1.一目見た君
蝉の声が鳴り響く。
僕は田舎にあるおばあちゃんちの縁側で荷解きをしながら遠くの森を眺めた。
中2のなつやすみ。お母さんが臨月でお父さんは仕事で忙しく、だらしない僕には家を任せることができないからと父方の祖母の家に預けられた。
久しぶりにくる祖母の家はやっぱり独特な匂いがしてなれるのには少し時間がいった。
僕は荷物の山から編み物で作ったいちごのキーホルダーを出して静かに眺めた。
はっきり言って、僕にはまだ兄になる自覚も勇気もなかった。妹のために初めての贈り物をしたいと作ったものの、やっぱりなんだか怖くて贈るか迷っていた。
キーホルダーをポケットに突っ込み少し外の空気を吸いに行こうと縁側からおばあちゃんの外用のスリッパを履いて田んぼに向かって走り続けた。
「あ、あの公園。」
僕は昔よく遊んだ公園を思い出してそっちの方へと足を走らせた。
着いた公園の風景は思い出とあまり変わっていなくて、少しだけ遊具が錆びて鉄の匂いを出していた。
ふと、1番好きだった素朴なブランコの方へ視線を向けると、そこには長い黒髪の白いノースリーブのワンピースを身に纏った色白な女の子が1人でゆらゆらと揺れていた。
大きな麦わら帽子で顔だけ見えないがなぜか惹きつけられるものがあった。
じっくりと眺めていると見すぎたのか視線に気づいてこちらを向いてにっこりと笑って見せた。
一重で横に切長だがとても愛らしい顔立ちをしている。
「セミでも見つけたがー?」
まるで元から友達だったような口ぶりでこちらに向かって話けけてきた。
慌ててブランコに駆け寄ると空いていた片方のブランコに腰をかけて強く地面を蹴った。
「いや。君はここの子?」
僕は目を合わせれず正面を向いたままブランコを漕いだ。
「私は最近ここにきたの。あなたは?」
「おばあちゃんちに久しぶりに帰ってきたんだ。」
「そっか。私愛菜!いかわまなっていうの!短い間よろしくね。」
愛菜は自己紹介をした後またゆらゆらとブランコを漕ぎ始めた。
ブランコの持ち手と重なって揺れる黒髪は美しくなびき、どこまでも煌めく海の波のようだった。
「何歳なの?僕は中2。」
「何歳だと思う?」
「21歳?」
「君の目が節穴なことだけわかったね。」
そういって笑いながらブランコから飛び降りた。
地面に足をつけてサッと砂埃が立つ。
僕も後を追うように飛び降りるとニコニコ笑っている彼女の前に立ってポケットからあのキーホルダーを出した。
「これあげる。」
僕は手のひらで太陽の光を受けているキーホルダーを愛菜の前に差し出した。
愛菜はびくっりしたように目を見開いて、少しだけ表情を曇らせた。
「…まあ、ばれなきゃね。」
彼女は小さくそういうとまたにっこりと笑顔をむけありがとう!と大きな声で言い受け取った。
「可愛い〜」
まるで噛み締めるようににこにこしながらキーホルダーを眺める。
「私はこういうのがすきなのにな。」
彼女は一瞬、寂しいとも悲しいとも、何かに対して反抗しているとも取れる表情を浮かべてキーホルダー握りしめた。
「もうこんな時間!帰らなきゃ。じゃあね。」
少し振りすぎなくらい手を振って走って帰って行った。
僕はもう片方のポケットに入れていたスマホの時刻を見た。
まだ5時なのに彼女はとても慌てていた。
静かな公園が、彼女の余韻を引き立てた。




