同族リンク
「魔王様!!」
クレアは取り込まれた魔王に向かって叫ぶ。しかし、返事はない。内部に取り込まれた魔王とは完全に分断されてしまった。
ふと、クレアが周りを見回すと、先程までいたはずのアーサーはいなくなっていた。
「もう逃げたのかな?」
もし、そうだとしたらそちらの方が良かった。部外者を巻き込みたくはなかった。
「覚悟しろ、クレア。今度はお前の番だ。」
アデレイドはこちらに向き直ってなだれ込んでくる。
「嫌!」
クレアは廊下の奥まで走り、居住スペースの扉から出ると、即座に外から鍵をかける。中からどんどんと音が響く。
「今のうちに、何とかミレイユだけでも安全な場所に連れて行かないと。」
クレアはミレイユを抱えたまま、ダンジョンのエリアに繋がる階段を降りようとした。すると、下の方から何かが向かってくる気配を感じる。
「何?」
よく見るとそれは大量のゴキブリだった。
「何で!?居住スペースに閉じ込めたはずなのに!?もしかして、さっきのゴキブリ以外にもまだ大量にいるの!?」
クレアは踵を返して逃げようとするが、ミレイユを抱えたままでは走ることができない。すぐ後ろにまでゴキブリ達は迫ってきている。
「ああ!もう駄目!」
クレアは諦めかけて目を閉じた。
その数秒後、クレアがそっと目を開けると周りを眩い光が包んでいた。その光の主はーーー
「マチルダ!?」
「まったく、とんでもないことじゃ。おちおち昼寝もできん。」
「あ、ありがとう。」
「礼などいらん。魔王様がゴキブリにやられたとあっては、良い笑い者じゃ。
それより、早くここから離れてこいつらを倒す方法を考えるのじゃ。残念なことに、この結界はそう長続きはせん。」
結界に弾かれて、今はゴキブリ達はこちらに向かっては来られない。
「分かった!マチルダ、必ず皆を助けるよ!」
クレアはその場から走って行った。
■■■
大分走ったクレアは、小さな物置の近くで足を止める。
「ごめんね。狭いけど、少しの間ここで我慢してね。」
クレアは物置の中にミレイユを隠す。これでミレイユは狙われずに済む。物置を静かに閉じる。
「とにかく今は魔王様を助けないと。私一人じゃ絶対勝てないもん。」
廊下を歩いて少ししたところ
「そこにおったな!クレア!」
アデレイドに遭遇した。
「来たっ!?」
アデレイドは従えたゴキブリを腕のように持ち上げ、クレアの方に振り下ろす。クレアは咄嗟に避けたが、尻もちを付く。
「いくら自分の子供達だからって、まるで自分の体の一部のように使うなんて。それがあなたのアビリティね!」
「その通り。私には、『同族リンク』のアビリティがある。同じ種族のものなら、私の命令通りに動かすことができるのだ。」
クレアは持っている剣を抜いて構える。
「馬鹿めが!お前ごときが私に勝てると思ったか!」
アデレイドは再度腕を形成すると、鞭のようにうねりを付けてクレアを薙ぎ払う。
「きゃあ!」
避け切れずにクレアは壁際に叩きつけられる。持っていた剣が床に刺さる。
「ここまでだな。死ねっ!」
「くっ!」
アデレイドが触手を大量に形成したところで、またもや胴体の部分のゴキブリがボロボロと落ちだす。
「魔王め。まだ悪足掻きを続けるか?」
アデレイドが忌々しげに呟く。
(魔王様。私のために頑張ってくれてるんだ。
それにしても、アデレイドが攻撃しようとしたら、急に魔王様の攻撃が通るようになった?まさか、再生量が追い付いていないから?)
クレアが考えているところで
「何を余所見している!?」
アデレイドが振り下ろした腕を、クレアは辛うじて横に転がって避け、刺さった剣を引き抜き、そのまま背中を向けて走り出す。
「逃げても無駄だ!」
アデレイドはクレアの後を追ってくる。クレアはちらりと後ろを見る。
(付いてきてるよね?魔王様やミレイユには怒られるかもしれないけど、皆を助けるためだから、許してね。)
クレアはもう一度居住スペースの方に走っていく。居住スペースに入るや否や、さらに奥の食堂に入る。
食堂の先にもう部屋はない。出入り口は一つだけだ。数刻後、アデレイドが食堂に入ってくる。クレアは振り返って身構える。
「残念だったな。もはや貴様に逃げ場はない。」
アデレイドの様子を緊張した顔で見ていたクレアだったが、その口元が僅かに緩む。
「何?貴様、何がおかしい?」
「私はただ闇雲に逃げてたわけじゃないよ。食堂に来たのにはちゃんとわけがあるの。これでお昼ごはんはお預けになっちゃうけどね。」
異様な気配に気が付き、アデレイドが自分の体を見る。
「何を……むっ!?これは!?」
アデレイドが従えて大きな体を形成していたゴキブリ達の数が段々と減っていく。食堂の中にある、食材や残り物の方にみるみるうちに集っていく。
「この光景、前に害虫駆除の仕事をしていたときによく見たよ。今でもあまり気分の良い光景じゃないけど。いずれにしても、あなたの周りのゴキブリの数が減ってくれればそれで良かったんだ。」
「おい、貴様ら!?早く戻るんだ!」
アデレイドの呼びかけも空しく、ゴキブリ達はアデレイドから次々に離れて行く。
(まずいな。魔王を体内に封じておくには、一定数以上の配下が必要だ。
いくら再生能力があるとはいえ、数が減りすぎると魔王の攻撃に再生が追い付かないかもしれん。)
アデレイドが思案したとき、クレアが剣を抜く。
「そして、あなたのもう一つの弱点は、再生と攻撃は同時にできないこと。
今この状況で魔王様を閉じ込めておくには、再生能力を使い続けるしかない!」
クレアは間合いを詰めて、上の方にいるアデレイド本体に切りかかった。剣はアデレイドの顔面を鋭く切りつけた。
「ぐわああああああ!!」
アデレイドは悲鳴をあげ、体液をまき散らす。
「やったっ!?」
クレアは着地して振り返る。
「おのれ小娘!よくも私の顔に傷を付けたな!」
アデレイドは激昂し、巨大な腕を生成する。
「うわあっ!?まだ生きてる!?」
相手の生命力にクレアが驚愕する。勢い良く迫ってきた腕にクレアは捕まってしまう。
「くっ、魔王……様…」
強い締め付けに、クレアの意識が遠のく。
「捻りつぶしてくれる!」
アデレイドが叫んだ直後、風切り音と共に、アデレイドの腕が吹き飛び、ゴキブリ達の中からカマイタチと共に魔王とマチルダが脱出してきた。
「貴様ら!?」
アデレイドはそこで初めて、クレアを拘束する際に再生を疎かにしていたことを思い出した。




