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手玉



「うぉっほん! あのね、健に何を吹き込まれたか知らないけど――」

「ハーレム帝国を築く予定なんでしょ?」

「違うから! どうしてそうなるの!」


 端から見れば男女比一対四。経緯はどうあれ今はほぼ同居に近い形で住んでいる。

 鬼畜な男であればそういうことも考える状況だ。くっ、男だというだけで弁明の余地がないっ……!


「え〜お兄さんやらしそうだし、そういう趣味かと」

「見た目で判断するな! お前だって尻軽そうだなって言ったら怒るだろ?」

「怒らないわ。キレるわよ」

「えぇ……」


 何がどう違うんですかね……。

 女は平気で男の悪口を言うくせに、言われたら逆鱗に触れたが如く倍返しする世界になってませんか。

 見たかこの理不尽な有り様を!


「あーっと、それでくるみちゃん? くるみ……さん?」

「呼び捨てでいいわよ。あたしも勇真かスケベ兄さんって呼ぶから」

「なぜに!? 偏見だ、冤罪だ!」

「ふふ冗談よ冗談。はいはい、それで何よ?」


 でかいフォークでも持っていれば容姿も性格も小悪魔みたいな女だ。おのれ、いつか仕返しを……!


「いや、こっから先くるみ……はどうすんのかなと思って」

「あたし? ゾンビの誘導は飽きちゃったし……やることないわね」

「そうか――なら俺達の所へ来ないか?」

「えっ、あたしもハーレム要員にする気?」

「そんな幻想郷はないから! 気のせいだから!」

「う〜んそうね……話し相手が居ないから確かに女の子達が居るところは魅力的。だけど、あたし半分ゾンビよ?」


 何が言いたいのかは察しがつく。

 普通の女の子としては輪に混ざりたいが、半ゾンビ化してしまった今はリスクが高い。

 いつ暴走して生存者を襲うか分からない……そう言いたいのだろう。


 だが、くるみの身体能力が上がった代償は健とは違うんじゃないかと思ってる。

 現に俺が居てもくるみは平気なのが証拠だ。


「それがどうした? 俺も危険を想定するなら普通誘いはしない」

「どうしたって……ならなんで?」

「お前が欲しい」

「なっ!!?」


 ん……? これじゃあ変態がいきなりプロポーズしてるみたいに聞こえるか。


「あ……いや、すまん、言い方が悪かった。力を貸してほしくてな」

「ばっか最初からそう言いなさいよ!」

「ふごっ!」


 やはり言葉がまずかったようで、グーパンチをおでこにもらいクリティカルヒット。

 威力といい瞬発力といい雫のボディブローといい勝負だ。


「わ、わるい。いきなり殴らなくっても」

「なら蹴るわよ?」

「すみませんでした。……話戻していい?」

「どうぞ」


 無言の圧を感じながらも話は聞いてくれるようだ。第一印象どころか第二印象も最悪じゃねこれ……。

 ハーレムと変態プロポーズだぞ。そんな男怪しいどころじゃない。

 でも、説得はしたい。彼女が居ると居ないとでは今後全ての動きが段違いだ。


「男一人だけってのは知ってるだろうけど、今も家に女達だけを残して来ているんだ」

「うん知ってるよ」

「それでさっきのくるみの陽動を見ても、はっきり言って俺達の中で一番優秀で戦力になる」

「今度は誉めちぎり作戦ね?」

「事実を言ったまでだ。そこで俺が外出したりして居ない場合、守りの要として家を任せたい」

「……なによ真面目ね。まぁそれぐらい平気よ、任せなさい」

「良かったありがとな!」


 つい握手して手を上下させて喜んでしまった。

 くるみはポカーンとしている。


「あんた変ね。ただ、あたしがもしゾンビになったら……」

「きっと大丈夫さ。そう悲観的になるなよ」


 半ゾンビ化の代償は全く分からないが、何日も経っているわけだし影響はないと踏んでいる。

 健が俺にくるみを会わせたのも、くるみなら暴走もしないと内心分かってたんじゃないかな。

 同類だからなのか健がその狂暴性を体感してるからなのかは不明だが……。


「じゃあ服やら必需品の支度を頼む。玄関で待っとくから」

「ありがと、案外気が利くわね」


 そうしてくるみが支度を終えたのは三十分後だった。

 玄関はチョイスミスだったなぁ……寒いし長い。


「お待たせ、待った?」

「ウウン、マッテナイヨ」

「……そ? じゃあ行きましょ」

「……はい」


 今の沈黙は完全に嘘だとバレている。

 待ち合わせでこう聞かれたら、嘘でも待ってないと言えと言ったやつ出てこい。責任を取れ!



 雨は止んでおり裏口から抜けてマンションまでの道中、ゾンビとの遭遇もない。

 くるみがゾンビ共を国道へ誘導してくれたおかげだろうか。あっさりとマンション前までご到着。

 ……そういやゾンビの死骸を片付けてなかったなぁ。


 入り口付近へ山積みに重なった死骸を退かし、反対側の道へ放り投げる。

 もちろんくるみは手伝いもせず塀に登って足をバタバタ暇そうに動かしている。いいなお前は入り口に困らなくて!

 退かし終えて雫に合図を送ってみる。ちょっと経って梯子が降りる音が聞こえたので気付いてくれたようだ。


「今の何?」

「合図だよ。最上階には俺達しか入れないよう梯子を上げ下げして出入りしているんだ」

「ふーん、不便ね。あたしはベランダから行こうかしら。あそこよね?」

「うんあの部屋だ。……ベランダ?」


 違和感に気付いた時には器用にベランダからベランダへ移動しているくるみ。ただし、下から上にだ。

 日常ではまずお目にかかれない。あんな壁蹴りゲームでしか見たことないぞ。


 俺も急いで部屋へと戻る。梯子を降ろしてくれたのは智香ちゃんだった。ちょうど雫に休んでもらったとこらしい。……待てよ? ということは――。


「ちょっと! あなたなんなのよ? どこから入って来てるのよ!」

「ベランダからよ。あ、ダーリン」


 ダーリンてなんだよ火に油注ぐのはやめろおぉぉ!!



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