147話 夜明け前の二人
朝――と言っても、日が昇るよりもずぅっと早くに、山間部の刺すような寒さに俺は目を覚ました。
それもそのはず、俺は自分の寝袋に入りもせず、ぬくぬくの寝袋にくるまったベルを膝元に乗せて寝落ちしていたらしい。
「……まじかよ。 寒いし足も痺れるんですけど」
昨晩の大号泣の跡が頬に残るベルだが、すぅすぅと気持ちよさそうに寝息をたてている。
まあ、ちゃんと眠れたんなら良しとするか。
俺はベルをそっと地面に寝かすと、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで大きく伸びをした。
薄暗い中、澄んだ紺色の空気が全身を巡る。
鼻の奥がツンッと痺れたが、あほみたいに清々しい気分だ。
――とはいえ、寒い。
この前服を買ってなかったら、俺は今日という朝を迎えられなかったんじゃないだろうか?
寒い山で薄着のまま眠って凍死……なんていうまぬけな幕引きだけは避けられて何よりだ。
「目ぇ覚めちまったな。 とりあえず、火ぃ、起こすか。 えーと、薪、薪っと……うわまじか」
昨日ラヴィがとってきてくれた薪になりそうな類のものは、全て使ってしまっていた。
残っているのは爪楊枝にしかならないような小枝ばかり。
ぶるっ――
とはいえ、寒い。このままジッとしてても凍えるだけだし、朝の運動がてら薪でも拾いに行きましょうかね。
俺はジンジンと冷たい手をコスコスと擦り合わせながら山道を行く。
ぼんやりと歩きながら頭に浮かぶのは、やはり昨日のベルのことだ。
小さい頃に親も兄弟も、家も家柄も全てを失ったベル。
今日の今日まで一人で生き抜き、抱えきれない重荷を背負い続けてきたことだろう。
でも、昨日ああして話してくれたってことは、多少なりとも俺たちのことを頼ってくれてるってことなんだろうか。あの時、感情を爆発させて大泣きしてくれたことは、仲間だと思って安心してくれたからなんだろうか……
「――そうだったら、いいな」
まだまだベルのことは知らないことだらけだ。
でも、これから知ることはできる。
彼女が大変な時に隣で支えられる人に――もっともっと頼れる仲間に俺も成長しないとな。
「よしっ! やるぞ、俺は。 俺はやるぞー!」
「……何をやるの?」
「おひゃんばっ!?」
「……? ”おひゃんば”っていうの、やるの?」
いつの間にやら、俺のすぐ後ろにはラヴィがいた。
完っ全に油断してたもんだらから思わず奇声をあげてしまったし、またラヴィの天然ワールドが炸裂している。
「お、おはようラヴィ。 驚きすぎて鼻から心臓が飛び出るかと思ったわ」
「ん、おはよう、マヒル殿。 そんな危ないこと、したらダメ」
「え? ああ、うん。 ごめん……」
なぜか謝ってしまったが、すごぉく釈然としない。
「……にしても、早いな。 いつもはまだ寝てる時間だろ?」
「うん。 なんだか、目が覚めちゃって。 そしたら、マヒル殿がブツブツ言ってるの、見えた」
「おぉ……非常に恥ずかしいな、それは。 俺はただ、決意を新たにしてただけだよ。 もっと強くなろうってな」
「……昨日の、ベル殿の話?」
「おう。 何かあった時、もっともっと頼れる俺になっておかないとなって思って。 まあ、そうは言っても力不足な俺だから、ラヴィにも手伝ってもらえたら嬉しいんだけどな?」
「……!うん、当然。 大事なベル殿の為に、拙者も全力で、荷物持ちする」
そう言ってラヴィはグッと親指を立てる。
どこか話が食い違ってる気がしなくもないが、これはこれでラヴィの良い所だ。
「……さて、俺はあまりの寒さに、薪を拾いにやってきた訳なんだが……ラヴィも手伝ってくれたりする?」
「了解。 必要なら、そこら辺の木、切ろうか?」
「規模がでけぇって。 ありがたいけど、昨日みたいな薪でいいよ」
俺がそう言うと、ラヴィは少し残念そうに「了解……」と言って抜きかけた刀をチンッと納めた。
ナチュラルに伐採しようとすんの、頼もしさを通り越しいてる気がするんだが……
「あ、そういえば、マヒル殿」
「おん?」
「”おひゃんば”は、いつやるの?」
「……うん、そうだな。 今日はやめとこうかな」
「そう?……了解」
そんなこんなで、夜明け前の薪拾い。
完全に体は冷えてるはずなんだけど、恥ずかしさとほっこりさで俺の心は結構温まってた。
うん、そこがラヴィの良い所。
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