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帰省 6


相手の侍女も注文して店員が部屋を出ていくと、マーヤと俺、そして相手はアミリーン様と呼ばれていた女性、侍女、それと執事っぽい男性の五人だけになった。



俺も余裕が出てきたので、相手の人たちを見てみる。

とりあえず、マーヤが知り合いのようだったからついてきてしまったけど、大丈夫だよね?

アミリーン様は、貴族のご令嬢だろう、質の良さそうなドレスを着ている。

彼女も落ち着いてきたらしく、鼻をすすっているがもう泣いてはいない。

侍女に涙を拭いてもらっている。


おっと、俺もマーヤの涙を拭いた方がいいのか?

マーヤの方を見ると気持ちも落ち着いたのか、俺に笑顔を向けてきたので、彼女は大丈夫かな。

マーヤも元はご令嬢なのに、たくましくなったなぁ。

そんなマーヤがちょっと愛おしくなり、俺はマーヤの頬をなでた。

マーヤはくすぐったいというような顔をしたが、その顔がこれまた可愛かった。


「あの~、よろしいでしょうか・・・顔を見るなり泣いてしまうという突然のご無礼、申し訳ありませんでした。

リルマーヤ様だと思った瞬間、涙があふれてきてしまい・・・ぐす・・・すみません、嫌ですわ、話が進みませんね。

申し遅れました、ハートリー子爵の娘、アミリーン・ハートリーと申します。」

「アミリーン様、わたくしのことを覚えていてくれたことに感謝いたします。

今は、リルマーヤ・ヴォルグです。

こちらは夫のコーリヒト・ヴォルグです。

私たちは貴族ではありませんので、この席にご一緒させていただいてもよろしいのかどうか・・・。」

「まあ・・・いろいろお噂がたってはいましたが、やはり市井に下ったのですね。

でも何をおっしゃるの? リルマーヤ様は私の友人です。

身分は問題ではありませんわ。」

「ありがとうございます。」


「コーリヒト・ヴォルグと申します。

なかなか貴族社会には慣れませんので、粗相がありましたら申し訳ありません。

先にお断りさせていただきます。

そう言えばマーヤ、まだ帽子をかぶったままだぞ。」

「え、あら嫌だわ。失礼いたしました。」


マーヤがそういいながら帽子をとると、白くて短い髪があらわになった。

それを見たアミリーン様が目を丸くした。


「その噂は本当だったのですね。 そんな・・・」

そう言いながら、また泣き出してしまった。

あー、涙が出始めると出やすくなっちゃうんだよな。

その気持ち、俺はわかるぜ。


「アミリーン様、泣かないでください。 私は大丈夫ですから。」

「ごめんなさい、リルマーヤ様について本当にいろいろな噂が飛び交い、とても心配していたのです。

会いに行きたかったのですが、両親に止められてそれもままならず、ご苦労があったと思いますがその時にお力になれずごめんなさいね。」

「わかっています。

こうして顔を覚えていてくれたことも、お声を掛けていただけたことで、アミリーン様のお気持ちに触れることができたことも、とてもうれしいですわ。」



マーヤはそう言うと、これまでの経緯を話し始めた。

病気になってしまったことから始まり、髪が真っ白になってしまったこと、伯爵令息との婚約解消のこと、目が覚めてからのこと、そして俺と結婚したことまですっかり全部、アミリーン様に打ち明けた。

