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白髪



 さっきまで閑散として静かだった店前の通りがざわつき始める。やっぱり音聞かれちゃってますよねー。

 はっ、呑気に待ってる場合じゃない。さっさとここから逃げないと!


 服は着替える暇ないからこのまま突っ走ろう。右見て左見てどっちもゾンビ接近中。ダメじゃん!

 こうなったら仕方ない。奥の手でマイフェイバリットスマホのアラームで誘導して、店前と片方の通路は空けさせよう。


 早速、離れた電信柱にセットして店の中に戻り身を隠す。

 音が鳴り気配がゾロゾロと動いていくのが分かる。

 そろそろいいかなーと顔を覗かせると、十体くらい居るゾンビにあたしのやかましいスマホが破壊されていた。それ発売したばかりの新作モデルで高かったんだぞチクショー!


「弁償しなさいよね! あっ……」


 ついつい声が出てしまい、血色の悪そうな顔が一斉にこちらへ振り向く。

 慣れない気持ち悪さに顔が引きつってるのが分かる。イケメンは居ない、居ても困るけど。


「あたし予定があるんで……失礼しまーす!」


 こっちへ動き出したのを確認して、反対方向へ全力ダッシュ。

 速い。元陸上部とはいえタイトスカートを履いたまま出せるスピードとは思えない。

 後方を見るとさっきまで居た集団がもう点になっている。

 あたし世界陸上出れるじゃん。あ、もうすぐ日本で五輪だっけ。観客は……ゾンビだけ? まず悠々とスタート位置につけないんですが!


 そんなことを考えてると家の裏に到着。やっぱり早い、あたしの足ハンパないって。

 さて、周辺を彷徨くゾンビは二体。あたしは問題に直面。脚立が塀の向こう側にあるせいで、こっちからは戻れないんですが。頭良い予定のあたしカムバーック!

 高校で塀を乗り越える時に梯子を使って反対へ持って行き、授業中に抜け出す馬鹿が居るんですよーって後輩が言ってたのを今思い出した。

 馬鹿は詰んでるあたしの方じゃないのさ!


 こうしている間にもゾンビがジリジリ、ジリジリ。待ってよ、あたしにも心の準備ってもんが……え、身体だけが目的? あぁ、そう。

 はいはい男はみんなそうなのよ、知ってた。うん、ゾンビに小芝居している場合かあたし!

 このままだと一生家の周りをぐるぐるして追い掛けごっこになってしまう。なんとかして塀を乗り越えないと……そうだ! 走り高跳びでいけるんじゃない?

 今なら加速はばっちし、勢いで生きてきたあたしならきっといける。根拠なーし。


 とりあえず挟み撃ちはマジ勘弁だから、うまく道路端をすり抜け家前へ誘導。げっ、一体増えた。

 ま、まぁ予定通りかな。体型が似てるから並ぶと兄弟みたいね。よし、彼らはダンゴ三兄弟と名付けよう。

 今のうちに裏庭の塀を目指して加速、加速。まだちょっと速度と距離感が掴めないな。角を曲がるのに行き過ぎそうになる。


「見えた。よーしいっくぞー」


 海外では吉○三さんって自己紹介がイエス、レッツゴーで通じるって本当かしらね。どうでもいいか!

 加速したまま思いっきりジャンプ。身体を横に向けて……あれ、高すぎない?

 思いの外易々と塀を飛び越えてしまい、裏庭へダイブ。勢いがついてゴロゴロゴロゴロ、あう痛い。


 目的は達成されたけど、服と髪が汚れてテンション萎え萎え。

 いや、問題はそこじゃなくて。あたし今めちゃくちゃ飛ばなかった? 現に塀へ掠りもせず乗り越えたから、気のせいじゃないと思うんだけど……。

 ちょっとジャンプしてみようか。おぉー二階の窓から中が覗けちゃうぐらい飛んでる。これは気絶している間に内なる秘められた力が……!


 他にも変わった所がないかなーなんて試してみたけど、力が強くなっていたり手が伸ばせたりだとか、そういう変化は見られない。

 まぁ身体に違和感があれば追々試せばいっか。部屋に戻ってシャワーを浴びよっと。


 そこから数日間は何も変化がなく、外のゾンビを相手に捕まらない鬼ごっこで暇潰しする日々。

 強制的に鬼はあっち、逃げるのはあたし。いくら逃げても疲れないもんだから、この辺のゾンビはほぼ全部国道へ誘導してみた。

 国道はあたしが打ち上げた花火のせいか既に沢山溢れてたけど、どうせなら一ヶ所に集めた方がいいよね。


 音に鈍いやつと集団を引き付ける用に持ってきた鈴も役に立ってくれてる。

 でも、あたしはこの誘導時にミスをしちゃった。

 鈴の音はあたしの超スピードと相性が悪くて、ついつい意図しないタイミングで鳴らしてしまう。

 前方に注意が向きすぎて背後の路地から迫る変態に気が付かなかったんだよね。あ、変態ってのは白髪のセクハラジジイのことね。


 超スピード出したタイミングで手を伸ばされたもんだから、お気にのスカートに引っ掛かって少し破れちゃった。おのれ許すまじ!

 ジジイに生前の恨みをプラスした飛び蹴りやら軽く説教してたけど効果なし。気付いたら音鳴らしまくりで周り囲まれてるよね。うん、ヤバい。


 塀は遠いしゾンビの上を跨ぐしかないかなぁなんて浅はかな希望を抱いてると、後ろの方のゾンビが宙を舞っている。

 え? こいつら体操選手みたいな動き出来んの? そんなの聞いてないんだけど。

 呆気に取られていたら最前列のゾンビまで吹っ飛んで原因が判明。

 若いイケメンなお兄さんが殴り飛ばして助けに来てくれました!


「君、とりあえずここから逃げるよ」

「はい!」



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