看破
「ふう、ここも収穫無し……か」
根原の元を離れて何日が経っただろうか。初日にくるみという女性に会って以来さっぱり人も見つからない。
人が居そうな小学校、避難所、警察署を回ってみたが、どこもゾンビしか見当たらなかった。
生存者は居た形跡はあるが、食糧や安全地帯を求めて移動したか、彼らの仲間入りをしたか……。
もう他に捜すところとなると、各地のスーパー、商店街、大型ショッピングモールぐらいなもんだろう。
別に普通の人が捜したいわけでも移動が苦になるわけでもないが、こう……ゾンビだらけだと人類の先はあるのかと嘆きたくなる。
特に警察署が崩壊していたってのが信じ難い。俺みたいにコーヒーを飲んでいたら内側からゾンビ誕生だし、社会人なら普段から一息つくために摂取する機会も増えるはず。
高校生以下なら飲まなくても、非力でゾンビへの対処法が限られてくるからどうしようもない。
俺がここ何日かで分かったことといえば狂暴性についてだ。
最初は人にしろゾンビにしろ存在に気付けば見境なく襲う症状だと思っていた。
だが、何回か遭遇する内にそうならない可能性に気付けた。
一つ目は距離感。距離が離れていれば襲いかかる衝動に駆られないし、体感で約二十メートル離れていれば平気かもしれないということ。
二つ目は認知。これはゾンビから隠れてみたため実際の距離は不明だが、遮蔽物があったりお互いが気付いてなければ大丈夫かもしれない。
三つ目は狂暴性自体の程度。これを根原に聞いた時は、確かに殺してやりたいぐらい感情の高ぶりを感じていた。
だが、ゾンビ相手だと向かってくる奴が邪魔だなと思うくらいで、こちらからわざわざ相手をしようとは思わない。
多分、感情的になる相手には自制が利かないおそれがあるが、そうでない相手には大丈夫という風に感情のコントロールが出来れば平気そうだ。
どれも可能性でしかないが、根原が思ってるよりは危険性は低いと感じる。
そもそも、覚醒者として確認できたのは俺を含め三人目と言っていた。
前例があるからこそ身体能力の向上が発見できたとして、まだ取れたデータは短期間だから俺のようなサンプルをわざわざ放り出したんだ。
つまり、症状が重くなるか軽くなるかは未知数。狂暴性が皆に当てはまるとも限らない。
実際、くるみのように力とは別の部分が強くなり一緒に居たのは短時間だけど、デメリットらしいとこは見受けられなかった。
何もなきゃ心配はないんだが、一応俺達は半ゾンビだ。人間を襲うことにならないよう願うしかないな。
俺がこの体質になってからありがたいことは食欲もそうだが、こんだけ街中を歩いても疲れないことだ。
睡眠欲もないため無理に寝る必要もなく本当に無休で歩き続けられるし、近寄ってくるゾンビはほとんどワンパンで片付く。
性欲は……多分ない。無くてもいいが三大欲求が失われたと分かると途端に悲しくなる。
こんなことを考えながら歩くのはもう何度目だろう。何も収穫が無いと暇を感じるようになり、元々頭で考えるタイプじゃなかったのに考え事が増えてしまった。
何も考えてなさそうなその辺のゾンビよりはマシとするか……。
ふと、下を向いて歩いていた足が止まり目の前の建物が行く手を遮る。
ここは病院というより小さなクリニックだろうか。あまり縁がないので違いがよく分からない。
気になったついでに入り口の扉を開けてみる。鍵がかかっていて開かない。
ぐるりと一周してみても窓には板が打ち付けられ、外からでは中の様子が伺えない。
まぁ、人間が居て襲ったらまずいのでこれ以上詮索してもメリットはないか。
立ち去ろうと離れ始めた時、後方で扉が開く音がした。
中から若くはなさそうな口髭を蓄えた風貌のおじさんがこちらを見ている。
「今彷徨いていたのは君だけか?」
「はい、中が気になったもので」
辺りをキョロキョロ見回し少し考えたような素振りを見せ、手招きで誘い出した。
「とりあえず中へ入るといい」
「いえ、特に目的もなかったので失礼します」
これ以上近寄れば狂暴性で攻撃してしまうかも……それは避けたい。
「……君はただの人間かい?」
「えっ? 今なんて?」
「私も一人で彷徨く人間が気になって顔を出したが、君は武器も荷物も持っていない。そして右手の腕輪が決め手だ」
「それは!」
予想外の言葉が返ってきて、その人物は左手の腕輪がはっきり見えるように腕を掲げた。
「君は私と同じ覚醒者ということだな!」
次もストックつくってからの連日投稿になるかもしれないです(建前)
ZネーションやThe 100を観たいので!(本音)