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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
21/51

第18話 マリナス共和国13



夜、マリナス沖 リュミナス号周辺



海上は闇に沈み、月光すら雲に隠れていた。


遠くではドックから上がる火の粉が小さく見える。


エリアスは小高い岩の上から海を覗き込み、

掌に小さな魔法陣を描く。




瞳に青い光が宿った。

エリアスは息を整えながら、



「蛍光魔法……それと望遠魔法、二重がけ……。

実戦でここまで使うのは初めてだけど……

いける……!」



魔力が瞳に集まり、暗闇の中でも

海面を滑る人影の群れがはっきり見える――

粛清官たちだ。





エリアスは手を上げ、待機していたレニールの仲間に合図を送った。



アドルは小声で、


「見えた……あいつら、全員ドックへ向かってる。

よし、餌に食いついたぞ。絶対に成功させるんだ!」


中間たちは頷き、エリアスを小船へ乗せる。


その数、二隻。


夜と潮風が音を奪い、彼らは黒い海を滑るように進んでいった。


灯り一つないこの闇では、誰にも気づかれない。



リュミナス号の甲板では、

風の音と、時折鳴る鉄が軋む音だけが響く。


黒旗がたなびき、誰もが沈んでいた。


甲板では、レニールたち捕らえられた乗組員が

暗い表情で横たわっていた。



焦りと無力感。

仲間を励ます声すら枯れていた。



レニールは焦っていた。


(クソっ……何もできねぇのか。

ララが……あんな連中の手に……

俺は何してる……。)



歯を噛みしめる。




その瞬間、カン、と何かが船べりに当たった音がした。



レニールは目を細めて、


(……今の音、何だ?)



船の端の陰を凝視すると、

闇に紛れた何かがそこにぶら下がっていた。


続けざまに――タン、タン、タン。

軽快な足音が甲板下から上がってくる。



その正体を知ってレニールは驚愕した。


(あっ……アドル!? 何やってんだ、あいつっ!!)


思わず声が漏れそうになるのを、必死に飲み込む。




黒いローブ姿のアドルが、彼と目が合うと

ハンドサインを送る。



(“周りを見ろ”)



レニールが視線を巡らせると、船の両端の影

に、仲間たちが潜伏しているのが見えた。




レニールはニヤリと笑った。


(まったく無茶しやがる……でも、やるなら今しかねぇな。)



レニールは頷き返し、静かに息を整える。



アドルが開いた手を閉じて見せる——



(声を出せ)




(“注意を逸らせ”ってか……分かった!)


レニールは両隣の二人へ身を寄せた。


父レオナルドと、首相ガドリン。


レニールは小声で、


「親父、ガドリン首相……助けが来た。

 危ないけど、隙を見て動いてくれ。」




レオナルドは眉をひそめる


「なっ、何だと?」



ガドリンも焦る。


「馬鹿な……!」




しかし、レニールは小声で言い切った。


「信じてくれ。――もう、動く時だ。」





そして大きく息を吸い込む。

レニールは怒鳴り声を上げた。



「オイっ!! テメェら、いつまで俺たちをここに放っとく気だ!?

ララに指一本でも触れたらタダじゃすまねぇぞッ!!」


一瞬、周りが凍りつく。


人質たちはギョッとして顔を上げた。


海賊たちが苛立ち、レニールに詰め寄る。



「黙れッ! その減らず口、今すぐ引き裂いてやろうか!」



だがレニールは怯まない。

むしろ挑発するように顔をあげ、唇を歪めた。



「やってみろやッ!覚悟しとけよ……!

動けるようになったら、倍にして返してやるからなぁッ!!」




怒声と同時に、海賊の蹴りが飛ぶ。




レニールは耐え、歯を食いしばりながら心の中で叫ぶ。


(……まだだ――もう少し……!)



そして――空を裂く閃光。


カッ!カッ!カッ!


