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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第17話 マリナス共和国12




マリナス北街道・夕方


荒れる風が吹きつけ、街灯の火がちらつく。

遠くの港には黒い煙が揺らめき、鐘の音が鳴り続けていた。



スカイとエリアスは、治安維持組織の部隊と共に馬車を連ね、リュミナス号の方角へ急いでいた。

だが、途中から通信も伝令も途絶え、




あの巨大な船の安否はまったく分からないままだ。


エリアスは不安そうに、


「……あの赤い信号弾、もしかしたら……。

ねぇクライム、本当に彼らは無事なの……!?」





スカイは歯を噛みながら、


「分からん……だが、こちらも手こずらされたな。

後の50人をなんとか無力化できたが、代わりに大型船1隻とドックの機材一部の破壊を許してしまった。


 ――焦っても今は判断を誤る。」




その時だった。

前方の街路で、必死に駆けてくる数人の影。街灯の下に現れたのは、



リュミナス号で警備をしていたレニールの仲間――数名だった。

その先頭、アドルと呼ばれる若者が息を切らして叫ぶ。


「クライムさんっ!良かった。ここにいましたか!!」



「お前たちは……レニールの仲間か?」



「はい! リュミナス号が……!

あれっきり、海賊どもに完全に占拠されちまいました!」



エリアスは動揺して、はっと口を押える。


「そんな……レニールたちは!? ララは!?」



アドルは苦しい息のまま


「粛清官って名乗る怪物みてぇな奴がララ嬢を捕まえて、首相様たちは全員捕縛……。

あの船は今、完全に奴らの手の中で……。」



治安部将校も顔を青ざめさせる。




マリナス大使館 作戦会議室


ほどなく全員は大使館に戻り、

将校、護衛官、職員たちが大使館に呼び出され、リュミナス号の現状を聞いて叫び声のようなざわめきに包まれた。




治安維持部隊長は、


「……つまり、リュミナス号が敵の旗を上げたのか!?

 首相閣下とレオナルド議員ごと奪われたと!?」



アドルはうなずく、

「えぇ……! それも爆弾を抱えたまま、

今は推進修理中ですがそれが終わったら、

半壊したドックに突っ込むつもりなんです!」



室内に緊張が走る。

絶望の表情が広がる中、スカイは片手を上げて空気を押さえた。


レニールの仲間たちの報告が終わると、

静寂のあとに、あらゆる感情が一気に溢れた。


治安維持部隊長は拳を震わせながら、


「クライム殿……首相閣下、そしてレオナルド議員が捕らえられているとあらば、この国は血の海に沈みます。

……どうか、我らに救出のご協力を!」



スカイは黙ってその言葉を受け止める。

彼の隣では、エリアスが拳を握りしめていた。


「クライム……あの人たちは私たちの仲間よ。

 マリナスの未来を信じて戦ってきた人たちなの。

 見捨てられない……お願い、救いに行かせて。」


レニールの仲間のアドルが一歩前に出て、

声を震わせながら頭を下げる。


「レニールさんの親父さんだって、

ララ嬢だって……俺たちにとって家族みたいなもんです。

一度雇い主に拾ってもらった恩がある。

あの人たちを――今度は俺たちが拾い返す番だ!」



他の仲間も口々に叫ぶ。


「俺たち海の連中は、恩を捨てねぇ!」


「クライムさんッ、頼む! 行かせてくれ!!」



そして、


治安維持部の兵士までが声をあげた。若い兵士は、


「自分たちも動きます!

