魅了するもの
薄暗い、だけど、どこか温かな場所。マライオはそんな場所に来ていた。
水着の中で、マライオはミレイユの胸と向き合っていた。元から大きな胸はマライオの顔に触れていたが、ミレイユが抱き締めたおかげで、より強く押し当てられる。
(とうとう、やったぞ!)
マライオは内心笑いが止まらなかった。
(さっきミレイユに言ったことは、大体本当のことだ。嘘は言っていない。でも、僕は別にミレイユに愛してもらうために来たわけじゃないんだ。
あの神父を食べてから、人間の味に病み付きになった。魔王の配下の中でも一番肉付きが良い、ミレイユを食べてみたかった。その夢がいよいよ叶うんだ。)
マライオは野望達成を前に呼吸を乱していた。ごくりと唾を飲み込む。ドキドキしながらも、思い切って大きく口を空け、歯で胸に触れる。
しかし、そこまでやっておきながら、マライオの中に急に何かがこみ上げてくる。気が付くとマライオは、胸から歯を離し、代わりに胸の先端を母乳を求めるかのように吸い付いていた。
(何故だろう、食べたいと思っていたのに、体が言うことを聞かない。)
マライオはまるで母親を求めるように頬擦りが止まらなかった。そのまま胸を吸い尽すかのように吸い付いていた。
■■■
ミレイユは胸元を見つめがら、ゆっくり顔を上げる。
「ん…もう、そんなに焦らなくてもおっぱいは逃げませんよ。」
くすぐったさに身震いしながら、ミレイユは妖艶な笑みを浮かべる。ミレイユは水着の胸元を指でなぞる。
「チャーム。格下の魔物を魅了し、支配下に置く。まあ、召喚士なら基本中の基本ですよ。
さて、出てきてもらえますか?私の言うことなら聞けるでしょう?」
ミレイユの言葉と共に、マライオは水着の中から再び顔を出す。
「ど、どうして…?お姉さんは僕を信じてくれていたはずじゃ……」
「マライオ。その名前に覚えがなければ私もこんなことはしなかったでしょうけど。アルトを私にけしかけたのは、あなたですか?」
鋭い眼光を向けるミレイユにマライオは震えあがり、ついつい話してしまう。
「そ、その通りだよ。お姉さんがアルトの仇だって伝えて、お姉さんの弱点を探らせたんだ。
アルトがお姉さんのことを恨むように、ちょっとばかり話を膨らませてね。」
「口封じに彼を殺そうとしたのもあなたですか?」
さすがにまずいと思いつつも、マライオはミレイユの言うことに逆らえなかった。
「そう…なんだ。彼の体内に僕の卵を植え付けて、孵化した個体にアビリティを使わせていたんだ。」
「なるほど。では次の質問です。私を標的にしたのは何故ですか?」
「それは……」
「言わないのならあなたが赤ちゃんとはいえ、攻撃させてもらいます。」
殺されるかもしれない恐怖にマライオは怯えるも、結局白状した。
「以前に神父を食い殺したって言ったでしょう?それ以来、人間が僕の好物になって……それでお姉さんは柔らかくて美味しそうだったから。
ちょうどあの方からも、魔王一同を始末するよう言われていたし……」
「あの方とは、誰のことですか?」
「お、お願いだ、それだけは!喋ると本当にまずいんだ!」
「そう。私の言うことは聞けないのですね。」
懇願するマライオの顔をミレイユは指で伝う。マライオは背筋が凍りつくような感覚に見舞われる。
「言いたくはないですが、あなた、さっき私の胸に牙を立てようとしましたね?ちょっと痛かったんですよ?」
「それは……その……お姉さんのおっぱいがあまりにも可愛かったからつい……」
「言い訳はもう結構です。」
その時、目の前の川に大きな飛沫が散った。
「な、何!?」
水飛沫が散った後から出てきたのは、黒い大蛇、エビルスネークだった。
「さっきアルトを水中に引きずり込んだのも、こいつね。私の召喚獣で…」
ミレイユは左手に杖を召喚しようとする。その時、マライオは再び水着の端から中に入っていくのを見つけて召喚を中断した。