五、六発の光弾が船底から打ち上がり、

まるで照明弾のように甲板全体を白く照らした。



「うわっ! なんだっ!?」


「眩しいっ!!」




その隙に、レニールたちは動いた。

立ち上がり、体当たりで敵をはじき飛ばす。

ロープが切れ、金属音と怒号が入り乱れる。



そこへ影が跳び込んだ。レニールの仲間たちだ。



「突入っ!!」



黒ローブの影が一気になだれ込み、

海賊たちが次々に倒されていく。



眩しさで目が効かない敵に、

わざと急所を外した打撃が決まる。

やがて光が収まり、静寂――。



甲板には倒れた海賊と、解放された仲間たちの姿だけが残った。



レニールは中間の頭を荒く撫でた。


「お前らっ……やりやがったな!最高だぜ!」


中間たちが涙ぐみながら笑う。




アドルは息を切らしながら、


「マジで……レニールさんが無事で良かったッ!

ララ嬢が人質にされたときゃ、どうしようかと……!」




その言葉に、レニールの顔が瞬時に強張る。


「……そうだ、ララだ! まだ助け出してねぇっ!!」



しかしガドリン焦って、


「だが今動けば、爆弾が――」




アドルは手を上げて制す、



「大丈夫です、首相。

今は奴らにとって“爆発できない”タイミングなんです。」



レオナルドは怪訝な顔をする。


「……どういうことだ?」



「クライムさんが言ってました。


“語り部”――あの布教担当ってやつは、

命が惜しいようだ。

自分が船にいる限り、起爆なんて絶対にしない。


つまり、俺たちがいま暴れても奴はスイッチを押せないってことです!」



説明を聞き、三人が同時に視線を交わす。

そしてレニールが拳を握り、

低く笑った。



「へっ……そういうことなら、御礼参りだな。

 ――行くぜ、反撃開始だッ!」


(待たせたな、ララ。……今、助ける!)






リュミナス号・操舵室



どんよりとした夜の空気。


船体の振動に合わせて窓ガラスがカタカタと震えている。


その片隅、操舵席の横で――

布教担当は見事な“くの字”姿勢で寝ていた。


彼は寝言をつぶやく。



「……うへへ、神の導きは……まどろみの中に……むにゃ……。」


そのすぐ隣、鉄格子付きの簡易牢に押し込まれているララがあきれ顔でため息をつく。



(……よく、スヤスヤ眠れるわね……。)




次の瞬間――甲板の方からドタドタと人の走る音、


そして、外からレニールの甲高い声が響いた。



「オイッ! テメェらっ! ララに指一本でも触れたらぶちのめすぞッ!!」




その声にララは反応した。


(レニール!!

良かった、まだ無事だったんだ!!)





布教担当はレニールの大声にビクッと起き上がり


「なっ! なんざんしょ!? 夢じゃなさそうでさぁ!?」




彼は寝ぼけ眼のまま窓にすり寄る。




「なんか……下の連中が騒いで……

んん?、なんか光って――」



カッ!!!目の前が真っ白に弾け飛ぶ。



「ぎゃあっっ!? ちょ、ちょっと!? 何なのさ!? 

ウチの朝はもっと穏やかなはずなのにィィィ!」



ララは眉をひそめ、


「んんっ……

今“夜”なんですけど。」



布教担当は目をこすり、


「えぇ? 夜⁉ 光る朝⁉ いや、世も末ですなぁ!」




操舵室外からは次々と悲鳴と怒号が響く。

部下の叫びがこだまする。



「ぐあぁぁっ!!」


「うわぁっ、目がぁっ!!」



レニール達が反撃を始めると布教担当は青ざめた。


「ちょ、ちょっと……これ完全に反乱じゃないっすか!? 

ウチ、完全に寝過ごしってやつじゃ……!!」



いそいそと座席下をまさぐり、

取り出したのは黒光りする起爆装置。



ララはそれを見てギョッとする。


「それはっ!?ま、まさかっ!?

ダメっ!!お願い、バカなことはやめて!!」





布教担当はガタガタ震えながら、


「こ、こうなりゃ……この美の象徴たるウチと共に船も……いや、あれ?

