帰省 7
今日は少し暖かい朝を迎えた。
雲の合間から日差しが見える。
ちょっとでも日が差すと暖かくなるから、この季節の太陽は貴重だな。
今日はマーヤとは別行動。
マーヤは侍女のジゼルと一緒にお出かけするそうだ。
ということで、俺は独りぼっち・・・どうしようかと思っていたら子爵様が北の方を視察に行くので、一緒についていくことになった。
キースライノ様は他の仕事があるそうで、子爵様のお供は俺一人。
だ、大丈夫か?俺!
そう思って馬車に乗り込んだが、北の領地を見るのは初めてだし、子爵様がいろいろと話をしてくれたので、そんな不安も馬車が進むにつれなくなっていった。
さすが、領主様となると話が面白い。
気安く話しかけてくれることもあり、ついつい、もっと話をしてみたいと思ってしまう。
「このあたりの畑は、雪が積もっているところと土が見えているところとありますが、どうしてですか?
土が見えているところは魔石の力で暖かくして雪を溶かしているのはわかりますが、雪が積もっている畑は、今は使われていないんですか?」
「あー、私も最初は不思議に思ったよ。
聞いてみるとな、作物を植えておいて、わざと雪を積もらせているんだそうだ。
そうすると、なぜか少し甘くなるそうだ。 面白いだろう?」
「え、甘くなるんですか? 雪が積もっているぐらいだから土の中は冷たいと思いますが。」
「自然の貯蔵庫みたいな感じだろうか。 おまけに甘くなるんだ。 すばらしいじゃないか!
そして、雪が積もっていない畑の作物を先に収穫して、後から雪が積もっている畑の作物を収穫するそうだ。
時期もずれるし、収益も一定になる。 農家の知恵だな。」
「すごいですね。 この大きな畑がそのまま貯蔵庫として生かせるんですね。」
「何事も一つの方法しかないわけではなく、考えればいろいろなやり方があるというわけだ。」
「なるほど。 勉強になります!」
北の領地といっても、コンヴィスカント家のフォージナル領はそれほど雪深いわけではなく、よく使われている道には雪は積もっていない。
それでも特に北の方は雪が降ることが多いので、人々の生活はそれに対応していかなくてはいけない。
普通に考えれば良くないことでも、それを反対に利点にして利用していくとは、ここの地域に住む人たちの経験から生まれた生きる術だ。
ダメだ、と思っても視点を変えれば一転して好機になることもある。
俺も見習わなくては!
子爵様はマーヤの父親でもあるけれど、今までの俺にとっては貴族であり領主様でもあるし、お義父様になったからといってどんなふうに接していいかよくわからなかった。
でも今日一緒に行動してみて、子爵様は話しやすくて俺のことも気にかけてくれているようだし、距離が縮まった気がした。
子爵様のお供なんて初めはどうなることかと思ったけど、今日は勉強することも多く有意義な一日だった。
◇◆◇
その夜、寝支度を整えたマーヤと、俺が使わせてもらっている客室のソファに一緒に座って、今日のことをマーヤに話をした。
マーヤは『やっぱりお父様に任せておけば大丈夫だと思ったわ』とうれしそうだった。
自分の父親と夫が仲良くなるのがうれしいんだろう。
「それでマーヤは、今日はどこへ行ってきたんだ?」
「今日はジゼルと一緒に行かせてくれてありがとう。
えーと、病院に行ってきたの。」
「え?! 病院? え?! マーヤ、どこか具合が悪いの? すまん、全然気が付かなかった。あー、夫としてダメじゃん・・・どうだった? 前の病気の再発? 先生はなんだって?」
「リヒト、落ち着いて、大丈夫だから。 でも心配してくれてありがとう。
あのね、赤ちゃんができたって。」
「え? 赤ちゃん? できた?」
「うん、2,3か月ぐらいだろうって。 リヒト、お父さんになるんだよ。」
「え? 俺? お父さん?」
「そうでしょ? 私たちの赤ちゃんなんだから。」
俺たちの赤ちゃん?
