表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

ギルド

「冒険者登録ってやつをしたいんだが」


 朔はギルドの受付に向かうなり、そっけなく言い放った。

 ざわついていた室内の空気が、一拍だけ止まる。

 扉を開けた瞬間から向けられていた視線が、さらに鋭さを帯びて朔へ集中した。


「冒険者登録ですね」


 受付嬢は手慣れた様子で、書類を取り出す。


「ここに名前と旅の目的、それから身元確認のできるものがあればお願いします」


 朔は差し出された書類に無言で目を通し、ペンを受け取った。


 初めて見る文字なのに、意味が直接頭に流れ込んでくる。読めているというより、理解させられているという感覚だった。

 月城朔――

 その文字ですら頭の中に浮かんでくる。

 朔は不気味さを感じた。


「旅の目的は……?」


 受付嬢の落ち着いた声が耳に刺さる。

 朔は少しだけ考えた。

 この世界で何をしたいのか。

 何を望んでいるのか。

 だが、そんなものは特にない。

 朔はペン先を止め、ちらりと二人の方へ視線を向けた。


 ――生きるため


 そう書きつけると、朔はペンを置き書類を受付嬢へ押し返した。


「では確認しますね」


 その間も、周囲の視線は彼らの背中に刺さっている。


「確認しました。書類はこれで大丈夫です」


 受付嬢は明るく続けた。


「冒険者登録をするには、魔力量の測定と、簡単な実技試験が必要です。」


 受付嬢の明るい声に反し、周囲の空気はさらにざわついた。

 近くのテーブルから、笑い声が聞こえる。


「……ひ弱なガキが試験だとよ」

「すぐ逃げるんじゃねえの」


 朔は振り返らない。

 背中に刺さっていた視線が、好奇心から値踏みするようなものに変わったのを感じた。


「試験場は奥になります。ご案内しますね」


 受付嬢は微笑んだまま、ほんの一瞬だけ朔の足元から頭までを見た。

 職務的な確認のはずなのにどこか測っているようで、朔は居心地が悪かった。


「……わかった」



 受付嬢に案内され、朔はギルドの奥へ進む。

 通路を抜けると、そこには円形の訓練場が広がっていた。

 既に数人の冒険者が集まっており、新人の試験を面白がって見にきているようであった。


「では、実技試験を始める。」


 受付嬢の隣にいた大柄な男が前へ出る。

 片目に傷のある、いかにも歴戦の冒険者だった。

 彼の胸元にはBと書かれたバッジがついており、それは組織内の階級を示す証だとフィンが言った。

 依頼の危険度、実力、功績。

 それらを加味して与えられるものらしい。


「最低ランクのEから始まり、D、C、B、Aと上がっていき最高がSです。よくSが災害級で、Aが化け物級だと言われています。」

 建物に着く前、フィンが言っていた言葉が思い出された。


 Bランクともなれば一人前どころか街の主戦力であり、周囲の冒険者たちが静まり返っているのも、納得だった。


「試験官のバルだ」


 男は木剣を肩に担ぎながら、朔の分を差し出した。

 その姿は立っているだけなのに、異様な重圧感があった。


「試験の内容は簡単だ。俺に一撃加えられたら合格。」


 周囲からどっと笑いが起こる。


「おいおい、公開処刑だろ」

「いつになっても合格できないぞ」


 朔は無言だった。

 バルは自然体で立っているが、隙がない。

 喉。心臓。目。

 人間なら無意識に生まれる隙が、一切存在しなかった。

 ――強いな。

 朔は静かに目を細め、木剣を受け取る。


「来い」


 バルが木剣を軽く構えた瞬間、重い踏み込みと共に剣が振り下ろされた。

 振り下ろされた木剣が、驚くほど軽く感じた。


 その瞬間、朔は違和感を抱いた。

 初めて握るにも関わらず、その木剣は彼の体に妙に馴染んでいた。

 踏み込み方や、重心の移動、攻撃のいなし方。

 まるで昔から戦い方を知っているように、自然と体が動く。

 ――なんだこれ


「その程度か……?」


 挑発するようにバルが笑う。

 朔は深呼吸をし、構えた。

 次の瞬間。

 地面を踏み込んだ音と同時に、朔の姿が消えた。


「……は?」


 バルの目が見開かれる。

 木剣が喉元で止まっていた。

 あと数センチ踏み込めば、喉を突ける位置。


 訓練場が静まり返った。

 朔自身も、理解できなかった。

 ただ隙を見つけた瞬間、身体が勝手に動いていた。

 どうして喉を狙ったのか自分でも分からなかった。


 バルの喉がゴクリとなる。

 木剣越しに合った朔の目には、一切の躊躇はない。

 まるで本当に殺すつもりだったかのような目。

 その瞬間、バルの背筋を冷たいものが流れた。

 これは新人などではない。

 何人も殺してきた目だ。

 彼が戦場で会った猛者たちの目。


 周囲の冒険者たちも息を呑んでいた。

 先ほどまでの軽薄な笑い声は消え失せ、代わりに広がっているのは困惑と警戒だった。


 朔は自分の胸が高鳴っているのを感じた。

 久しぶりに少しだけ生きている気がしていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