今これ押したら……ウチ死ぬよね!?」




装置のスイッチ上で指が止まる。

顔がどんどん青ざめていく。




「だだだっ、駄目だ! 巻き添え確定じゃないすか!?

なんでこんなトラップじみた仕組みにしたのよウチィィィ!!」




ララは腕を組み、


「自業自得では……?」




布教担当は涙目でララを見て、


「だ、だってねぇお嬢さん! 

生きるってまだ諦めきれないじゃないですか!

お肌の手入れも完璧だったんですのにね!?」





ララはジト目で冷たい一言。


「……顔だけ綺麗でも、心が汚いです。」





布教担当は心に深刻なダメージを負った!!


「ぐはっ……ッ! 

そんな容赦無い言葉を憶め無く……

言葉の刃が刺さり申した!」



ガンッ!!!突如、操舵室の扉が蹴破られる。



布教担当は悲鳴をあげる。


「えぇえええ!? もう!?

は、早ぇぇぇッ!? 展開早すぎやしません!?」



部屋のの中に飛び込んだのは――



手に戦闘棒を握るレニールと、

後ろにガドリンとレオナルド。


「ララァッ!!! 無事かッ!!」



ララは涙ぐみ笑顔で、


「レニールっ!!」





布教担当は壁際へ逃げるように退きながら、

慌てて杖を突き出すも、手がブルブル震えている。


「あっ、待って待って! ウチ降伏します降伏しますから! 物理的接触ナシで和――」



レニールは彼を睨みつけ、


「もう遅ぇよ。

それとな、――お前のその喋り方、最初に

聞いた時から全然気に食わなかったんだよ。


その減らず口、永久に閉じとけッ!!」



ドゴォッッ!!


レニールの右拳がすさまじい勢いで直撃した



布教担当の顔がバネ仕掛けの人形のように後ろへ跳ね、


「ミ」と「ョ」の中間みたいな断末魔を残して――


「みょへぁっ!?」


ドサァッ。歯が十数本宙を舞い、

きらきらと月光に反射しながら散った。


床に倒れ込んだ布教担当の顔は、

まるで壊れた楽器のようにぐにゃりと歪み、

そのまま気絶。




ララは目を細め、


「……人って、あんな綺麗に静まるんですね。」



レニールは息を吐きながら苦笑。


「まぁ、ようやく耳障りな声が静かになってくれて助かるけどな。」



レニールは棍で格子牢を叩き壊し、

ララへと駆け寄った。ララは目を潤ませながら、

その胸へ思いきり飛び込む。



「レニールっ……怖かった……!」



「もう大丈夫だ――ララ。」




彼女の背を抱きしめる手が震えている。

だがその瞳には、闘志が灯っていた。



「クライムの作戦、見事だったな……。

今度は、俺たちの番だ。」



ガドリンは剣を構え、


「急ごう。まずはこの爆弾を解除するんだ。」




レオナルドは、


「この船を取り戻して、終わらせるぞ。」




レニールは一度だけ布教担当を見下ろし、

肩を竦めた。



「……悪いな。静かに反省でもしてな。」




そしてララの手を取り、

甲板へと向かって走り出す。




船内に漂う血と油の匂い。

リュミナス号の乗組員たちの焦った足音が、床を震わせている。

甲板には未だ戦いの余韻が残っていた。



ガドリン首相は操舵席に立ち、声を張り上げた。


「全乗員、爆弾解除に取りかかれ!

