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第十一話 全ての道は食に通ず

 三大欲求に直結するものが、いつだって技術の開発を加速させる。


 俺の場合で言うと食だ。

 というのも、このダンジョンで楽しみな事なんて一つしかないからである。

 そう、それが食事なわけだ。もう、それしかないといっても良い。


 一度でも良い、スライムだけを食べて生活をしてみて欲しい。

 味のあるものが、どんだけ素晴らしいか分かるはずである。


 焼いた肉を食べられるようになった今でも、当然その不満はある。

 焼いた肉は確かにそれなりに美味しい。

 味は少ないが、それでも肉本来の味で美味しいのだ。

 でもね、やっぱりそれは“それなり”なのである。


 それは、味付けをした事のある肉を知っているからこその悲劇。

 恋しくなるのだ。とても、恋しくなるのだ。あの濃い味が。

 一振りの塩だけでもいいから、肉へ、こんがりと焼けた肉へ掛けてはくれないだろうか。


 いや、もう肉には拘らない。味だ、とにかく濃い味が欲しい。

 しょうゆでもいい、チーズでも良い、とにかく恋しくなるのだ。濃い味が。


 だからこそだろう、水の魔法を研究している時に見つけた、生成した水の味を変える式の構築の仕方を発見したことが、俺の魔法の理論を数段上へ押し上げた。



 味を変える魔法を発見してからは、全てを忘れて味の探求者になった。

 ひたすら味を求めて、水系統の魔法を研究し続けた。

 次に、火だ。ゆっくりなぶるように焼くのと温度だけを急激に上げて焼く、それだけでも味のバラつきが大分違うことに気づいた俺は、火系統の魔法の研究に没頭した。

 そして、それに伴って火と風はセットでなければ、燻製が上手く出来ないという事に気づき風系統の魔法に没頭。ついでに、遠赤外線を思い出して土系統の魔法にも没頭。


 このダンジョン唯一といっていい楽しみの幅が、格段に広がる方法を見つけたのだ。

 それまでの魔法の研究と、集中力と妄執のレベルが違う。

 考えるだけで、脳汁が溢れちゃうぐらいに違う。

 故に、味を求めてからの魔法の研究は、自分でも何でこんなこと思いつけたんだと、振り返った時に思うぐらいにはレベルが違った。


 俺は水魔法で醤油味を精製出来た時の感動は、一生忘れないだろう。

 ミノタウロスに、醤油ベースの魔法の水をドバドバぶっかけ、火の魔法で焼く。

 食べた時に溢れ出る味の付いた肉汁に、原始人からいっきに現代へタイムスリップしたなんて感想を抱いたものだ。


 複数の魔法の理論が上がる事で、複合的に色々な物を発見していく。

 身体強化に回復魔法、上げれば限が無い程の発見スパイラル。

 このダンジョンに、俺起点の魔法使いという歴史があるとしたならば、その時がまさに黄金期だった。



 さて、黄金期があるならば衰退期もある。

 いや、衰退という言葉は好ましくないのかもしれない。

 単純に自分で見える範囲では出尽くしたし、理論の方も完全に近い形になっているということだ。


 魔法の式に魔力フィルター。以前、あれだけ悩んだモノの解を俺は得ていた。


 魔法の式については、近似式である為、黄金率がまだ存在する可能性はあるが、それでもこの世界のシステムが生んだ式に近い自信はある。

 魔力フィルターに関して言えば、今や100%に近い変換効率を誇っている。リッチ先生が0.01%程度の効率しかないと言えば、どれくらいのものかわかるだろうか。


 ついでに、この魔力フィルターは外部にも展開できる。何が言いたいのかと言えば、自分の魔力に頼る必要がまったく無いということだ。

 体内で自動的にやっていた処理を外部で全部手動でやる為、自分の中で生成するより時間は掛かるが、自分の中の魔力に頼らない分、この世界に満ちている魔力素の分だけ魔法を生成できる。


 この世界の魔力素がどんだけあるかは分からないが、観測している分で言うと空気と同じぐらいはある。

 つまりは、最早時間さえあれば魔法で出来る範囲であれば何でも出来た。





 目の前にドラゴンの巨体が倒れていく。

 辺りには未だに、放電の余韻なのか、至る所でバチバチと音を立てていた。


 放ったのは、雷系統の魔法。

 明確に名前を付けているわけではないのでこれを使ったとは言えないのだけど、雷系統の魔法で下から数えて8段階目くらいの威力の魔法だろうか。

 簡単に言うなら目の前に例がある。

 要は、ドラゴンを一撃で倒す程度の威力だ。


 ちなみに、これ以上威力を上げると空間が歪むというか、空気が捻じ曲がるような感覚を覚える為、放つことが難しい。

 いや、一回放って、俺ごと巻き込んで死んだので、どうなるのかがわからないと、言ったほうが正しいか。

 後で死んだところに戻ってみたら、部屋の中央に黒い塊が浮かんでいて、なんかえらい物を生み出してしまったと後悔したっけか。

 ま、その後すぐに消えたので害はなかったのだけど。



「うん、こんなもんだろ」


 目の前の成果を見て、一人納得する。


「しっかし、結構掛かったな~」


 目の前の成果であるドラゴンの死体を、軽くポンポンと叩きつつこれまでを振り返った。



 累計死亡回数にして278239回。

 モンスターに倒されるということが、ほぼ無くなったので、大概が病気で死んだか往生した結果による物である。

 振り返れば途方も無いが、実感にしてみたらそれほど長くは感じない。

 ぶっちゃけ、割と充実していたので、苦にならなかったってのが大きいだろう。


 そして、今や、魔法で出来ない事が無いといっていいほど、魔法が使えるようになった。

 もう、倒せない敵なんていないだろう。

 ドラゴンだって雷系統の魔法一撃で倒したし。


「おし、じゃあ行くか!」

 

 もう、このダンジョンの攻略も目前だった。

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