154話 竜の宴②
ゴゴゴゴ――
俺たちが山頂に着くころには、空は雷雲に覆われ黒い渦を巻いていた。
そして、そこには俺たちを待ち構えるようにして佇む一つの影――
体の形状は《バジリスク》とほぼ同じに見えるが、一目で違うと分かるのは、圧倒的なサイズ感。
俺たちが乗っている馬車よりも遥かにでかい。さらに、見るものを圧倒させるような黒地に金のカラーリングは、カッコよさよりも正直恐怖の方が先に出てくる。
「……多分、あいつが原因なんだろうな」
「うん。 相当、強い」
「恐らく、ですわね……この距離でこの威圧感――間違いありませんわ。 あいつがこの竜明期を引き起こした犯人……《ロイヤル・バジリスク・ロード》ですわ……!」
ピシャアッと雷鳴が走る。
稲光に照らされた漆黒の肌は、ゾッとする程の質量を感じさせる。
通常の《バジリスク》が南国感溢れる見た目なのに対して、こいつのそれはまさに強者そのもの――
「……で、どうするよ。 確認はしたから、帰るか?」
「そ、そうですわね……帰りたいのはやまやまですが……」
「……うん、囲まれてる」
どこに潜んでいたのか、俺たちの周りには数十体もの《バジリスク》が、さながら闘技場のように輪を作っている。
「……こりゃあ、やるしかねぇってことだよな。 あっちのボスもそれを望んでいるようだし」
《ロイヤル・バジリスク・ロード》はククククッと喉を鳴らした。
規則正しく並んだ《バジリスク》たちは、襲ってくる気配はない。恐らくボスの狙いは、俺たちとの一騎打ち――といっても、向こうは完全に遊び感覚なんだろうけどな。
「――ベル、景気づけに一発、アレをお願いできるか? とびっきりアガるやつを」
「……! ええ、もちろんですわ……!」
ベルはその言葉で全てを察して魔法の詠唱を始め、俺はスタンブレイカーを展開。
黒く立ち込める雲から、ポツポツと雨が額を打った。
「……みなさん、いきますわよ! ワタクシたちに幸あれ!!」
ベルは深く息を吸い込んだ。
「【高貴なる咆哮】! お~ほっほっほっほ!!」
ベルの高笑いが山頂に響いた。
《バジリスク》たちは一斉にベルの方を向き、隊列が崩れたが、ボスの鳴き声一つで再び輪を作った。
その威厳は、さながらトカゲの王――相手にとって不足なしだ……!
「――っし、闘志がみなぎるぜ……!! いくぞ、みんな……!!」
「はい!!」
「了解!」
ベルの高笑いの効果により、俺たちの闘志は最高潮だ。
怖くないと言えば嘘になるが、少なくとも負ける気はない……!
「ギュアァァッ!!」
《ロイヤル・バジリスク・ロード》の凶悪な爪が地面を蹴り、化け物じみた咆哮が響く。
ザァッと土砂のような雨が降り出した。
「はぁっ……!」
ぬかるんだ地面を蹴って駆け出したのは、ラヴィだ。
あの巨体を相手に、臆することなく突っ込んでいく。
「【パライズ】!」
俺の右手から稲妻エフェクトが炸裂――駆けていくラヴィの横を抜け、ボスへと向かう。
――が、やつは横に大きく飛びのいて回避。
俺の【パライズ】は後ろにいた《バジリスク》を痺れさせて終わった。
見た目以上に素早い相手だ。
それに、俺の攻撃を警戒してすぐに回避行動を取るあたり、さすがはボスってだけあるな……!
俺はすぐに構えを取り、次の行動に備える。
だが、ボスは着地と同時に長い首をもたげ、大きく目を開いた。
瞬間、背中にゾワッとしたものが走り、大気が震えた。
やつに向かっていたラヴィは咄嗟に距離を取り、俺はベルの前に身を挺した。
「ギュアッ――!!」
ビシビシと空気の振動が身に染みる。
《バジリスク》が使っていたスキル、【蛇睨み】の強化版ってとこか……!?
耐性のおかげで麻痺こそしないが、ビリビリ痺れて普通に痛ぇっ……!
俺は思わず膝をついた。
「ぐっ……これは想像以上だわ……」
「マヒルさん! 今、回復を――」
攻撃魔法の詠唱を中断して、俺に回復魔法をかけようとするベルを制して俺は立ち上がる。
「……大丈夫、それは攻撃に取っといてくれ。 お前の力、頼りにしてるからな……!」
ベルは無言でうなずき、詠唱を再開した。
それを見て、俺は左手を銃のように構える。
照準は、《ロイヤル・バジリスク・ロード》……!
ラヴィが懸命に斬りかかってはいるが、やつは巨大な爪でそれをやすやすと弾き返している。
あんな物騒なもん、一撃かすっただけでも致命傷になりかねない。
何とか隙を作って、ラヴィに攻撃の機会を作る……!狙うは――右前脚……!
「【麻痺銃】!」
バシィッと麻痺の弾丸が高速で放たれる。
今まさにラヴィとやりあっていたボスは、俺の攻撃に反応する間もないまま――
「ギュアッ!?」
着弾――!!
《ロイヤル・バジリスク・ロード》は片脚の感覚を奪われ、ぬかるみに滑って態勢を崩した。
部分的ではあるけど、麻痺らせてやったぞ!後は――
「【羅刹】……!」
一瞬の隙を見逃さず、ラヴィは一気に間合いを詰める。
必殺の居合斬りが炸裂――!!ラヴィはやつの首元で刀を振り切った――が、次の瞬間、やつは大きく態勢を崩しながらも左脚を振り払い、至近距離にいたラヴィを吹っ飛ばした。
「ラヴィ……!!」
「ラヴィさん!!」
ラヴィは軽く数メートルは吹っ飛んだが、なんとか着地。傷は浅かったようだが、鎧の隙間から見える衣服には、ジワっと血が滲んでいる。
対する《ロイヤル・バジリスク・ロード》はズベェっと体を滑らせていたが、麻痺の効果も切れたのかゆっくりと起き上がった。
首元からはボタボタと血を流しているが、少なくとも致命傷にはなっていないだろう。
やつは勝ち誇ったように目を細め、シュルシュルと舌を出した。
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