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第十二話 紅眼先生

 魔法が使えりゃ勝てない敵は居ない。


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 そんな俺の魔法への過信を、見事に打ち砕いてくれたのは、99階層目の敵。

 フルプレートの騎士の様な姿とフルプレートから覗く紅い眼に、敬意と脅威と皮肉を込めて『紅眼先生あかめせんせい』と俺は呼んでいる。



 それは、何時ものように意気揚々と、紅眼先生に対して必勝パターンを行った時のことだった。


 堂々と剣を地面に向けたまま仁王立ちする紅眼先生に向けて、99階層目の扉の向こうから魔法を撃ったわけだ。

 当然、俺はそれで決まったと思った。

 ドラゴンも一撃で倒した大出力の雷系魔法である。

 あんなフルプレートなら、通電して一撃だろうと、俺はそんな風に思っていた。


 だが、現実は違った。

 なんと、魔法が紅眼先生に届く直前で、霧散してしまったのだ。

 他の系統の魔法も全て一緒だった、

 魔法で出来た現象は、全て紅眼先生に届く前に消滅してしまう。

 雷も炎も水も氷も土も風も駄目、重力ですら駄目。

 まさか、まさかの魔法無効化の敵だった。


 正直、その時の焦りぐあいったらなかったが、俺も長い期間、魔法を研究してきた人間である。

 直ぐに切り替えて、なら直接戦えばいいと、その為の魔法を使えばいいと、そんな風に思ったわけだ。


 身体強化にしておよそドラゴン×100体分。

 これ以上掛けても効果は薄いというところまで掛け、エクスカリバーおよび俺のパジャマに、これまた限界まで強化を施す。


 それだけで勝ったと思ってたし、実際にそれだけの準備をしたと思っていた。


 でも、それは99層目の扉に入り、フロアを歩いて20歩程で分かった。絶対的な間違いに気づかされた。


 突然だった。それしか言いようが無いぐらいに突然だった。

 俺の認識で言えば、紅眼先生が目の前から消えたと思ったら、次の瞬間には後ろに回りこまれていたのだ。

 そして、その時に気づいた。痛烈な痛みと斜めにずれて行く視界を認識し、理解させられた。ああ、こいつにはどう足掻いても勝てないと。

 30m以上離れた位置から瞬間的に相手に詰め寄り、そのまま相手に気付かれない内に袈裟切りに斬って落とす奴に、どう抗えばいいと言うのだろうか。


 それから、何回か戦ったが、対峙した瞬間に細切れにされるのだから敵わない。

 毎回、何も出来ない。というか、剣を持っているのだから、恐らく剣を振っているのだろうがそれがまるで見えない。手元に集中しててもわからないのだから手の施しようが無いだろう。


