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第二十話 祝福の音

 人間暇になってくると色々と凝りだすもんだ。

 これに嵌ったのは、どうだろう、多分1000年は行かない程度には昔だろう。


 手元にある、木で作った楽器を見る。

 叩くとポクッと音がした。

 このポクッを自分の気の済むまで拘ったら、いつの間にか時間が過ぎていたのだ。

 至高のポクッを求めて、ダンジョン内に木を植える計画を思いつき、バリディアガスと共に試行錯誤を凝らした日々。

 土系魔法と水系魔法、そして、バリディアガスから教わった生成魔法を軸にあらゆる方向からチャレンジし、その木は生まれた。

 苦労した。本当に苦労した。木を作るだけで、あんなにも難しいとは夢にも思わなかった。


 木とて一つの生命である。

 それを生み出す行為は、この世界のシステムを揺るがす行為だと言えるとは、バリディアガスの談。

 魔王なのだから、モンスターを生み出してるのだと思ったら、そうではないらしい。

 あれは、この世界に於けるシステムを通して生まれるものであり、自分で作るものではないのだとか。

 まぁ、そんな非難めいた事をいいながら、キラキラした目で俺を手伝っていたバリディアガスは、間違いなく同罪だが。


 とにもかくにも、木を生み出し、至高のポクッを求める旅は続いた。

 あの木が良いに違いないと思えば積極的に作り、品種改良が必要だと感じれば、これまた積極的に行った。


 また、モンスターを倒した際に俺の中に吸収されている物の正体がわかった。

 木のレベルを上げる事で、ポクッのレベルを上げようと思いついたのが事の発端である。

 木のレベルを上げるにはどうしたら良いか散々悩んだ結果、モンスターから吸収しているものを分ければ木のレベルも上がるんじゃないかと考えた。

 では、モンスターから得ているものは何なのかといえば、何てことは無い、バリディアガスが答えを持っていた。

 それは存在の力なんだそうな。それを得る事でそいつは存在を増していくんだとか。

 つまりは、それがレベルに繋がる。


 バリディアガス曰く、一度得た存在の力は魂が壊れるか消滅するか、どこかで入れ直しされるまで、延々と累積される物らしい。

 じゃあ、俺はというと、どうも自分で気づいていないだけで、魂の総量自体はどんどん増えているのだとか。

 バリディアガスが言うには、ここに居る俺とは別に、このダンジョンには俺の魂の本体があるらしい。

 俺が死んでレベル1に戻った暁には、その本体の方に上げたレベル分は吸収されているのである。

 どうも精神状態のリフレッシュや、記憶の保管もその本体が関係しているくさいのだけど、真相は定かではない。

 ついでに、その本体がこのダンジョンに縛り付けてられている限りは、俺はこのダンジョンから出られないんだとか。


 とにもかくにも、その存在の力とやらが実際にあるのだとしたら、分け与えられるんじゃないかと思い実行してみた。

 結論を言えば、問題なく出来た。まぁ、やったらレベルは下がるわ、下がったレベルの分だけダウナーになるわで、大変だったのだけど。


 そんなこんなで、木のレベルが上がった事により、ポクッのレベルも比較的向上した。


 機能美から始まり、ポクッが生み出す心理面の調律、そして、ポクッが生み出したシンプルが故の至高の響き。

 それら全て、俺たちの理想の果てにあるものだった。


 ――幾千、幾億のポクッを鳴らし、理想を求めた。


 ――幾千、幾億のポクッを鳴らし、理想に裏切られた。


 ――幾千、幾億のポクッを鳴らし、理想をまた描いた。


 そして、幾千、幾億のポクッを鳴らし、理想に追いついた。


 人はもしかたらこの至高の楽器を、こう無粋に呼ぶのかもしれない。木魚、と。

 だけど、俺とバリディアガスは決めていた。これを木魚とは呼ばない、と。

 俺たちの至高の傑作が、そんな単純な名であることが、許せるわけがなかった。


 だから、名付けた。新たに命名した。

 その名は、次郎&バリディアガスを略して、ジガス。

 この世界の至高の楽器にして、俺たちの理想の具現。

 何度でも言おう、世界に響くように、数多の世界へ轟くように!


 その名は、ジガスッ!



「ふむ……」


 手元のジガスを叩く。ポクッと至高の音が響いた。

 聞くものが聞けば、卒倒するであろうポクッである。


「ようやくここに至ったな」


 バリディアガスが感慨深げに呟いた。


「ああ、漸くだ……」


 思わず感慨深げに呟いてしまう。

 だって、このジガスってば、俺たちの約1000年におよぶ努力の結晶である。

 思い起こせば、遠い昔。それは、1000年ほど前の――

 ん? 前の?