市民を守るためだけじゃありません、

あの船に乗る政治家たちは、この国の希望なんです!」



作戦室の空気が揺れ、

それまで沈黙を保っていたスカイがゆっくりと顔を上げた。蝋燭の光が彼の瞳に反射する。


スカイは低い声で、


「……奴らは人殺しを躊躇わない。

君たち、覚悟はあるか。」



アドルが真っ直ぐスカイを見返す。


「あります。この国を燃やさせたくない。

レニールさんが、まだ諦めてないから……

俺たちも諦めない!」



スカイは息をひとつ吐き、静かに視線を巡らせた。



「……分かった。一つ聞きたい。

今、リュミナス号は動いているのか?」



「いえ、まだです。後方の推進機関がやられてて……。

整備が終わらない限りは、動けやしません。

――あの船は、今ならまだ止まってます!」



スカイの目が一気に鋭光を帯びる。



「それなら、まだ間に合う。」



「スカイ?」



スカイは周りに言った。




「今集められる全戦力を――“ドック”に集めろ。

 マリナス中のSP、哨戒部隊、そして志願兵もだ。」


室内の全員が息を飲む。治安維持部隊長が息をのんで、



「全戦力を……!? 一体何を――」




スカイは説明した。


「敵は、リュミナス号を“触媒”にしてマリナスを破壊する気だ。奴らの船が動けばドックが灰になる。

だが裏を返せば――奴らはまだ“動くまでは守りに回る”。」


「つまり、その隙に……?」


「あぁ、ドックで奴らを引きつける。

大多数をドックに引き揉む隙を見て、



――レニールの仲間たちが船に潜入して彼らを解放する。」



室内の視線が一斉にスカイに向いた。

無謀ともいえる案。だが、その目に迷いはなかった。



治安維持隊長が確認した。


「……成功の見込みは?」




「ゼロではない。他に方法があるなら言ってくれ。」




短い沈黙。やがて、


誰からともなく呼応の声が上がる。


エリアスは静かに頷き、


「やりましょう。いま動けるのは、私たちだけです。」


アドルは拳を握って、


「レニールさん達のためにも、俺たち海の男がやらなきゃ!」



治安維持隊長も頷く。


「よし……! 総員配置! 志願兵に召集令を出せ!」


号令が響き、兵たちが一斉に駆け出していく。スカイは窓の外、黒煙が遠くで揺らぐ港を見た。


スカイは小さく呟く。


「……レニール、持ちこたえろ。

 お前の仲間は、もう動き出してる。」


エリアスが隣で静かに背を伸ばし、

いつもの笑みを無理に作る。


「彼らにとってあなたは“天敵”よ。

もう一度行きましょうか。

今度こそ、この国を終わらせないために。」


スカイはエリアスの手を握った。


「あぁ。――マリナスを取り返す。」



絶望の報せを受けてなお、再び立ち上がる者たち。

それぞれの誓いが、ひとつの意志へと重なっていく。



近づく決戦――リュミナス奪還作戦、開始まであとわずか。



マリナス港沖 リュミナス号


夜。海は墨のように黒く、波間で船体の灯が淡く揺れている。


リュミナス号の甲板上では、重苦しい風だけが吹いていた。海賊たちは操舵室を制圧し、

船首には粛清官、その側には布教担当が立っていた。


布教担当は満足げに、

「いやぁ〜、いい滑り出しですねぇ。

お披露目からまさか“終焉”に変わるとは、

これだから人生はたまりませんなぁ。」



粛清官は冷ややかに言い捨てる。


「口を閉じていろ。――ドックの様子を確認する。」



舵が切られ、リュミナス号が暗闇の海を滑る。




囚われたガドリン達は甲板へ集められ、

ララは操舵室奥の鉄牢に監禁された。



レニールは縄に縛られながら、胸を締め付けられる思いでその扉を見つめた。



半壊したドック目前にさしかかり、

リュミナス号の明かりが、無人の港を照らす。

建物は沈黙し、波の音以外何も聞こえない。



布教担当は首を傾げ、


「あんらぁ〜? これは妙ですねぇ。

ドックは、もうとっくに吹っ飛んでると思ってやしたが。」




粛清官が目を細める。


「……静かすぎる。“天敵”を片づけて完全破壊したなら、お前のところに何かしら報があるはずだろう。」



布教担当は笑いながら、


「えぇまぁ、普通ならねぇ。

……これは、“天敵”殿にやられたかも?」




その軽口の裏で、粛清官の眼光が鋭くなった。


(……人の気配がする。

それも、あまりにも多い……まさか。)



沈黙。やがて、粛清官は冷笑を浮かべて言った。


「……語り部。お前はこの船に残れ。

最低限の人員を置く。残りは、俺と共にドックを確認する。」



布教担当は肩をすくめながら、


「へぇ? そんなにですかい?

 まぁウチは楽で結構ですけどねぇ。」



粛清官は薄く笑う。


「フッ……我らが神は、最後の“試練”を用意したらしい。」



布教担当は煙草を咥えながら、


「はぁ? まぁ何のこっちゃですが……

まぁ、お気をつけて、旦那。」



約三十五名の海賊と粛清官が、

ランプを手にドック内部へと降りた。


甲板に残されたレニールが呟く。


「……何だ、急に。奴らの大半が降りていった。

 もしかして、チャンスか……?」 



レオナルドは苦痛に耐えながら、


「何を言っている、馬鹿息子。俺たちは武器も無い。

軽はずみに動けば、船ごと吹き飛ぶぞ。」



ガドリンは汗を滲ませ、


「それにララが監禁されている。今は耐えるんだ……。」




レニールは歯を食いしばり、

拳の跡が手首に滲む。心の中で、



(……すまねぇ、ララ。もう少しだけ……

堪えてくれ。クライム――頼む、

もうあんたしかいねぇ。)




半壊したドック内部粛清官が先頭に立ち、


ランプの光が静かな闇を照らす。



焦げた船体、崩れた梁。だが、異様に整然としていた。粛清官は指示した。



「……明かりを灯せ。」



部下たちが鯨油ランプを掲げる。

やがて朧げな光が空間全体を照らし出し、

破壊された残骸の影が広がる。



「本当に……誰もいません。」



「……もう一隻を確認しろ。」


隊の一人が火を翳した、その瞬間


――カッ――!!!



強烈な光が彼らを真上から照らし出した。


部下たちは目が眩む。


「うわっ!?」「目が……!!」



粛清官だけが即座に反応し、両腕を交差して防御姿勢を取る。


(魔法……いや、照明魔術だと?

 今の我ら側で魔法を扱える者など――

いない! やはり……!)



粛清官が叫ぶ。


「全員、武器を抜け! 敵だ!!」



金属音が一斉に鳴り、

その静寂を切り裂くように――乾いた拍手の音が響いた。


パチ。パチ。パチ――。



上部通路から声を響かせ



「さすがだな、粛清官。

マリナスであの“数値教テロ”を主導しただけのことはある。」


光に照らされた通路の上、

スカイ・エニーフィートが立っていた。


その隣には治安維持隊の魔法兵。

粛清官の顔に、笑みが走る。



「……そうか。貴様が……。」



スカイは冷ややかに、



「そうだ。 そしてアンタがやり残したように、

俺も“神の問い”で全員を叩き潰せなかったこともある。

――今日、ケリをつけようじゃないか。」



スカイが右手を上げた。その合図と同時に、影の中から一斉に姿が現れる。




マリナス治安維持部隊、SP、哨戒隊、

そして志願して集まった民兵たち。怒涛のようにドックを包囲した。



銃口と剣が、円陣の中で光った。



粛清官は天を仰ぎ、

震える腕を大きく広げて笑う。



「待ちわびたぞ――我が“天敵”ッ!!

 スカイ・エニーフィートォォォォォッ!!!」



その咆哮が、黒い海と夜空を震わせた。



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