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相良金属工業

明和4年(1767年)8月25日 相良市中


 源内印の自転車乙型(減速機仕様)、丙型(ロッド仕様)が持ち込まれたことで衝撃を受けた私であったが、その衝撃から立ち直ると源ちゃんがこの時点で軌道自転車(線路上を走る四輪式自転車)を開発出来ることに気付いたのである。


 早速その仕様を簡単に伝えると二つ返事で開発を請け負ってくれた。


「それくらいなら朝飯前でぇい。明日の朝にも試作出来らぁ」


 まぁ、基本構造は今の時点で出来ているのだからそれほど難しいモノではないだろう。二人漕ぎにするか、一人漕ぎにするか、その辺の違いだろう。ハンドリングどうするか伝えてないけれど、まぁ、考えついた方をとりあえず丸投げでも良いだろう。最悪レールの上を走る分にはハンドリングなんて実質要らんしな。


 乙型も丙型もフリーホイール機構が入っていない直接駆動であることだし、無茶苦茶なことにはならんだろう。ひょっとしたら減速機によるトルク比の違いから加速力に違いがあると気付くかも知れないけれども、そこまでは流石に天才でもすぐには気付かないだろう。


 ひょっとしたらギヤ駆動とロッド駆動を組み合わせて変速機能を考えつくかもしれんが……それはまだ先のことだろう。そこまで気付いたらチート水準だ。


 上機嫌に相良藩の役人相手に自転車を乗り回して得意顔になっている源ちゃんを見つめながらそう思っていたが、自分がしないといけないことを思い出す。ここ数日相良市中を駆けずり回っていたのは鍛冶屋や鋳物師をかき集めて企業化するためであったのだ。


「そうそう、源ちゃん!」


 呼び止めると足ブレーキで自転車を止めてやってくる。そう、今気付いたけれど、この自転車ブレーキついていない。やべぇものだった。あとでブレーキの構造を伝えて付けてもらわないと……。


「なんだい?」


「鍛冶屋と鋳物師の親方に話を付けた。今後はバラバラに事業するのではなく、一つの企業として事業を請け負って貰うことになったよ」


 相良周辺の村落の鍛冶屋などを集めて工場化と製品の均質化を狙っていたのだ。この時代では金属加工品を扱うのはどれも個人事業主であることから集団化と企業化を行う必要があったのだ。


 特にこれからは一点ものではなく、工業製品……つまり量産規格品として大量且つ安価に製造をしなければならない。そこで技能者の質を平均化しないといけないのだ。当然そこには設備もまた同様であるべきと考えたのである。


「かなり揉めたんじゃねぇか? どうやって納得させたんだい?」


 源ちゃんは尤もな部分を突いてくる。


「あぁ、それは仕事と収入の安定化で乗り切った」


 個人事業主であるから仕事は自分で探すか定期的に契約してもらえるようにするかしないと野垂れてしまう。技能者であるからそうそうそういう事態にはならないだろうが、資金についてはそうも言っていられない。依頼主が随意契約みたいな形でなあなあになっていた場合、払ってもらえなければアウトである。まして凶作なんてなれば未払いの可能性はぐっと増える。それが農村相手の商売ならば尚更だ。


「相良市中で集団化していれば、そこで請け負った仕事は公平に参加した者に払われる。また、仕事は安定して提供されるから安心して生活出来るって説得したんだよ」


「理屈はそうだが、それで納得するかね?」


 源ちゃんの言い分は全くその通りだった。反発した鍛冶屋はそれなりにいた。


「それは脅した」


「脅したって……穏やかじゃねぇな」


「納期が明確化、独立系鍛冶屋の販売価格や請負価格の3分の2であればどうなるか、そう聞いたんだ」


 源内は絶句した。そんなことしたら個人事業主では太刀打ち出来ない。最初は個人的な付き合いで使ってもらえてもどこかの時点でいつでも買えて安い方に軍配が上がるのは必然だからだ。


「阿漕な真似をするね」


「それが企業化、集団化、分業化による効果だよ。一人で全部背負い込んでやる必要はない。鍛冶屋がやっている仕事の半分は別の人間に置き換えても困ることはない。やるべきことの明確化で他人に仕事を与えればその分だけしないといけないことに集中出来るし、別の人間に仕事が出来ることで浪人や流れ者が減る」


 源ちゃんも私の言っていることが理解出来たようだ。自身も門人にあれこれと指示を出して代行させている。鍛冶屋の親分も確かにそういったことをしている。それの規模を大きくしただけなのだ。難しい話でも何でもない。


「けれど職人ってのは矜持が……」


「それで自滅するならどうぞご自由にって話だよ」


 実際に親方衆はそれほど苦労せずに納得してくれた。ただ、親方衆の上に立つべき頭目が誰になるかってのは大いに揉めたが……まぁ、それは私が名目上の頭目……社長になることで収まった。というのも親方の一人が誰もが他の親方の下に立ちたくないからあんたがやってくれと言い出したことで満場一致のそれだったのだ。


「まぁ、それで鍛冶屋連合が出来上がったならそれで良いさ」


「相良金属工業という屋号になった。無論、即日相良藩御用の看板もいただいたから一歩前進だよ」

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425


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