配置を分けろ、少しでも生き残る確率を上げるんだ!」




その厳しい声に、船員たちが


「了解!」



と応じて散っていく。




しかし、その緊迫の中で――レオナルドが呻きながら、


「……ぐっ……!」



彼がふらつき、右脇腹に手をつきながら両膝を床についた。



「親父っ!?」


「――レオナルド議員!?」



レニールが駆け寄ると、父の右脇腹から血がにじみ出している。



皮膚の下では、あの粛清官との激戦の傷口が再び開いていた。



ガドリンは慌てて、


「このバカッ! 血を流しすぎだ!!」







レオナルドは息を吐きながら、


「……我ながら無茶な事をした。

……見事に傷が開いた。」




ララがレオナルドに駆け寄り、膝をつく。



レニールはララに、


「ララ、医療の心得があったよな? 悪い、親父を頼む!」



ララは頷いて、

「わかったわ。でも、あなたはどうするの?」


レニールは右拳を左手で受け止め、

静かに答えた。



「クライムに世話になった恩がある。

今度はオレが返す番だ。

……オレもドックへ行って、加勢してくる。」




ララの表情が強張る。

ララは顔を上げて、



「待って! いくらなんでも危険よっ!!

レオナルド議員でさえ勝てなかった相手なのに、行ったら――レニールが……!」



「ララ……。」


レニールは言葉が詰まる。





その沈黙を破ったのは、

操舵室の扉を開く音だった。


エリアスは入ってきながら、

「ララさん、無事っ!?」





ララはエリアスを見て安堵の笑顔を見せ、



「エイラさん!! 良かった……!」



エリアスはララの無事な姿に胸に手を当て、


「はぁ……無事でよかった。


人質になったって聞いたから、心配してたの。」



その会話を聞いていたレオナルドが苦笑する。


だが、ララはすぐにハッとして声をあげた。



「エイラさん! お願い、レニールを止めて!

クライムさんに加勢しようとしてるの!

相手はあの……“粛清官”っていう、恐ろしい人なのよ!!」



その言葉に、エリアスの瞳が少し揺れた。


「レニールさん……あなた……。」




レニールは首を横に振った。


「止めないでくれ。

オレはクライムにも、あなたにも借りができた。

今ここで返さないと気がすまねぇ。

……それに、あいつは今も戦ってる。

“クライム”はあんたにとっても大切な人なんだろ?――“エリアス陛下”。」





エリアスは少し驚き、そして頷いた。


「……分かりました。

どうか、クライムを……お願いします。」



「エイラさん!?」




エリアスは静かにララを見て、


「ごめんなさい、ララさん。

でも、あなたにとってレニールさんが大切なように、

私にとって、クライムは何よりも大切なの。

そのクライムを助けてくれるというのなら――それほど心強いことはないわ。」




ララの目から涙がこぼれた。


「レニール……お願い、行かないで。

私にはあなたは、あなたが……!」



彼女の声が震え、息が詰まる。




レニールは困ったように笑い、

ララの父であるガドリンに視線を送った。



「ガドリン首相……すみません。

今回だけは、見逃してください。」



ガドリンは目を丸くし、


「……何を――」



その言葉を遮るように、

レニールはララの両肩を掴み、

ゆっくりと顔を近づけた。



「れ……っ――!?」



唇が重なる。




時間が止まったような静寂。




エリアスとガドリン、そしてララ本人までも

が呆気に取られて固まっていた。


一拍ののち、レニールは口を離し、

ララに向かって言った。




「オレは死なない。

だって、まだ夢を叶えてないからな。

――大型船を手に入れて、ララをオレの嫁に迎えて、

一緒に世界を見に行く。それがオレの夢だ。」



ララは涙をこぼしながら、



「……レニール……。」




レニールは立ち上がり、


「だから待っててくれ。

オレはそのために、絶対帰ってくる。」



彼はガドリンに向き直る。



「……すみません。

ここは首相にお願いします。ララも、親父も――頼みます。」




ガドリンは深く息を吐き、苦笑混じりに呟いた。


「まったく……その頑固さ、どこかで見たと思えば――

やれやれ、誰かさんにそっくりだ。」




そして真剣な目つきで、


「……だがな、レニール。

娘へのあの“対応”は、さすがに見過ごせん。」



「えっ……?」



ガドリンはニヤリと笑い、


「許してほしかったら――

必ず無事に帰ってこい。それが条件だ!」



レニールは一瞬息を呑み、

すぐに大きく頷いた。



「――はいっ!!!」




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