その14
生育環境に関してのミールの意見は、一応ディルも耳を傾けてはみたもののすぐに実行に移せるものではなさそうだと言う結論になった。
ミールが出した意見は、成人してから学ぶ事になると言う魔法に限らず、もう少し幼い頃から他の同年代の者達と共に学ぶ場――いわゆる『学校』――を作ったらどうかと言うモノと、子供たちが集まって遊べる『公園』について提案した訳だが、これらはいくら『国王』という職に就いているディルでも勝手に決定する訳にはいかない。
山人の『国王』は世襲制の位ではなく、魔力の高いものが就く職業である。
他の国に通りが良いからと『国王』と言う名称にはなっているモノの、実態は総理大臣とか大統領とかの方が近いのだ。
「悪くない案だとは思うが、なにはともあれ、アニスの件では手遅れだな。」
ディルのその言葉に、ミールは不満顔をしながらも頷く。
「そうですね。次代の為の参考にでもどうぞ。」
「そうさせてもらう。」
実際のところ、500年前は出生率が低過ぎて100年に一度程度しか子供が生まれなかった。
だからそういった機関を作る意味が無かったのだが、現在はその頃よりは出生率が上がっているのだ。
それを勘案するなら、確かに『学校』を設立するのも良いかもしれないとはディルも思う。
新しいモノの実現には時間が掛かるというのは、どの種族でも同じ事だが。
「それで、アニスの件の方では良い案はないのか?」
「錯覚してようがなんだろうが、本人が好きな相手が居ると思っている状態でお見合いパーティに出ろなんて言われて、喜んで出席する人が居るなんて思えないけど……。」
「だから、お見合い目的じゃなくお披露目パーティだと何度言えば……。」
改めて意見を求めて見たモノの、ミールは未だに『お見合いパーティ』だと決めつけていて話にならない。
このままでは、やはり無理やり連れ戻す羽目になるのかとディルは杯片手に項垂れる。
「そもそもアニスさんは、なんでそのパーティを『お見合い』目的だと思ってるのよ?」
ミールの唇を尖らせながらの疑問は、チコリとビルも感じていた事だ。
そもそもがただの交流会だというのなら、それが『お見合い』だというその勘違いが無ければアニスが家出をする事もなかった筈だろう。
最初は渋ったディルだったが、結局、事情を離す事にした。
といっても、単にアニスの両親の馴初めの事なのだが、個人的な話題になる為あまり周囲の耳目の集まる食堂の様な所で話したくなかったと言うだけではある。
アニスの両親は、彼女の母のお披露目パーティで出会い、父親の猛烈アピールの末結婚に至ったというだけだ。
「で、それを母親が『貴女もお見合いだと思って頑張らなくちゃね!』と炊きつけていたらしい。」
「……それは、アニスさんの『恋心』的なナニカを知った上で?」
「だからこそ、余計にしつこく言い聞かせたらしい。」
事情説明を終えると、ディルは深々とため息を吐きつつうな垂れた。
食堂のミール達が居る一角に重い沈黙が落ちる。
「それは……気持ちは分からないでもないけど……」
「お母さんが追い詰めてますね。」
「いわゆる逆効果ってヤツだなぁ……。」
そのおばさん(多分見た目は若い)が娘にやらかした事の後始末の手伝いを頼まれているのか。
ミール、チコリ、ビルの三人は目を見交わしながら、相手が同様の事を考えているのを確認する。
確認したからと言って、何が変わると言う訳でもないのだが。
ただ、ミールはアニスとあわよくば友人関係になる為に、出来る限りの事をするつもりは最初からあったので、多少の予定外の自体は諦めも利く。
他の二人は完全にそのとばっちりだが、ここまで事情を聴いたうえで『私(僕)、関係ないんで』と言えるほど図太くない。
結局お人好しの二人は、困っている人を見捨てる事が出来ずにミールと一緒に知恵を絞る羽目になったのだった。
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