの進行を止めようがない。
「私が自棄になって酒を飲んでいたら注意してきたが、仮に妻に飲ましてもゾンビ化は止められなかったんだろうな。そしてそのまま放置し、ここに辿り着いたというわけだ」
「大変でしたね……。データのことは他に何か言ってましたか?」
「データ? このくだらない物なんか最初から協力する気ねぇよ。外そうにもしっかりと固定されてやがるしな」
くだらないと言い切る辺り、目的も無ければ元々やる気がない人なんだろうな。
奥さんを失った気持ちは計り知れないが、中に隠れて引きこもる道を選んだのは誰にも責められない。
況してや、普通の人だって外を動き回るなんて自殺行為だもんな。
「僕も協力なんてしたくはないんですけど、ワクチンのために仕方無く――」
「ちょっと待った。ワクチン?」
「あれ、聞いてませんか? データ集めに協力すれば覚醒者を治せるワクチンを渡すと」
「……ほう?」
ワクチンのことを知らないとは思いもしなかった。
俺の話を聞き、先程までの悲壮感漂う表情が不敵な笑みへと変わる。
「もっと詳しく聞かせてくれ。それはどこにある?」
「さぁ……根原が保管しているはずですから場所までは……」
「なら、数はどのくらいだ」
「それも不明です。覚醒者が少ないのであまり無いかもしれません」
「そうか、データさえ集めればそいつがな……」
ふむふむと小言を言いながら、黙ったまま奥の扉まで歩き出す青葉さん。扉の前で背を向けて止まったまま動かない。
やがて、こちらに向き直すと両手を上へと広げ笑いだした。
「フッフッフッ、アーハッハッ!」
「あ、青葉さん?」
「貴重な情報をありがとう健君。私の力なぞ役に立たないと思っていたが、今ここで見せてあげよう」
「力を見せる……?」
そのまま声にならないような声を上げ、何をしたいのかさっぱり分からない。
突然気が触れて変になったかと思うぐらいだ。
「ワクチンは少ないかもしれない。つまり、早い者勝ちだ。それで妻を……妻を治せるかもしれない!」
「青葉さん、あんた一体何を……」
「君には感謝しているが邪魔者でしかない。ワクチンのために犠牲になってもらうよ!」
青葉さんの後ろの扉が開かれる。扉の陰に隠れ、姿は見えなくなってしまった。
同時に扉の奥からゾンビがゾロゾロと姿を現す。
「くっ、数が多い!」
ざっと見て十体は出てきた。狭いこの部屋だと、殴っている間に引っ付かれてしまえばおしまいだ。
一度外へ出るしかない。入り口の扉を思いっきり殴り退路を作る。
だが――事態は悪化した。
「なんで外にもこんなにゾンビが居るんだよ!?」




