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刑戮



「そうそう。君に見せたい場所がある」

「どこか行くんですか?」

「まぁついてきたまえ」


 部屋を出てしばらく廊下を歩かされ、エレベーターに案内される。

 別荘にエレベーター? どんだけ金持ちなんだよ!


「実はここの地下からあるところに繋がっていて、付近の住民には一切知らされていない場所なんだ」

「へぇ地下にそんなものが」

「共同施設とでも言えばいいかな。アメリカじゃ個人向けに販売されている地下シェルターがあるんだけど、日本だと共有化されていて入り口もそれだけあるのさ」

「なるほど、そこには避難した大勢の人が居るわけですね」


 もしかしたら俺や智香ちゃん達の家族も居るのかな。


「大勢……ではないと思う。少なくともそれを知っているのはセレブと呼ばれている人達が多数だ。まぁ彼らは自分の凄さを見せびらかしたがるから、他に人を呼んでいる可能性もあるけど」

「そうですか……」


 シェルターつっても収容人数に限りがあるもんな。

 そこへタダで入れてくれなんて都合がよすぎるか……。


「着いたよ、ここさ」

「こんなにでかいんですか!?」


 根原さんがパスワードを入力し中を案内してくれる。

 ボーッとしていたせいで目の前に現れた巨大な建物を壁としか思わず、その広さに驚かされた。

 ここから見えるだけで東京ドームぐらいはあるんじゃないか。

 行ったことないけど。


「日本だとこの程度だけど、アメリカならゴルフ場や娯楽施設が完備されていたり、約百人が五年分凌げるだけの食糧備蓄があったりするんだよ」

「ほえ〜地上より凄いんじゃないですかそれ……」

「まぁね。そういうシェルターはセレブの競争心を煽って、造られる度に完売しているみたいだね」


 話を聞くだけじゃスケールがでかすぎて想像もつかない。

 もっとこじんまりした避難場所かと思ってたんだけど、シェルターって天国なの?


「それで案内したいのはこの先の闘技場なんだけど……」

「けど?」

「先に言っておこう。セレブ達が危機感を持たず退屈すると、こういう娯楽が生まれてしまう。気持ち悪さや怒りは無意味だと思ってくれ」

「? はい分かりました」


 闘技場って誰かが闘っていてそれをセレブが暇潰しに観戦してる感じかな。

 根原さんは何を懸念しているんだろう。


「うっ、なんですかここは!」


 まずうるさい。映画館とは真逆と言っていいぐらい見渡す限りのセレブが熱狂している。

 そして、臭い。血の臭いと何かが混じったような臭いで気分が悪くなりそうだ。


「あれを見てごらん」

「ん? 人が居ますね」


 囚人服っていうのかね。それを着た人がポツンと真ん中に立っている。

 何が起こるのか待っていると、盛り上げ役であろうマイクパフォーマンスの合図と共に、両側のシャッターから鎖に繋がれたゾンビが姿を現した。


「ちょ、闘うって相手ゾンビじゃないですか!」

「あぁ、しかも二対一であの男には武器も与えられていない。これが見せ物と化しているのがここの現状だ」

「あの人がみすみす殺されるのを楽しむって言うんですか!」


 そんなのおかしい。ここの連中は狂ってる。


「そうだね。ごもっともな怒りだ。だが、あそこで闘う人物も善人じゃない。まだ平和な頃に死刑囚と呼ばれていた人達さ」

「え?」

「そして彼らは外の惨状を全く知らない。もちろんゾンビのこともね。そこで彼らにチャンスが与えられた」

「チャンス?」

「闘技場で対戦相手に勝てば外に出られるというご褒美だよ」

「そんな無茶苦茶な……」


 失うものがない賭けなら誰でも参加するわけだ。

 多分、ゾンビを見るまでは相手がプロレスラーだとか対人間だと思ったんだろうな。

 死刑囚が出るために牢屋の檻の中ではなく、別の檻の中に居るのも不思議な感じだ。


「まぁ、こんな世界で時間が経てばいつまでも来ない看守を待ち続け、彼らは牢屋から出れず餓死するだけだった。そう思えばマシな選択かもしれない」

「さっきの忠告はこういうことだったんですね」


 人が食べられている様を嘲笑うセレブ共にかつてないほど腹が立つ。


「本人達は闘技場としか知らないが別名刑戮場、つまり処刑場と同じ。彼らには最初から希望はないんだよ」

「そんなのって……あんまりだ」


 誰かの命を奪ったかも知れない。死刑囚になるとは余程の事をしたんだろう。

 自業自得で片付けてしまえば割りきれるかもしれないが、俺は無視できない。


「なら俺があのゾンビを殺して……この腐った連鎖を食い止めてやる!」

「フフ、その言葉を待っていたよ」

「なっ……に?」


 気付けば背後へ根原さんが立っており、いつの間にか首元へ注射されている。


「まだ君にはあの二体は早い。じっくりと強くなってもらわなきゃ」

「な……にを、いっ……て」

「鈍感にも程があるよ健くん。私がこの場を設けたのさ。全ては私の最高傑作のためにな!」


 ダメだ……もう、意識が――。



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