表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠く離れた空の下(外資系企業における権力抗争と生存競争)  作者: 大和
遠く離れた空の下「(本編)熾烈な出世争いと闘いの日々」
55/56

「遠く離れた空の下」第2章 第47話【クローゼットの白いシャツ】

◇◇◇ ここまでのあらすじ ◇◇◇

大和がチームと作り上げたキボウ戦略は梨田・黒馬の戦略とは大きな違いがあった。大和の戦略を認めず黒馬案を通そうと強引に進める梨田であったが大和が本国製品担当責任者バタフライに相談した事で社長・今山の御前会議でそちらの案を採用すべきか決定する事になる。両社の意見は平行線を保ち結果として今山の判断となった。その決断は大和案の採用であった。プライドを傷つけられた梨田はチームキボウにプレッシャーをかける。くだらない争いを続ける中で気が付くと大和は情熱を失ってしまった事に気づくのである。ヘッドハンターからは大手企業からの勧誘があった旨連絡を受けた大和はもうアーセン社に残る理由がない事に気が付いた。

◇◇◇ クローゼットの白いシャツ ◇◇◇

ヘッドハンターたちからは数社を紹介された。その中から大和は2社を選び面接を行う事にした。一旦アーセンに残る理由がないと決めた大和の動きは速かった。時間が何も解決しない事を知っている以上現状に甘んじる必要はなかった。

まず面接を行ったのは大阪に本社をもつ業界大手企業であった。東京支社は東京駅にあり大和は面接に訪れた。面接は形式的なものなのかほぼ雑談で終わった。取締役にあたる面接官とは意気投合し面接後もコーヒー片手に業界の話をして盛り上がった。最終面接は大阪に訪れる事はなくリモート面談で行われた。今でこそ当たり前になったリモート面談であったがまたこの頃はまだ珍しく相手の表情を掴みにくいなと感じながら面談を行った。人事担当者からは追って結果の連絡がある旨伝えられた。大和は十分な手ごたえを感じていた。

「おそらくここは通ったな。」

続いて面接を受けたのは東京に本社をもつ企業であった。この企業では大和が担当している領域の新製品発売の準備をしている状況であり大和がアーセンに入社した際と状況は似ていた。ただし大きく違ったのはこの企業の新製品事業部に一番最初に入社するのは大和であろうという事であった。大和に与えらえる役職は部長であった。大和の上長となる事業部長は平行して採用中という事であった。どんな人が自身の上司になるのか不安はあったが思えばモゾパス社においてもアーセンにおいても大和が一番やりがいを感じるのは新しい事をやるときであった。面接は香港にいる外国人とリモートで行いその後東京本社を訪れた。大阪に本社がある会社でリモート面談をしておいてよかったと心から思った。

「事業部長となる方は自分の部下になる人間を確認しなくていいのでしょうか。」

上長となる人物が大和自身と面接を行わなくてもいいのだろうかという不安を払拭するための確認であった。

人事本部長は表情を顔に出さない人であったがゆっくりと話しはじめた。

「大和さん、新しい事業部長はこれからクローゼットに自分の好みの服をそろえていくでしょう。ただしフォーマルな白いシャツは絶対に必要ですよね。大和さんは弊社にとってフォーマルな白いシャツなんです。絶対に必要になるから先にクローゼットに用意しておくのです。新しい事業部長も必ず必要とする一着なのです。」

大和はこの言葉に感動した。そしてそこまで必要と感じてくれているならとこの東京の企業と話を進めていくことを決意した。

オファーレターは数週間以内に届くとの事であった。

大和はこちらも合格しただろうと考えていた。


◇◇◇ アーセン最後のプレゼンテーション ◇◇◇

大和が急いでいる理由はもう一つあった。

アーセン本社から会議でのプレゼンテーションをして欲しいと月末に招待を受けていたのである。

おそらくこの機会にお世話になったバタフライやUSチームとあっておかないと今後二度と会う事はないかもしれないと考えていた。

会議はアーセン本国の古都リンツで行われた。

梨田は大和を行かせたくなかったのでいろいろと理由を付けて妨害をしてきたがバタフライが直接社長の今山に話をしてくれたおかげで会議に参加できることになっていた。

バタフライはこの頃の大和の様子から何かを悟っていたのかもしれない。

会って直接話がしたい。と何度も社長・今山に交渉をしてくれた。

通常日本から社用で欧米に行く際にはビジネスクラスが用意されるが、今回は大和が行く条件としてエコノミークラスの使用を命じられた。

エコノミークラスで移動後に仕事をするのは大変であったが贅沢は言えなかった。

会議には世界主要マーケットである、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、アメリカ、ブラジル、シンガポールそして日本の製品企画担当責任者が参加してキボウの来年度以降の戦略をディカッションする事になっていた。そして現在世界でもトップを走る日本の成功例をプレゼンするのが大和に与えられた役割であった。日本からは大和と開発担当者2名で訪れた。

リンツは美しい街である。中世にはリンツの大司教はヨーロッパに大きな影響力をもち大いに栄えた街である。フランス革命時には多くのフランス貴族がこのリンツの地に流れ込み反革命派の拠点ともなった街であった。大きな美しい川が流れ早朝に散歩すると多くの野兎に出会う事が出来た。街にはロマネスク様式の建物が溢れる歴史と伝統の残る街である。

2日目の夕方、ディナー前のセッションで大和はプレゼンを行った。プレゼンを行いながら壇上から眺めるとかつて在籍したUSチームのメンバーもいた。共にキボウの成長のために取り組んできた世界各国の仲間を眺めると思いが込み上げてきた。つまりそうになりながらもプレゼンを続けた。そして思った。

”これをアーセン最後のプレゼンにしよう。”

実際帰国後のプレゼンを依頼されたり発表しないいけない局面もあったが大和はチームに任せ一切行わなかった。リンツで行ったプレゼンを汚すような気がしてアーセン日本支社でのプレゼンはもう行いたくはなかった。

アーセン最後のプレゼンの翌日、午前のセッションを大和は欠席した。会議前にメールを確認すると東京に本社がある会社からオファーレターが届いていたからである。今まで会議を無断で欠席する事など大和はしたことがなかった。しかしプレゼンが終わり仲間と会い再会を果たした大和にとって午前のセッションには意味を見いだせなかった。

オファー内容は大和にはもったいないくらいの高条件であった。

大和は会議には出席せずに旧市街へ向かった。リンツの街にはガルッテキルシュと呼ばれる木組みの家が並ぶエリアがある。大和はそこに場所を決めた。そして日本のヘッドハンターへ電話をした。

「オファーレターを拝見しました。オファー頂いた会社に転職しお世話になりたいと思います。」

大和は今でもその時の通りの雰囲気や木組みの家の景色を鮮明に覚えている。

忘れられない風景なのである。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