「時にバリディアガスさんよ、俺たちは何でこれを作ったんだったけか」


 悠久の時間の果てに置いてきた、そんな素朴な疑問。


「……お主が作りたいって、言ったんだと思うぞ?」


 バリディアガスが小さな手を顎に当てて何やら考えた後、そんな結論を出す。


「そうだっけか」


 ポクッ、ポクッと、音を鳴らし続けて、時の狭間に落ちてしまった、当初の目的を思い出す。

 何かあったはずだ、そう何か大切な目的があったように思えるのだ。

 何だったか、確かこのダンジョンに関することだったような――


「あ~、わかった。そうだ、あれだ。このダンジョンの脱出」


 思い出した。確かにそうだったはずである。

 色々と紆余曲折を経て、最終的にこんなツマラネー世界には楽器が必要なんだぜと、よくわからないノリになり今に至る。


「そういは、そうらっはな(そういや、そうだったな)」


 バリディアガスがうつ伏せで寝転がり、ドラゴンの肉で作ったドライソーセージを、もきゅもきゅと食いながら、そう答えた。


「ははは、そうそう確かそうだったわ!」


 思わず笑ってしまう。

 もう、笑うしかあるまい。

 だって、俺たちいつの間にやら楽器作ってる。

 爆笑だ。大爆笑だ。


「て、おーい! 何やってんだよ、俺たち!」


「はっ!?」


 ドラゴンの肉のカスを頬っぺたに付けたまま、バリディアガスがハッとなる。


「おい、1000年を無駄に――いや、このジガスが無駄という事は決してないけども!」


 思わずジガスを地面に叩きつけようとして、慌てて正気に戻って踏みとどまった。

 別にこのジガスが悪いわけではない。寧ろ良い、すごぶるいい。

 だが、このやるせない感情はいったいどこに行けば良いのだろうか。


「確かに無駄に――いや、ジガスが無駄という事は絶対にないのだけど!」


 バリディガスがジガスを否定しようとして、慌てて方向を修正する。


「「……」」


 二人揃ってジガスを見た。

 この子に罪はあるまい。

 いや、そもそも、この子にそんな否定的な感情が向けられる事すら、本来なら在ってはならないのだ。


 それを、産みの親である俺たちが行う事など、言語道断だろう。

 ギリッと歯を食いしばり、バリディアガスへと目を向ける。

 バリディアガスも同様の想いだったのであろう、俺の目を見てコクンと頷いた。


 やるしかあるまい。

 思い起こせば、そもそもジガスを作ったのは、その目的を果たすのが前の俺たちでは無理だったからである。

 だが、だが、今の俺たちならば――


「やるぞバリディガス! 前は無理だったのかもしれない! しかし、ジガスを作れた今の俺たちならば――」


「ああ、私たちならば――」


 共に頷き合わせる。

 ついでに、ポクッとジガスの至高の音も頷きに被せる。


「「――絶対にやれる!!」」


 そして、このダンジョンに宣誓するように、声を上げた。





 脱出する方法自体は程なく見つかった。


 それは、ジガスを作成した際に見つけたものである。

 やはり、ポクッは俺たちを祝福する音だったわけだ。


 方法としては簡単な話。

 このダンジョンに、俺たちの魂は縛りつけられているわけだから、その縛っている力を超える力を魂が持てば良いだけである。

 要は、モンスターを倒すと、存在の力とやらを吸収しているのだから、モンスターを狩りまくっていれば、何れこのダンジョンはオーバーフローを起こすというわけだ。


 まぁ、女神が作ったとかいうダンジョンが、並大抵のスペックではないのはわかっているが、俺を取り込んでしまったのが運の尽き。

 バリディアガスでは、100層から下に降りられない為、そんなことは出来ないが、どうやらイレギュラーである俺には階層の縛りは無いので問題なく出来る。


 思い立ったら即実行ってことで、やったことはこれまた簡単だった。

 このダンジョンは、5階層ごともしくはそれに繋がる直下の階層以外は、モンスターがリポップする。

 つまりは、そのモンスターを効率よく狩っていっただけである。

 

 モンスターを効率よく狩る為には、一々自分で攻撃していては非効率。

 では、どうすれば効率的に狩れるのかと言えば単純だった。

 そう、埋めるのだ。スポーン場所を隈なく、俺が生成した土で埋めてやれば、土で埋まったスポーン場所に、無理やりスポーンしようとして、そのまま出現できずに死ぬ。

 そして、俺が作った土で死んだということで、そのまま俺に存在の力が吸収されるって寸法である。

 各階層の扉先輩が壊れる事は無いし、ダンジョンの床や天井も表面は削れても、1cmも削ればそれ以上は削れないからこそ出来る戦法だった。


 存在の力を吸収しては、バリディアガスに半分を分け与える。

 ここまで来てしまえば、この魔王も一蓮托生だった。

 変態であるとか、骸骨であるとか、最早どうでもいい。

 だって、ここまで長い間一緒だったから。


 後は俺が生きているだけで、存在の力を吸収できる為、暫くは各々気ままに過ごした。

 俺は、現実に帰るのだからと、持っていけないであろう魔法をより研究したし、バリディアガスは少女とは何かを研究し続けた。

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