宮廷料理局の『祈る野生児』
はじめましての方ははじめまして! にゃんです。
本作は、別作品『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』の前日譚(スピンオフ連載)となります。
「ザックとの出会いはどこで?」
「カシアン様が悶絶したあのスープの真実は?」
そんな疑問を解決するために作ってみました。
(いや、実は本編の続編として隣国編が作れなくて(;^ω^))
もちろん、本編を読んでいない方でも「野生児料理人が王宮を胃袋から破壊していく物語」として単品でお楽しみいただけます。
王都の心臓部に位置する宮廷料理局。
そこは、磨き上げられた大理石の床が鏡のように輝き、
銀の食器が軍隊のような規律で並ぶ「美食の聖域」だ。
最高権力者である料理長バルトロは、金の刺繍が入った特注のコックコートに身を包み、
奥の執務室で高級ワインを嗜む。
実務を仕切るのは、彼の忠実な代弁者である副料理長ハンスだ。
「……南の小村、だと? 随分と薄汚れた場所から迷い込んできたものだ。推薦状がなければ、門番が叩き出していただろうよ」
ハンスは手にした名簿を忌々しそうに叩き、目の前に立つ少女を睨みつけた。
リゼット、17歳。
王宮の威圧感に気圧される様子もなく、彼女は澄んだ黄金色の瞳で、
天井から吊るされた巨大な燻製肉を見上げていた。
その鼻が、くんくんと微かに、しかし鋭く動く。
「はい! 村の古い修道院のキッチンで育てられました。修道院長様からは、『料理は魔法じゃない。でも、食べる人が明日も生きたいと思えるように、一口ごとに祈りを込めなさい』と教わってきました!」
「ふん、祈りだと? 寝言は寝て言え。ここは王宮だ。作るのは『祈り』ではなく、バルトロ閣下の名声を高めるための『芸術品』だ。……いいか、まずはその辺を掃除しておけ。余計なことは考えるな」
ハンスは鼻で笑い、リゼットに山のようなジャガイモと、錆一つない鋭利なナイフを押し付けた。
まずは王宮の「完璧な作業」という洗礼を受けさせ、その田舎じみた志を叩き折ってやるつもりだった。
だが。
「……は?」
一時間後、ハンスが調理場の隅を確認しに来たとき、そこには王宮の常識を置き去りにした光景が広がっていた。
リゼットの手元で、ナイフが銀色の閃光となって踊っていた。
シュシュシュ、と小気味よい音が響くたび、ジャガイモの皮が糸のように薄く、
かつ一本も途切れることなく空を舞う。
驚くべきは、剥かれたジャガイモがすべて、角の一つもない完璧な「球体」へと整えられていることだ。
「ハンスさん、終わりました! 次はどの食材を『お救い』すればいいですか?」
「……おま、お前……。なぜそんな速さで……。それに、なぜこんなに角を落とした!? グラム数が減っているだろうが!」
「えっ? だって、角があるまま煮込んだら、ジャガイモが痛そうだったから……。それに、この丸い形の方が、食べる人の心に優しく届くって祈りを込めたんです!」
ハンスは戦慄した。この手際は、十年の修練を積んだ一級調理師をも凌駕している。
だが、それ以上にハンスの顔を青ざめさせたのは、リゼットが足元から拾い上げた「それ」だった。
「ハンスさん、これも一緒に煮込んでいいですよね? 勝手口に落ちてた『一角大トカゲ』! ちょうどいい具合に締まってたので、ジャガイモと合わせれば最高のスタミナ料理になりますよ!」
リゼットが笑顔で掲げたのは、禍々しい魔力を纏った魔物の死骸だった。
「魔物を……宮廷の鍋に入れるなぁぁ!! バルトロ閣下に知られたら私の首が飛ぶわ!!」
ハンスの悲鳴が響き渡る。
後に王都の権力を胃袋から粉砕することになる少女リゼットと、権威に縋る男たちの、史上最悪の「追放劇」へのカウントダウンが幕を開けた瞬間だった。
第1話をお読みいただきありがとうございます!
ジャガイモの「痛覚」を優先して球体にしてしまうリゼット。
王宮のエリートたちにとっては、まさに「理解不能な猛獣」の襲来です。
怒り狂う副料理長ハンスですが、彼はまだ知りません。
リゼットが持ってきたトカゲが、後にどれほどの騒動を巻き起こすのかを……。
次回、第2話:廃棄場の『奇跡』と、地下への左遷。
捨てられたスープを一口啜り、驚愕する「あの魔術師」が登場します。
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【本編はこちら】
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