英雄への憧れ
一方外の世界。
ルドルフとライラが斬り合う中、ルドルフがライラの剣を払いのける。
「くたばれ!……えっ。」
ルドルフが剣を構えたその直後、ルドルフの肩から血が噴き出した。
「死ぬのは、お前だ!」
チャンスだと判断したライラは剣先に魔力の弾を作り出し、ルドルフに放った。ルドルフの体に電撃が走る。同時に俺にも走った。
「うおおおおお!!」
「ぐあああああ!!」
二人して電撃に悶える。
「く……さっきから、何が?」
ルドルフも状況が掴めないようだ。俺は考える。
(そういえば、さっきライラが外の魔王の体を傷付けたとき、俺にもダメージがあったな。そして今は、俺の体のダメージと共に、外の魔王の体もダメージを受けた。)
閃いた。
「俺達の体と魂は、一心同体。俺達がここにいる限り、体が受けたダメージは魂に、魂が受けたダメージは体にフィードバックされるんだ。」
「ちっ、何という面倒なことを。そのまま私の意識下で眠っていれば良いものを。」
「ルドルフ、お前は俺を倒さないといけない。だが、俺にダメージがいけば、外の体もダメージを受ける。外の体がダメージを受ければ、お前もダメージを受ける。
まるで、俺とクレア、ライラが共に戦っているみたいだな。」
「愚か者が!外の体が死ねば、お前も共に死ぬのだぞ!?」
「構わんさ。英雄として名を残して死ねるのなら、大喜びでこの身を差し出してやる!」
俺は接近し、突きや蹴りを出す。相変わらずそれらはあっさりかわされ、一瞬の隙を突かれて首を掴まれる。
「ならば、お前を体内から追い出すまでだ。そうなったら、この体は私のもの。動かし放題だ。」
「ぐっ……」
締まる首に呼吸が詰まりかける。そして、外にいてライラと切り結んでお互いに後ろに間合いを取った後、ルドルフは
「う…お……!」
突如首が締まり、苦しんでいた。
「今度こそ、喰らえ!」
ライラが放った剣を間一髪のところで急所には当たらないよう避けたルドルフであったが、それでも胴体に傷を負うこととなった。俺とルドルフから再度血が噴き出す。
「碌な仲間を持たないな。ルイ・アントワール。
お前はあんな奴らのために私に勝ち、自ら死を選ぶというのか?お前がどれほど魔王として見下されているか、気が付かないのか?」
「俺が見下されているだと?
あいつらは、俺を対等に見てくれているんだ!あいつらにはあいつらの、そして俺には俺の守りたいものがある。あいつらは今、大事な人を守るために戦っているんだ。それは俺も同じだ!」
ライラが再度放った電撃を、ルドルフが勢いを付けて跳んでかわし、ライラを飛び越える。振り向きざまに、ライラの背後に回り込んだルドルフが剣を振り下ろす。
その剣を受け止めたのは、クレアの剣だった。
「ごめんなさい、魔王様。魔王様も、お兄ちゃんも、一生懸命に戦ってる。これが魔王様の本当の望みなら、私も戦う!」
クレアはバーサーカーのアビリティを発動させ、力づくでルドルフを剣で振り払う。ルドルフの着地の瞬間を狙って、ライラが放った電撃の弾がルドルフを襲う。
「この程度の攻撃など!」
ルドルフは剣で弾き飛ばそうとする。その隙を狙って、俺は目の前のルドルフに殴りかかった。
「小賢しいっ!」
ルドルフは俺の拳を受け止め、神通力を放って俺を吹き飛ばした。
「うごっ!」
俺が吹き飛ぶと同時に、外の魔王の体は神通力の衝撃を受けて隙が出来る。それを逃さず、ライラの電撃が命中する。
「うおおお!!」
痺れてルドルフの動きが止まる。
「てめえ!」
ライラが剣を振り下ろし、ルドルフを斬り付ける。
「ぐっ!」
斬られた一直線上に血が噴き出す。再度ライラが放つ攻撃を、ルドルフは剣で受け止め、弾き返す。そこに、横からクレアが剣で一撃加える。
「ちょこまかと!」
ルドルフは剣で受け止めるが、その間に俺がルドルフに跳び蹴りを放つ。今度はヒットし、ルドルフは外の体諸共よろめく。
サクッ!
クレアの剣がルドルフの体を横に裂いた。
「馬鹿なっ!」
血を零しながら、ルドルフが後退する。ここまでの攻撃を受け、俺の体も既にボロボロになってきている。だが、構わない。
「いいよな、こういうの。正に三位一体という感じじゃないか。
俺はちっぽけな魔王かもしれないが、一緒に戦ってくれる仲間がいる。だからこそ勝機はある。」
同じく地面に膝を付いているルドルフに向かって俺は投げかける。ルドルフは俯いていた。俺は死ぬかもしれない。だが、こいつも道連れにできるんだ。そう思っていた。
「くくく……」
俺は顔を上げた。目の前のルドルフが顔を伏せたまま笑っていた。
「何がおかしい!?」
「貧弱な者どもが、懸命に無駄な足掻きを見せてくれる。これを笑わずにはいられるか?
