願わくば末永く
魔王の城への帰り道。今回は村へ行ったが、占領したわけでも暴動を起こしたわけでもない。
まあ、良い。魔王軍から離反したトロルを粛清した、ということにでもしておこう。俺はクレアといたこの二日間を改めて思い返してみる。自分のことを信頼し、頼ってきた者は生まれて初めてだ。もし、俺が彼女を救うことができたとしたら、それは喜ばしいことだ。しかし、あのときクレアは最終的に自分でトロルを倒したんだし、俺がいなくても案外一人で勝てたのではないか?
どちらにしても、だ。自分は魔王、彼女は人間だ。人間であり、純粋な彼女は俺と一緒にいるには相応しくない。魔王と共にいると、どうしても彼女の心身に負担をかけてしまうからだ。
(幸せになれるといいな、クレア。)
そう思っていた時
「待って!魔王様!」
背後からこの二日間、ずっと頭から離れなかった声が聞こえてきた。
「クレア!」
驚く。それは正真正銘のクレアであり、俺の後を追ってきていた。
「お前、どうしてここに!?」
「だ、だって…」
クレアは走ってきて乱れた息を整える。
「私、まだ魔王様に借りを返せてないよ!」
「借りって、もう返してもらっただろう。」
「それは、昔助けてもらった分だよ。今助けてもらった分がまだ残ってるよ。」
律儀すぎる。魔王がこのまま帰ろうとしているのだから、放っておけば自由になれたというのに。俺は少し考えるが、正直なところ、俺がクレアと一緒にいたいと思っているのは紛れもない事実だ。その前に、一つ確認しておきたかった。
「魔王の私がお前を置いてきたというのに、クレアが私に付いてきては他の人間達に怪しまれるのではないか?」
俺が問うと、クレアは悪戯っ子のように微笑み
「大丈夫だよ。皆には、私は呪いをかけられていて魔王様から離れると死ぬ体にされているって話したから。」
それなら確かにクレアが俺の元にいても怪しまれないだろう。俺の評判は悪くなるが、まあ、魔王だしそれでも良いか。
「分かった。これからも奴隷として働いてもらうぞ。」
「うん!」
クレアは俺と並んで歩き始める。本当にクレアのためを思うなら、ここで突き放した方が良かったのかもしれない。だが、俺は魔王であり、いつ冒険者に倒されるか分からない先の短い人生だ。ならば、それまでの間に大事な人と一緒にいるのも良いのではないかと思った。
(完全に俺の我儘だけどな。)
俺は心の中で自嘲した。
「そうそう。お母さんから魔王様に伝えて欲しいことがあるって。」
「何だ?」
「『娘を宜しくお願いします』だって。」
「おい……」
それは、クレアの芝居がばれているということではないだろうか。俺は内心頭を抱えながらクレアと共に魔王城に戻った。




