表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星間乱舞!キャプテン・アストラの大英雄譚 銀河の黎明(ぎんがのれいめい)  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/178

第百六十九章 閉じられたものの声

触れられない場所は、

沈黙しているように見える。

だが――

沈黙は、

何も語っていないことと同じではない。

失われた領域。

閉じられ、隔離され、

観測すら拒むその空白から、

かすかな“声”が届き始める。

◆空白の監視


失われた領域の周囲で、

ノヴァ・リュミエール号は低速周回を続けていた。


近づきすぎない。

強く観測しない。

だが、

完全には離れない。


それが今のルールだった。


「……静かだな」

カイが言う。


「静かすぎる」

マリナが訂正する。


リーナはモニターを見つめたまま答える。

「外縁の揺らぎは安定。

でも、“何も起きていない”というには整いすぎている」


プクルが窓の向こうをじっと見る。

「ぷくる……(まだいる)」


アストラは小さく頷いた。

「俺もそう思う」


◆最初の違和感


その時、

艦内の照明が一瞬だけ明滅した。


「ん?」

カイが顔を上げる。


「電力異常?」

マリナが即座に確認する。


リーナが首を振る。

「違う。

供給系は正常」


「じゃあ何だよ」


数秒遅れて、

音声端末から微かなノイズが漏れた。


――……。


「……今、聞こえたか?」

アストラが低く言う。


全員が黙る。


プクルが小さく震えた。

「ぷくる……(こえ)」


◆ノイズの中


リーナが端末を絞るように操作する。

「記録は……残ってない」


「でも、

今のはただのノイズじゃない」


マリナが静かに言う。

「意図があった」


カイが眉をひそめる。

「また“記録できないけど聞こえる”系かよ……」


「エコー・ベルトでは、

むしろそれが通常になりつつあるわね」

リーナが淡々と返した。


◆仮説


アストラは、

失われた領域の空白を見つめながら言う。


「閉じ込められたまま、

“外”へ届こうとしているのかもしれない」


「中に残ったものが?」

マリナが聞く。


「もしくは、

中に“変化しきれなかった何か”がある」

リーナが補足する。


プクルがそっと鳴く。

「ぷくる……(でたいのかな)」


◆ドタバタ受信作戦


「よし!」

カイが立ち上がる。


「だったら、

こっちから聞き取りやすくしてやればいいんだろ!」


「待って」

リーナが即座に止める。

「強い受信増幅は危険。

閉じられた領域そのものを刺激する可能性がある」


「じゃあどうすんだよ」


マリナが考え込み、

やがて答える。

「“聞こうとしすぎない”こと」


「は?」

カイが固まる。


アストラが頷く。

「向こうが届く範囲だけ、受ける」


「それ以上は引きずり出さない」


「受信の調整か……」

カイが頭をかく。

「また絶妙に面倒なやつだな」


◆受け取る姿勢


艦内の不要な出力を落とす。

照明を抑える。

通信処理を最小限にする。


艦全体を、

“聞くための静けさ”に近づけていく。


その変化に呼応するように、

空白の縁がわずかに揺れた。


――……た……

――……て……


「聞こえた!」

カイが思わず叫ぶ。


「静かに」

マリナがたしなめる。


リーナの表情が変わる。

「単語じゃない。

“言葉になる前の断片”」


◆閉じられたもの


アストラは、

目を閉じてその断片に意識を向ける。


届こうとしている。

外に出ようとしている。

だが、

形になりきれない。


それはまるで、

エコー・ベルトの影たちとは逆の状態だった。


「……確定しすぎて、

逆に曖昧さを失っている」

アストラが呟く。


リーナがすぐに反応する。

「だから、

閉じられているのね」


「影たちは、

処理できないから“隔離”した」

マリナが続ける。


◆声の意味


再び、

ノイズ混じりの断片が届く。


――……こ……

――……こ……


プクルが震えながら言う。

「ぷくる……(ここ……?)」


「“ここ”?」

カイが聞き返す。


リーナが慎重に頷く。

「可能性はある。

場所を示しているのか、

存在そのものを指しているのか……」


アストラは、

空白の中心を見据えた。

「でも、“呼びかけ”ではある」


◆返すべきか


沈黙が落ちる。


カイが口を開く。

「……返す?」


マリナはすぐには答えない。

「返答は干渉になる」


リーナも低く言う。

「でも、

何もしなければ向こうは閉じられたまま」


プクルがアストラを見上げる。

「ぷくる……(たすける?)」


◆選択の前


アストラは、

ゆっくりと息を吸った。


影たちの意図。

閉じられた領域の危険。

そして、

今ここで届こうとしている“声”。


「……返す」


全員が彼を見る。


「ただし、

言葉じゃない」


「“ここにいる”とだけ返す」


◆最小の応答


リーナが出力を最小に絞る。

マリナが全体干渉を監視する。

カイが珍しく真顔でコンソールを支える。

プクルは、

じっと空白を見つめていた。


アストラは、

意図を向ける。


“ここにいる”

“聞いている”

“急がない”


曖昧に。

だが、確かに。


空白が、

ごくわずかに震えた。


そして――


――……い……

――……る……


「……返ってきた」

リーナが息を呑む。

閉じられた領域は、

完全な沈黙ではなかった。

そこには確かに、

外へ届こうとする“声”が残っていた。


それが救いを求めるものなのか、

あるいは別の危険の兆しかは、

まだ分からない。


だがノヴァ・リュミエール号は、

最小の応答を返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