お前はさっき私と差し違いになっても良い。そう言ったな?だが、魔王としての魂は私の方が多く引き継いでいる。これが何を意味するのか分かるか?
魔王としての力も、耐久力も私の方がお前より上なのだ。このまま戦えば、お前は私より先に力尽きる。」
痛いところを突いてくる。
「仮にそうなったとしても、その時お前もかなりの重傷のはずだ。クレアとライラなら勝てない相手ではない。」
「そうかな?お前にはあれが見えないのか?」
俺は外の景色を意識を集中して見る。魔王の背後に少しだけ、青い光が漏れ出たのを見た。
「あれは……」
魔王の城の中の仕掛けでみたことがある。地面に埋まっている、回復の魔法陣だ。しかも、一回使ったらなくなるタイプだ。
「お前、まさか!?」
「もっと早くに気が付くべきだったな。魔王程の魔力がある者なら、埋まっている魔法陣など簡単に見つけられる。
あの人間共は気付いていないようだがな。お前が死んだところで、私には助かる術がある。死ぬのはお前達のみなのだよ。」
「くそっ……!」
俺はどうしたものかと考えようとする。
「そして、良いのか?私への攻撃がお留守になっているぞ。」
俺が気付いた時には遅かった。外の世界の魔王は、ライラ目掛けて剣から衝撃波を放った。
「うわあっ!!」
ライラは吹き飛ばされて地面に落ちる。
「お兄ちゃん!!」
クレアが助太刀に入り、魔王と切り結ぶ。だが、バーサーカーの力があっても、魔王の力が相手では勝負にならない。斬り合いの末、クレアは防戦一方となり、ライラと同じく、衝撃波で吹き飛ばされた。
「きゃああああ!!」
クレアが地面に倒れる。衝撃波にも斬撃が含まれているのか、二人からは血が滴り落ちている。
「クレア!ライラ!魔法陣を使わせるな!一気に止めを刺すか、それが無理なら魔法陣を先に使ってしまうんだ!」
俺は必死に呼びかけるが、届いてはいないようだ。既にかなりのダメージを負っていた俺は、痛みに起き上がることができない。
「もはやここまでだな。」
魔王は俺に背を向け、その場から去っていく。
「非常に残念だな。どうやら、お前より先に、あの二人が地獄に落ちる方が早いようだ。」
外の世界の魔王は、剣を掲げると、その剣に魔力を集中させていく。ライラは上半身を起こしながら、その光景を見ていた。
「これで片を付けるつもりか?なら、こっちも同じようにいかせてもらうぜ。」
ライラは何とか立ちあがると、剣を構える。剣には魔力が集中し、雷撃が集まり始める。
「この技が出せるってことは、俺の体も相当やばい状態だな。一気に決めるしかないようだ。」
魔王の方が一瞬早くチャージが完了した。
「遊びは終わりだ!」
青白い巨大な魔力弾を放った。
「これで最後だ、魔王!!」
ライラも負けじと剣から雷撃を放った。二つの力が交差し、周囲に火花を散らす。だが、次第にライラの攻撃が押されていく。
「私にここまで足掻いたことは褒めてやるが、それもここまでだ。」
「くそっ、駄目か……!」
ライラが諦めかけたその時、
「負けないで!お兄ちゃん!!」
横からクレアがライラの魔剣を掴む。
「クレア!?」
「この魔剣は人の魔力を吸い取るんでしょう!?なら、私の魔力も使って!」
「しかし、お前だって体力が残っていないんだろう!?そんなことをしたら、やばいことになるぞ!」
「構わないよ!」
クレアの力が加わり、再び力が均衡する。
「ちっ、しぶといな。」
俺の目の前でルドルフが呟く。
「やめろおぉぉぉぉっ!!」
俺は最後の力を振り絞り、背後からルドルフを羽交い絞めにした。
「ええい、やめろ!放せ!!」
ルドルフが俺を振り払おうとする。その瞬間、外の魔王が作り出した魔力の弾が消滅してしまった。
「しまった!!気が乱れたか!!」
外にいる魔王に、巨大な魔力の弾が迫ってくる。
「くそおぉぉぉっ!!!」
俺の目の前で、ルドルフは赤い光となって消えていく。
「よくやった。じゃあな、クレア、ついでに、ライラもな。」
俺は目の前に迫ってくる強い光に包まれながら呟いた。