「あなた、何を…!?」
「大丈夫。チャームの魔法のせいで僕はお姉さんを傷付けることはできないよ。僕ができることは、お姉さんに甘えることだけ。」
マライオは再度水着の中に入り、彼女の胸に抱き付く。
「僕、もうお姉さんを食べるのは諦めてもいいかな。お姉さんが僕の仲間になってくれればだけど。」
「勝手なことを!」
「でも、こうしてるとまるでお姉さんが魔物から僕を守ってくれてるみたいだよね。僕、お姉さんがこの蛇を倒すまでは邪魔しないよ。そこから先はお姉さん次第かな。」
ミレイユが気が付いた時には、エビルスネークの尻尾が猛烈な速さで迫ってきていた。
「きゃっ!」
尻尾に跳ね飛ばされ、ミレイユは川の中に落ちる。
(早く、反撃しないと……!でも、チャームは召喚と同時にできないうえに、まだマライオには完全にかけられていない。そうなったら……)
ミレイユは胸にそっと手を添え、撫でてみる。
「そうだよ。もっと……」
マライオの声により、未だに抱きついているのが分かる。マライオが水着の中で彼女の胸にむしゃぶりつき、吸い始める。その気になれば、胸を食い破るのは訳もなさそうに見える。自分の体を人質に取られ、ミレイユは考えあぐねる。
その時
「お姉さん!」
聞き覚えのある声と同時に誰かが川の中に飛び込んでくる。
「アルト!?」
アルトはミレイユに抱き付くなり、水着を引っ張る。
「お姉さんに、手を出すなっ!」
アルトは引っ張った水着に思いっきり噛みついた。
「いたたたた!アルト、何を!!」
痛みにマライオが悲鳴を上げる。
「ぐぎぎぎぎ…」
アルトは構わず水着に食らい付く。
「く、くそぅっ!」
ミレイユの水着からマライオが顔を出し、エビルスネークのところまで飛んで行った。
「あなた、どうして!?」
ミレイユはアルトを慌てて抱き止める。ミレイユの水着は完全に元の形に戻っていた。
「良かった。目を覚ましたらお姉さんがいなかったから。探していたらちょうど……」
マライオはエビルスネークの頭上に乗って憤慨した様子で二人を見下ろしていた。
「どうしてだよ、アルト!その人は君の仇なんだぞ!
しかも、君はチャームにかかっている可能性がある!良いように使われてるかもしれないんだよ!」
マライオの言葉に、アルトは思い出す。アルトがマライオに口封じで殺されそうになった時、アルトの体内からトカゲの形の魔物を引っ張りだした。
(あれがチャームによるものだとしたら、僕もその術にかかっているのかもしれない。あの時からお姉さんを見ると、頭がぼーっとするようになったし。でも、それでも……!)
アルトは強い意志のこもった目でマライオを見る。
「僕の今の気持ちは嘘かも知れない。
でも、君が僕を殺そうとしたことと、お姉さんが僕を助けてくれたことは間違いのない事実だ!」
マライオも負けじとアルトを睨み返す。
「僕は君の命の恩人なんだぞ!?裏切るつもりかい!?なら、もう許さないぞ!!」
マライオはエビルスネークに溶け込んでいく。すると、エビルスネークは目が赤く光り、手足も生えて、サイズも増していく。
アルトは目を丸くする。その時、エビルスネークが腕を振り上げた。
ミレイユはすぐに杖を召喚する。
「お姉さん!」
ミレイユに抱かれたまま、アルトは彼女を見上げる。
「じっとしていて!」
ミレイユ本人もあまり余裕はなかった。
(お願い!間に合って!)
ミレイユは召喚魔法を使おうとするが、その前にエビルスネークの腕が振り下ろされる。
(何ということだ……僕は、やっぱり足手まといにしか……)
自分達に攻撃が届くまでの間、アルトの心中に落胆が広がっていく。攻撃がミレイユの前に届く直前。
何か岩のような、大きなものが水に飛び込んでくる。ミレイユ達は、突如ひっくり返る波に、水上まで飛ばされる。その時、誰かがミレイユの体を抱き止めた。




