第四話 俺の剣
歴史を紐解こう。
人が自分より大きな動物や、人よりも遥かに強い動物に何故勝てるようになったのか。
徒手空拳で倒せる限界は、30kg以下の動物までであると言われている人間が、何故それより大きい動物たちを狩れる様になったのか。
答えは俺の手元にある。
そう――
「剣ゲット!! いやっほーーーい!!」
――武器である。
◇
一旦、生き返る際に必ず戻されるところ、0階層つまりは拠点に戻り、じっくりと成果を眺める。
死んで生き返った当初、身体に刺さっていたはずの剣が無かった時のショックったらなかった。
その分、涙目で俺の剣どこと、前回死んだ所であるゴブリン部屋の扉の前まで探しに戻り、普通に落ちているのを見つけた時の嬉しさは倍増したのだけど。
もうね、涙に鼻水に色々垂らして喜んだわ。
ぶっちゃけ、宝くじで一等が当たったぐらい、いや、それ以上に喜んだのではないのだろうか。まぁ、宝くじが当たったことはないのだけど。
「ふむふむ」
座りながら上から下まで、しげしげと剣を見つめる。
とりあえず、良い仕事をしているかはわからないが、『良い仕事してますね~』と、言いつつ裏に表にしつつ意匠を眺める。
剣としてはオードソックスなタイプ。意匠と言う意匠はぶっちゃけ無い。
1メートルは無いぐらいの反りの無い刀身に模様のない鍔、RPGとかでよく見かけるショートソードと、言ったところだろうか。
「ふへへへ」
自然と、自分でも分かる程にやけてしまう。
だって、この剣ってば俺の剣なのだ。
相棒という名のマイソードなのだ。
「俺の剣、ふへへへ」
思わず刀身に頬ずりしてしまう。
しかし、剣とだけ言うのも無粋である。なんせこいつは、これからの俺の命運を握る相棒なのだ。
であれば、名前を付けてあげねばなるまい。
こいつに似合うような、そんなイカした名前をつけてやらねば。
改めてそのシンプルな外装を見る。
質素でシンプル? いや、この溢れんばかりの真実剛健ぶりは、名刀に勝る勢いに違いない。
刃が少し欠けてる? いや、きっと欠けた場所にはそれだけの伝説があり、歴戦の勇士が所望していた証拠に違いない。
「ふむ」
答えは決まった。いや、最初から決まっていた。
こいつと出会った瞬間から、恐らく決まっていた。
「よろしく、エクスカリバー!」
もう、意匠とか関係ない。俺の期待を込めた。過分に込めた。
そして、刀身への頬ずりを再開しつつ、俺の愛をエクスカリバーへ過分に注ぐ。
刀身が溶けてしまわないかと思うほど頬ずりした後、ある違和感を感じ今一度エクスカリバーを見た。
こうじっくりと持ってみると分かることがある。じっくりと持ってみて初めて気づくことがある。
「……結構、重くね?」
そう、重い。エクスカリバーさんには悪いが、ちょい太めじゃなかろうか。
いや、誤魔化すのは本人の為にならないので正直に言う、ちょっとじゃない、だいぶ重い。5kgのお米2つ分は優にある。
浮かれてここまで持ってきた時には、そんなに気に留めなかったが、いざ持って確認して見ると結構重い。
いや、知識として、鉄の塊である剣が重いというのは知っていたのだけど、実際に持ってみるとこんなに重いとは思わなかった。
まぁ、重いからこそ、その威力にも期待できるのだから、トレードオフなんだろうということも、分かってはいるつもりだ。
そう、分かってはいる。分かってはいるのだけど、どうしても、気になる事というか不安点が一点ある。
「……これ振り回せるよな?」
ちょっと不安になる。なんせ俺は、剣道とかやったことがない上に、体育会系でもないので筋力もない。
つまりは、筋力普通のカスタマイズ感ゼロ。雪山に篭らなくても、有りのままの姿を四六時中見せてる程度にはどノーマルである。
「うーん」
まぁ、悩んでも居てもしょうがない。物は試し、やってみるか。
「んしょ、と」
立ちつつ剣を構えてみた。
重さに堪えかねて腕がプルプルするかもしれないと思ったが、思いのほか大丈夫だ。
では、とエクスカリバーを上段に構えて、
「――!」
振り下ろす。
……ふむ、なんか様になってるように思える。
ここに剣道の経験者が居たら、もしかしたら目を覆ってしまう惨状なのかもしれないが、今は居ないので大々的に宣伝しよう。
「俺、剣の道に至ったわ」
ふっ、と自分が思うニヒルな笑いを受かべつつ自己陶酔に走る。
「さて、行くか……」
目指すはスライム部屋。
仇敵スライムを狩る側に、ようやく、ようやく成った。
「ふ、ふはは、ふひゃひゃひゃひゃ! スライム相手に試し斬りじゃーー!!」
エクスカリバーを肩に担いで、スライム部屋へと走る。
スライム部屋に駆けてる最中、思うことがあった。
鞘が欲しい切実に。
やっぱり重いわエクスカリバーさん。