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帰省 3


ルースティーノ様が泣き止んで落ち着いたと思ったら、今度はお菓子に興味を持ち始めた。

おとなしくなったところで、皆さんの会話は次の話題に移った。



「そういえばリルマーヤ、今日はお土産を持ってきてくれたんじゃないのかな。」

「あら、そうだったわ。

ルースティーノが可愛らしくて、すっかり忘れていたわ。

ジゼル、パンをお出しして。」


マーヤは、手作りの焼いたパンをみんなに食べてもらおうと、今朝も早くからはりきって準備をしていた。

通っている教室で習ったというパンは、俺が言うのもなんだが、かなりうまい!

俺が食べるときは焼き立てっていうのもあるし、マーヤが一生懸命作って焼いてくれたというのも美味しさ倍増の一理かもしれないけれど。

初めてパンを作ってくれて食べたときは、美味し過ぎて食べ過ぎて、マーヤに怒られてしまったんだよな。


ジゼルが持ってきてくれたパンは、温められてきれいなお皿に並べられていた。

パンの香りがほのかに漂い、見るからにおいしそうだ。

少し小ぶりの丸いパンで、その程よい大きさがパクパクいけちゃうのだ。

クルミが入っていて少し甘めだから、ジャムがなくても美味しい。


「おお、おいしそうだな。 一つもらおう。」

子爵様が手に取ると、他のみんなもそれに続いてパンを取り、口に運んだ。


「あ、少し甘いな。 食べやすくておいしいよ。」

「クルミもいいアクセントになっているわ。」

「あのリルが、パンも作れるようになったのか・・・それでこのパンは何というパンなんだ?」


キースライノ様がパンの名前のことを聞くと、マーヤは待ってましたと言わんばかりの顔をした。


「このパンは “おこパン” です!」

「「「「「おこパン?」」」」」


そういえば、俺もこのパンの名前は聞いていなかった。

そんな名前だったのか? パンを改めてまじまじと見つめてしまった・・・聞いたことがない名前だな。

キースライノ様も俺と同じように思ったようだ。


「それは・・・変わった名前だな。 初めて聞いたぞ。」

「ええ、私が命名しました。

リヒトが食べ過ぎて私に “()られたパン” なので “おこパン” です。」

「ぐふっ、ま、マーヤさん、そんな話はここで言わなくてもいいし、そんな名前を付けなくてもいいだろう!」

「あら、リヒトが私に怒られた話はお父様たちに宛てた手紙に書いたので、もう知られていることだから別に隠さなくてもいいでしょう。」


えー、そんなみっともない話、手紙に書くなよ~。

俺の夫としての威厳が・・・。


「そ、それはすごい名前を付けたな。 コーリヒト君も世話をかけるな。」

「いえ・・・俺は大丈夫です・・・」 ちょっと泣きそう。


「というのは冗談で!

()クルミと()糖のパンなので、それぞれの一文字を取って “おこパン” です。」

「あー、そうだよな、怒られたパンでは、食べるたびに思い出すぞ。

なるほど、黒糖を使っているのか。 だから少し甘みがあるんだな。」

子爵様が相槌を打ってくれた。


「でも『()いしい』と()ーリヒトが言ってくれたパン、でもあるんです。」

「マーヤ・・・!」


「あー、なんか俺、もうお腹いっぱいだな。」 とキースライノ様。

「私も夕食があるから、今はやめておこうかな。」 と子爵様。


俺とマーヤが見つめ合ってしまったところでこの話題は終わった。

皆さんがいるこの状況を一瞬忘れてしまった自分が、ちょっと恥ずかしい!




◇◆◇




皆で団らんした後は一時解散となり、俺とマーヤは荷物の片づけをした。

少しゆっくりさせてもらってから、全員で夕食。

子供が一人いるだけでその場が和やかになり、話題の中心はルースティーノ様。

眠くなってぐずってきたところで侍女のジゼルが寝室へと抱いて行った後は、今度は大人たちの時間。


夕食の後は男性陣はサロンに移動して、お酒を二杯ほど頂いた。

今日は疲れただろうと気を遣っていただいて早めに解散となったのだが・・・。

子爵様であるお義父様と、お義兄様と三人なんて、全然酔えなかった!

