155話 対決、トカゲの王!①
「ぐっ……」
ラヴィから小さく声が漏れた。
血の滲むわき腹を押さえながらも……それでも立ち向かっていく。
「ラヴィさん、回復を……!」
慌てて駆け寄ろうとするベルだったが、それをラヴィが手の平を向けて止めた。
「……ううん、ダメ。 拙者は、まだやれる」
ラヴィはそう言うと、泥をかきあげて走り出した。
ギィン、ギンッと刀は弾かれ、なおも懸命に斬りかかるラヴィ。
ラヴィのスキルでも、致命傷には至らなかった。
今の攻撃だって、時間稼ぎにしかならないだろう――それでも、ラヴィは攻撃の手を緩めない。
そして、必死の思いは遂にベルの魔法へと繋がれた。
「【サモン・シスターズ】!! お願い、みんなを守って……!」
三つの魔法陣からそれぞれメイド人形が現れ、《ロイヤル・バジリスク・ロード》へ向かっていく。
メイド人形たちはナイフを振りかざし、ひたすらに暴れ回った。
さすがのあいつでも、小さい標的を相手にブンブンと空振りを連発。その隙にラヴィは俺たちのもとへ戻ってきた。
「【ヤヤヒール】! もう、無茶するんだから……!」
「うん、ごめん」
ベルの回復魔法が、傷ついたラヴィの体を包む。
効果の程は相変わらずだが、それでもないよりはマシだろう。
それにしても――
「強い、な。 あのメイド人形たちですら、まともな傷を負わせられてないぞ」
メイド人形たちは必死にナイフを振り回しているが、どれもかすり傷程度にしかならない。
あの、黒く強靭な鱗に守られているんだ。
ラヴィの攻撃も、同じように阻まれた。何か、打つ手は――
「ギュアアッ!!」
俺が思考を巡らせていると、ついにメイド人形にやつの攻撃が届いた。
右足で叩き潰し、浮いて逃げたものは噛みちぎり、後ろに回ったやつは尻尾で薙ぎ払った。
「……アレを、使う」
スウッと消えていくメイド人形を見つめ、ラヴィが呟いた。
直後、彼女の周りの空気が震え、マナが収束する――
ラヴィの切り札、【超獣化】だ。
ラヴィは闘気をみなぎらせ、閃光の如く飛び出した。
ドグッ、ボガッと鈍い衝撃音が響き、その都度の体が大きく揺れる。
「ギュ、ギュアアッ!」
予想外の反撃にやつは戸惑い、次第に大振りな攻撃を繰り返すようになった。
前脚による叩きつけ連打、さらに長い首を一気に伸ばした噛みつき――そこへカウンターの拳が入る。
ドオォッと音をたて、泥をはね上げながら倒れる巨体。
地面に伏したまま、グゥグゥと異音を立てる《ロイヤル・バジリスク・ロード》へ、ラヴィは追撃を浴びせるべく飛び上がった。
――瞬間、俺の目はやつの口元を捉えた。
緩く開いた口の端、鋭い牙が並ぶそばで何かが垂れている。
血?よだれ?……いや、黄色く濁ったそれは――
「麻痺毒っ……!!」
避けろ、などと声をかける間もない――やつの頭は、空中で無防備になったラヴィを向く。
おびただしい量の毒液が、彼女目掛けて放たれ――
そして、雨音がピタリと止んだ。
俺は切り札である、【退屈な昼下がり】させ、時間の動きをほとんど麻痺させた。
空中を漂う雨粒を払いのけ、ほぼ制止した時の中を駆ける。
このスキルの発動中、おれだけは自由に動き回れる――が、せいぜい七秒程度、これが今の限界値だ。
この時間内に倒せる相手じゃないし、そもそも俺にそんな力は無ぇ!
だとしたら、俺にできるのはラヴィを毒液から救って次に繋げること……!!
俺の平均的な運動能力が火を吹くぜ……!!
「うおぉぉぉぉ、フィジカルゥゥッ!!!」
俺は走る、泥々の足元を。
俺は登る、《ロイヤル・バジリスク・ロード》の口を。
いくつもの尖った牙が手に食い込む。
指も手の平もズタズタだ。
それでもなんとか登りきると、空中で静止したままのラヴィに向かって――
「これは……不可抗力だぁぁぁっっ!!!」
その胸元めがけてダイブ――全力で飛びついた!!
直後、スキルの効果が切れ、雨音が一斉に鳴った。
雨の激しく顔を叩く
「えっ!? マヒル殿っ!?な、何を――」
当然、慌てるラヴィだったが、頭上をかすめていく毒液の塊を見て状況を察したようだ。
「……ありがと、助かった」
「いえいえ、お嬢さん」
至近距離にラヴィの顔がある。
泥に、血に、汗に汚れた美しい顔が。
思わず見惚れそうになったが、俺の腹部を圧迫するラヴィの鎧のおかげで正気を取り戻した。
危ねえ危ねえ……俺今、大ピンチだったんだわ。
「ギュアッ!?」
目の前にいたはずの獲物を見失い焦ったのか、《ロイヤル・バジリスク・ロード》はガバっと跳ね起きた。
そして、足元にいる俺たちを見つけるやいなや、ガパァッと大口開けて迫ってきた。
全く、ボスともあろうものが、品がないぜ?
「【パライズ】」
「ギュガアッ――!?」
今度は躱す隙もなく、俺の放った【パライズ】が直撃。
大口を開けてみっともない姿をさらしながら、やつは地面に倒れこんだ。
「来たぞ、大大大チャンスだッ!!」
俺が叫ぶと同時に、ラヴィはすぐに行動を取った。
ぬかるみをものともせずに地面を蹴り上げ、大きく跳躍――
そのまま空中でぐるんと回ると、固く結んだ両手をまるでハンマーのように、やつの頭目掛けて振り下ろした!!
「【伏制】!!」
ドォッ!!っと激しい音がなり、やつの体は小さく跳ねた。
ラヴィは空中で態勢をたてなおすと、そのまま右手を大きく引いた。
「ハァッ……!! 【押蹄】ッ!!」
そして着地と同時に、矢の如く高速で右手が突き出され――痛烈な掌底が奴の左側頭部に炸裂!!
バヂィッと激しい音を響かせ、大きく体を反らせたやつはそのまま仰向けに倒れ込んだ。
「続きますわよ!! 【暴波泡】アンド――【サモン・セバスチャン】!!」
追撃の手を緩めることなく、ベルはバスケットボール位の泡を二つ作り出す。
そこへ、魔法陣から召喚された首無し執事ことセバスチャンが現れると、おもむろに泡を掴んだ。
え――
「えぇっ、なにそれ!? どういうこと!?」
「し、知らないですわっ!?」
いや、知らんのかい。
なんの奇跡か偶然か、二つの魔法が運命的な相乗効果をもたらしたようだ。
術者であるベルも知らない、新しい効果を。
両手に泡をまとったセバスチャンは《ロイヤル・バジリスク・ロード》に向かい、その妙な拳を振りかざした。
まずは左ジャブ――ダバォッ!!
続いて右ストレート――グッパァァン――!!
泡の衝撃力が加わったセバスチャンの鉄拳は比類なき破壊力を見せた。
ものの二発で、《ロイヤル・バジリスク・ロード》の巨体は吹っ飛び、取り巻きの《バジリスク》たちを何体も押しつぶしながら倒れ込んだ。
そして役目を終えたセバスチャンはスゥっと消え、ザァザァと雨の音だけが耳に残った。
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