俺の頭の中は一瞬真っ白になったが、考えが整理される前にうれしさがこみあげてきた。
俺はマーヤを抱きしめた。
なんて表現すればいいかわからなくて、でも何かをしたくて、マーヤをギューッと抱きしめた。
「リヒト・・・リヒトも喜んでくれるんだね。」
「当たり前だろう! マーヤ、マーヤ!」
しばしマーヤを抱きしめたが、それでも気持ちが収まらないので、マーヤにキスをした。
「ちょっと、お腹を触ってみてもいいか?」
「え、いいけど、まだ何も変わってないよ。」
俺はマーヤのお腹に手を当ててみた。
うーん・・・
「何か違う感じがするの?」
「えーと・・・全然変わってない! 柔らかい・・・」
「もう、リヒトったら! そういうこと、言うんだから。 もう触らせてあげないよ。」
「あはははは!」
俺は笑いながらソファに寝転んだ。 うちのソファと違って大きいのだ。
マーヤも俺の上に寝転んできたので、抱きかかえた。
「あはははは」
「ふふふふふ」
「マーヤ、何を笑っているんだよ。」
「リヒトが先に笑ったんでしょ。」
「なぜか、顔がにやけちゃう。 止めようと思っても止められない!」
「ふふふ、そうね、にやけちゃう!」
本当にうれしい時って、うれしさがこみ上げてきて、つられて顔が笑顔になるんだな。
笑顔を止めようと思ってもできなくて、なぜか笑顔になってしまう。
しばらくの間、寝転びながらマーヤを抱きしめていたが、アッと思いついて、俺はがばっと起きて床に跪き、マーヤをソファに座らせた。
「どうしたの? リヒト、突然・・・」
「マーヤ、俺はマーヤを守るよ。 そして生まれてくる子供も守るから。
だから、どうか俺の横で俺を支えてほしい。」
俺は彼女の手を取ってその甲にキスをした。
「あー、もうそういうところだよ!
リヒト、ホンっとに真面目なんだから。
そして私はますますリヒトが好きになっちゃうんだから。」
「え、何? もう一度お願いします!」
「だから! リヒト、大好きですっ!」
マーヤが俺に向かって飛び込んでくる・・・俺はマーヤを受け止める。
でもやっぱり顔はにやけてしょうがなかった。
その夜は、マーヤを抱きしめて寝た。
マーヤのお腹の中で育ち始めた俺たちの子供のことを思いながら・・・。
◇◆◇
次の日、長かったコンヴィスカント家の滞在も終わりとなった。
皆さんが集まったところで、お礼も言いながら、恥ずかしかったけど子供ができたことを伝えた。
それはそれは、皆さん喜んでくれた。
お義母さまは泣いてマーヤに声を掛けていた。
子爵様は、あと一日、いやあと二日、まだここにいたらどうかと言われたけれど、丁重にお断りした。
楽しかったし不自由はなかったけど、やっぱり俺としては貴族の暮らしはもうお腹いっぱいだな。
それならリルマーヤだけでもいたらどうかと子爵様は言っていたが、それはマーヤに怒られていた。
帰りの馬車には、子爵邸にあるだけの風の魔石を車輪につけてくれた。
魔石を車輪につけると、少し浮いた状態になるので、馬車本体への振動が少し和らぐのだ。
子爵の馬車で乗り心地はかなり良いのに、ますます快適な乗り心地になった。
次にまた会えるのを待っているから、と見送られながら俺たちはコンヴィスカント家を後にした。
今回の冬休みでは帰りの途中、ヴォルグ家にも一泊した。
ここでも照れながらご報告したが、やはり皆さん、とても喜んでくれた。
そしてお決まりのように、リルマーヤだけでももう少しここにいたら、と言われたがお断りした。
どうしてみんな、俺を一人で帰らせようとするのだ!
次の日、ゆっくりとさせてもらい昼過ぎにヴォルグ家を出て家路についた。
馬車はそのままコンヴィスカント家のものを使わせてもらった。
乗り心地がとてもいいし、これならマーヤの体にも優しいだろう。
マーヤは疲れたのか、馬車に乗ってすぐにうとうとし始めた。
今回はお疲れさま、たいへんだったな。 俺の肩にもたれさせておいた。
それにしても、濃密な一週間だったな。
勉強することも多かったし、喜びも多かった。
マーヤと結婚して、もうすぐ一年か。
あっという間の一年だったけれど、彼女の存在が俺の中でこんなに大きくなるとは思わなかった。
反対に言えば一年前まで知らなかったとは思えないほどだ。
マーヤにはいつまでも俺の隣で笑っていてほしい。
マーヤの手を握る。 暖かい手だ。
最初のころの、すべすべとしたきれいな手とは違い、指の先は少しカサカサしているけれど、俺はこの手が大好きだ。
そういえば、俺がマーヤと一緒にやっていけると思ったのは、手を握ってもらったからだった。
最初はただ単に不安だから手を握っていたと思う。 でもそのうち自然と手を取り合えて、俺たちの心もつながっていたんだと思う。
俺の肩に寄りかかって眠るマーヤの頭にキスをした。
「マーヤ、愛しているよ。」
そう言える俺は、確かに幸せだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回のお話で、この番外編も完結と致します。
本編よりお付き合いくださり、本当にありがとうございます。
読んでくださる方がいると思うと力が湧いてきました。
私のわがままですが、気持ちの整理がまだついていませんので “完結 ”のボタンはまだクリックせずにいようと思います。
ありがとうございました。
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