その割には話の内容はほとんど覚えてないし・・・。



そして今はというと、お風呂に入って部屋に戻るところなんだけど、それにしても広いお風呂だった!

俺が寝ころんで入っても十分な浴槽。

あれなら二人で入っても全然余裕だな。

え、二人って、いや~、マーヤと一緒に入りたいなんて、言ってない言ってない!


おっといけない、ここは子爵様の家だった。

周りを見回してみる・・・よし、誰もいない。

こんな顔で歩いていたら怪しまれてしまう。

そんなことを思いながら広いお屋敷の中を歩いて用意してくれた部屋へ戻った。


フィアンティの家の、俺の部屋もなかなか広いと思っていたが、この部屋はその倍はありそうだ。

風呂場でも思ったけど、部屋の広さって慣れないとどうも落ち着かない。

そして一人で寝るには十分な大きさのベッド。

マーヤと一緒のベッドで寝るようになった今では、一人で寝るのもさみしいな。


あー、夕食の後は男性陣と女性陣で別れてしまって、そのまま解散になったからマーヤと会話できていない・・・『おやすみ』の一言くらい言いたかったな。

一週間の辛抱だ。 がんばれ、俺!


とりあえず横になろうかとベッドに入ろうとしていたところへ・・・

『コンコン』

部屋のドアからノックの音が聞こえた。

こんな夜更けに誰だ?

何か忘れ物でもしたかな、と思いながらドアを開けると・・・


「来ちゃったっ!」


そこには枕を抱えたマーヤが!

枕を抱えているということは!


「マーヤ・・・」

「入ってもいいかしら?」

「もちろん! どうぞどうぞ、廊下は寒いだろう。」


マーヤは抱えていた枕をベッドにおいて、端に座った。

ソファもあるけどベッドに座ったということは、あまり話はしないですぐに眠る気だろう。

俺もマーヤの隣に腰かけた。


「一人でベッドに横になったんだけど、なんとなく、広いしさみしくて・・・。

一年前まではそのベッドに一人で寝ていたのに変だよね。 ふふふ。」

「俺もこの広さにはちょっと慣れが必要だと思っていたところだよ。

広ければいいというモノでもないもんだな。」


「ねえ、リヒトも一人で寝るのはさみしいと思っていた?」

「ああ、一週間の辛抱だと気合いを入れていたところだ。」

「寝る前に気合いを入れたら眠れなくなっちゃうよ~。」

「え? それもそうだな。 でもマーヤが来てくれて嬉しいよ。」

「ホント? 『一人でダイの字になってゆっくり眠れるぜ』とか思っていない?」

「そんなことは思わないよ。

ダイの字はわからないけど、俺も、一人で寝るのはちょっと寂しいと思うようになってしまったな。」


俺たちは顔を見合わせてお互い微笑みあった。

おやすみの言葉を交わし、キスをして、一緒にベッドにもぐった。

柔らかい布団に沈み込み、横にいつもの暖かな温もりを感じながら俺はすぐに深い眠りについた。




◇◆◇




次の朝、のんびりと目覚めた俺たちはベッドの中でくつろいでいたが、廊下が騒がしかったので何事かと思いドアを開けてみると、『お嬢様が部屋にいない!』と侍女のジゼルが半泣きで探していた。

事情を話したら、二人でジゼルに怒られた。

彼女は久しぶりにマーヤを起こせることを楽しみにしていたらしい。


ジゼルさん、すまん!



帰省編は7回に分けて投稿いたします。

次回は、明日15時にアップします。

楽しんでお読みくださるとうれしいです。


読んでくださり、ありがとうございます。

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