第1章 明るいニュース
本作は架空の国家・国際機関・人物を描いたフィクションです。作中人物の生物学的・政治的主張は、その人物の思想を表現するものであり、科学的事実として提示するものではありません。
午前7時。南極基地の食堂には、まだ朝食の匂いが残っていた。
ユアン・フェルクは、朝食の皿を片づけていた。20歳。男性解放軍に入隊して、2か月が経っていた。
司令官のエリオ・ラウゼニクは、国際通信社の配信記事を読んでいた。
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「大学進学の男女平等、初の100点――セレニア共和国、女子枠拡充が実を結ぶ」
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見出しの下には、笑顔の文部相が写っていた。
国際機関、世界公正経済会議(WEG)が公表する男女平等指数。その大学進学の項目で、セレニア共和国が100点を獲得したという記事だった。
10年前、同国の大学進学率は女性40%、男性45%。当時の評価は88点。
それから、女子枠入試などの進学支援策が拡充された。今年度の進学率は女性50%、男性40%になった。
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「長年の教育格差を解消する、大きな前進です」
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記事は文部相の談話を載せ、同国の主要メディアが、この発表を「明るいニュース」として報じていると伝えていた。
「どうしたんですか」
ユアンが、空いた食器を重ねる手を止めた。
エリオは端末を彼のほうへ向けた。
「満点だそうだ」
ユアンは、10年前と今年度の数字を見比べた。
「女性のほうが、多くなったんですね」
「だから100点なんだ」
「同じになったから、ではなくて?」
「女性の進学率を、男性の進学率で割る。100を掛ける。ただし、100点を超えた分は数えない」
エリオは、記事の表を指した。
「10年前は40を45で割る。88点あまり。公表点は小数点以下を切り捨てるから、88点だ。今年は50を40で割ると125点になるが、上限があるから100点になる」
ユアンは画面に顔を近づけた。
「では、男性の進学率が、もっと下がっても?」
「女性の進学率が男性以上なら、この項目は100点のままだ」
「でも、差は広がっています」
「10年前は5ポイント。今年は10ポイント。2倍だ」
ユアンは、もう1度見出しを読んだ。
「それを、解消と言うんですか」
「男女が逆なら、どうなると思う」
「女性40%、男性50%……」
ユアンは、しばらく考えた。
「80点ですか」
「そうだ。10年前の88点から下がる。格差が悪化したと評価されていただろうな」
エリオは、画面を引き戻した。
「女性の進学率が上がったことはいい。だが、男の進学率が下がり、差が広がったことまで、平等の前進にしていい理由にはならない」
ユアンは、自分が通っていた大学を思い出した。
教室に、まだ自分の席があるような気がした。
「大学へ行けなかった男の分は、どこに入るんです」
「どこにも」
エリオは答えた。
「男に不利な差は、差がないのと同じにする。そうやって作った満点だ」
国際通信社の記事には、政府の祝賀行事の予定まで載っていた。
「何が平等だ」
エリオの声は、低かった。
ユアンは、積み重ねた食器を持ち直した。
画面の中で、文部相は笑っていた。