アミリーン様は時折目頭を押さえて涙をこらえながら、時には涙を流しながら聞かれていた。

しかし、話が終わったころには、マーヤもアミリーン様も笑顔だった。


マーヤとアミリーン様は、貴族学校の頃の友人で、同じ子爵家の娘ということもあって話が合い、当時は本当に仲良くしていたそうだ。

マーヤもそんな彼女には自分のことを知ってもらいたいと思ったのかもしれない。


「そして今は、リルマーヤ様はお幸せなのですね。」

「ふふふ、そうですね。 コーリヒト様は優しくて私を気遣ってくれます。

市井に下りてしまいましたが、毎日が新鮮でとても楽しい日々を送っています。

ご心配をおかけしてすみませんでした。」

「ヴォルグ様も、リルマーヤ様のことよろしくお願いしますわ。」

「はい、もちろんです。

こんな俺のところに一人でお嫁に来てくれただけでもうれしいのに、リルマーヤは慣れないことも多いと思いますが、よくやってくれています。」

「え、リヒト、そんなこと思っていたの?」

「え、マーヤ、ここで言わなくても・・・。」

「あらあら、お二人はとても仲がよろしいのね。 うらやましいわ!」


「えーと、そう言えばアミリーン様のご婚約者はお元気でいらっしゃいますか?」

「ええ、彼は元気なのですが、お義父様の体調があまりよくなくて結婚の時期をずらしているの。

私の方こそ、そろそろ結婚しなければいけないのに。」

「でも婚約が決まっていらっしゃるならそんなに焦らなくても・・・。」

「リルマーヤ様! 私たちはもう二十歳を過ぎてしまいましたわ。

学校を卒業したらすぐに結婚できると思ったのに、ルカリエル様のお義兄様が先に結婚するから少し待ってほしいといわれ、やっと結婚できるのねと思ったら今度はお義父様の体調が少し優れなくて、と、どんどん延びてしまったのです。」

「それは、大変でしたね。

ルカリエル様のお父様のガルシア伯爵のご容態は、今はどんなご様子ですか。」

「おかげさまで、少しずつ回復に向かわれているようなので、心配はないとルカリエル様は言っておりました。」

「それなら、よかったですわね。」

「ありがとうございます。

お義父様の回復と、やっと私の年齢に皆さん気が付いたようで、この秋には結婚ができそうですわ。」

「まあ、それはおめでとうございます。

アミリーン様のご婚約者は、ガルシア伯爵様の次男なの。」

「あぁ、ガルシア伯爵家・・・たしか、ここより南の領地でしたね。 王都に近くなりますね。」

「次男なので、伯爵家の領地の端に住まいを持つことになるのですが、また王都に御用のある時はお寄りくださいね。」


王都に御用なんて、まずないなぁ。 でも一度は王都に行ってみたいから、いつか旅行で行けたらいいな。


そのあと、マーヤとアミリーン様は最近の話題など久しぶりの再会に話が咲いた。

その間俺は、リンゴの紅茶を堪能していた。

女性の話は長いからな。 辛抱強く待つのが一番だ。

日ごろ、マーヤとロッテに鍛えられているからな、俺はちゃんと待てる男だぜ。



「私、お化粧直しに席を離れますね。」

「あら、じゃあ一緒に行ってあげて。」


マーヤが席を立つと、アミリーン様の指示で侍女が一緒に行ってくれた。

と、テーブルには俺とアミリーン様の二人になった。 まあ、ドアの近くに執事さんが立っているが。


「ヴォルグ様、今日は会えてよかったですわ。」

「はい、リルマーヤも久しぶりにこちらに帰ってきたところで、突然ではありましたがお声を掛けていただいて彼女も喜んでいると思います。」

「ヴォルグ様はリルマーヤ様をお好きなのですね。」

「へ?! あの、その・・・そうですね。ははは。」

「お二人の様子は見ていてとても微笑ましいですわ。」

「いや~、何と言っていいか・・・ありがとうございます・・・」

「どうぞ、これからもリルマーヤ様のお傍にいて、彼女を守ってくださいまし。

リルマーヤ様はとても苦労してきたのです。 彼女には幸せになって欲しいですわ。」

「もちろんです。 マーヤを幸せにします。」

「あら、聞いたこちらが恥ずかしくなってしまいますね。 そういうところがリルマーヤ様のお心を射止めたのですね。」


直球で聞いてきたのはそちらだろう! もう、顔が真っ赤になるからこれ以上は勘弁してほしいぜ。

席を外していたマーヤが戻ってきたので、それに合わせて解散となった。

マーヤとアミリーン様は、お互い手を取り、また再開できることを誓いあった。



昔の友に会えることはとてもうれしいことだ。

そして、今が人に胸を張って言える状況なら、相手も安心だし、自分の自信にもつながる。

マーヤが、そして俺にとっても、今をちゃんと生きているとみんなに対して言えるように彼女を守っていこう。



「リヒト、突然の出来事だったけど、ありがとうね。」

俺は返事をする代わりに、まだ帽子をかぶっていない彼女の額にキスをした。



帰省編は7回に分けて投稿しています。

次回は、明日15時にアップします。

楽しんでお読みくださるとうれしいです。


読んでくださり、ありがとうございます。

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