 身体強化を掛けているのに見えない。耐えられない。

 単純に速いだけなら、魔法で極限まで上げた身体能力で、見えているはずなのだ

 それなのに、紅眼先生の攻撃は見えない。

 紅眼先生には、速いだけではない何かがあった。







「どうすりゃいいのよ……」


 もう、何度言ったのか分からない降参の言葉を漏らす。

 だって、強いんですもの彼。

 魔法が効かないとか、それチートですやん。

 普通それって、こっち側にあるべき奴でしょう。

 なんで、当然のように魔法を無効化しまくってるのよ。


 再びレベル1に戻ってしまった身体を、0階層に仰向けに横たえて考える。

 レベル1自体は、最早嘆く事でも何でもない。

 魔法は知識さえあれば使えるからだ。

 自身の魔力を使うなら別だが、魔力を外部から調達する分には、レベル1でもまったく困らない。


 だが、魔法が効かないとなると、まったく違う話になる。


「たくっ、フルプレートなんだから、せめて雷は通すとかしろっつーの!」


 どこぞの大冒険知らないのかよと、悪態を吐いた。

 しかし、本当にどうしたものか。

 どうにかして勝つとなると、やはり古典と伝統に則って、レベル上げということになると思うが、そもそも、レベルを上げたところで、紅眼先生には勝てる気がしない。

 レベルを上げて何とかなるんだったら、身体強化の魔法で何とかなってるはずなのだ。

 身体強化じゃどうしようもないのは散々確認した以上、レベルを上げたところで同じだろう。


 なら、どうするか。どうしてくれようか。

 現状、答えが出ない。というか、たぶん答えなんか無い。

 ぶっちゃけ、魔法でどうにかできない時点で、諦めムードが俺の中で漂っていた。


 だって、あれだけ頑張って身に着けた魔法が効かなかったのに、他に何があるって言うのよ。もう無理だろう。

 ゴロンと、仰向けにしていた身体を横に向ける。


 ふと、床に大量に置いてあるエクスカリバーが目に入った。

 実際には大小様々で意匠も違う剣なのだけど、最初にエクスカリバーと名付けてから、拾った剣は全てエクスカリバーと言っている。

 要は、分類エクスカリバーみたいなものだ。


 そんなエクスカリバーを見て思う。

 エクスカリバーを通して、紅眼先生を想う。

 俺もあんだけ剣が使えりゃ、あの域に達することが出来るのだろうか、と。


 剣を自由自在に扱える。

 紅眼先生には、速い意外に何があるのか、一つの答えがそこにある気がしてならなかった。

 でなければ、身体強化しまくった身体で負ける道理がわからない、というも多分にあるのだけど。


「は~」


 溜め息を吐きつつ起き上がり、手近にあったエクスカリバーを取る。

 無駄だと思わない事も無い。それこそ無理だと思わない事も無い。

 でも、武器を取った時に、魔法を覚えた時に散々通った道である。

 であるなら、それでどうにかなってしまうということも、俺は知っている。


「ま、やってみますか」


 だって、俺はそれ以外の方法を知らない。

 このダンジョンを攻略する上で、これ以上有効な手段を俺は知らない。

 馬鹿の一つ覚えで結構。馬鹿になるだけで越えられる壁なのだったら、幾らでも馬鹿になってやろうじゃないか。


 エクスカリバーを片手に、1階層目の扉へと向かう。

 そして、その最奥に居る紅眼先生へと向かった。









 魔法が主体で戦っている以上、剣で戦うってことが少なくなっていた。

 いや、最早魔法を覚えてからは、無いに等しかったといっても良いのかもしれない。


 だから、最初に戦った時には気づけなかった。

 だから、ある程度の経験を得た今、気づいてしまった。


 相手の歩行の仕方、そして緩急を交える事によって相手の姿が消えて見えていたことを。

 1合斬りあうだけで精一杯だが、それだけで紅眼先生が俺とは違うレベルに居るとわかる。

 紅眼先生は速いのではない。単純に上手いのだ。


 無意味に紅眼先生の剣先を追わないようにして、どうにか全体で見るように視点を変えることで漸く気づけた。

 魔法で限界まで身体強化を施した身体が、ようやく理解した。


 そして、理解したと同時に死ぬ。

 一つの技を見て、死ぬ。

 一つの戦術を見て、死ぬ。


 挑んでは死んで、戦技の三千世界を見る。




 戦って、戦って、また、戦って。

 気づいたときには、少しは戦えるようになっていた。

 慣れた、とは恐ろしくて言えない。

 この状況になっても、未だ紅眼先生の底が見えないからだ。


 それから、少しして一つの壁を見た。

 剣で戦えるようになって、それに気づいた。


 それは才能の壁だった。

 身体能力を限界まで強化していたからこそ気づいた。いや、気づいてしまった。


 気づいたのは偶然ではない。

 何度か戦ってる内に、必然的にそれは明らかになっていった。

 例えば、こちらが攻撃した際に、絶対に当たるというタイミングで、紅眼先生は回避が出来る。

 俺はというと、そんな状況になったら、当たり前のように死んでしまうのだ。


 経験の差? いや、経験と言うのなら俺も死んだ数の分だけ得ている。

 強烈な死の臭いがする攻撃を、なんとか避けるというのは、俺もやったことがある。

 だが、何故そこで避けられるという回避をしてみせるだとかいうのは、やれた例が無い。

 まず、そもそも無理があるのだ。


 そんな、どこぞの神様に祝福されているのかと、思うような回避をするなんてのは、物語上でしか有り得ない。

 そう、そんなことが出来る奴は、物語の主人公クラスに才能がある奴だけなのだ。

 だから、やられた本人は自覚するしかない。

 自分が主人公では無いという事を。どうしようもなく凡人だという事を。


 斬って、自分で絶妙だと思えるタイミングが、絶対に決まらない。

 何か大きな壁でもあるかのように決まらない。

 逆に相手の攻撃は、コレでもかというぐらいに決まる。

 面白いぐらいに、見惚れてしまうぐらいに、見事に決まる。


 そこには確かに、経験では得られない明確な壁があった。

 身体能力や経験では埋められない、明確なるまでの才能の差がそこにはあった。

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