【194】クエルノ辺境伯領
一晩ぐっすり。
ほぼほぼ気絶だったので爆睡ではあるものの、ずっと寝返り打たずに寝ていたようなので、体がバキバキ。うぅん、旅はまだ始まったばかりなのに、我ながらこの体、脆すぎる。弱い。不便。
しかしながら、生まれ持った体は交換など出来ないため、頑張ってメンテナンスして誤魔化すしかないんだ。
体力があって心身ともに丈夫で優しい、面倒見の良いニーナとアルバンが居てくれるからかなりマシな方であろう。
起きた瞬間からニーナに伴われて宿のお風呂で体をほぐし、ミント水飲んで水分補給。馬車に乗せてきた荷物をラクダに載せ替えて、ついでに紛失物などないかチェック。私とアルバンもここで衣装チェンジ。
「砂漠では通気性の良い服の方が適しているし、いざという時のために身分が高いことがひと目で分からない方が良いから、少し地味な格好にしておこうね」
と、いう訳で、薄めの生地のゆったりしたズボンに布の靴。同じくゆったりしたシャツに着替えるなどする。庶民の、というか、ジプシー娘風衣装である。腰には刺繍入れたちょっと豪華めな帯とシャトレーヌを装備。上から、表は白で裏地が黒のフード付きマント被ってすっぽり。でもマント脱げばそれなりに身分がある程度察して貰える感じである。腰から銀細工を提げるのは砂漠の集落や村でも身分アピールになるため、明確に辺境伯夫人だと悟られはしないが、手を出したら後々どっかとトラブルになりそうだぞ、と判断して貰えるぐらいの塩梅が良いとのこと。
アルバンは上下共にオフホワイトで統一。同じようなゆったりしたズボンとシャツで、マントは同じ仕様。私たち夫婦はどっちも髪色で目立ちまくってしまうし、強い日差しで火傷しないようフードは必須。
因みに、他の方々も同じようなフード付きのマントを使用しているが、内張が黒曜ツルバミ染めなのは私とアルバンだけである。
「ツェツィーリア、そろそろ出発の準備が完了するけど、体調はどうかな?」
「良くはないですが、昨日よりは良いです」
「砂漠は乾燥しているから……水分と塩分をしっかり摂って、日陰で安静にしていようね。僕が魔法で少し、君の周りの空気を冷やすけど……暑かったり寒かったりしたらすぐに教えてね」
「はい。ありがとうございます」
夫が魔力に恵まれまくった全属性持ちなので、灼熱の砂漠でも輿の中を涼しくして貰える。ありがたい限りである。
そんな感じで、ニーナとミトンとセットで輿に乗せられて出発となったのだが、なんとアルバンが私のラクダを引いてくれるという展開に。
「僕が乗れるラクダが居ないんだ。それに、この体格だと……護衛の従者に見せかけた方が自然だし。何より、気温の調整がそばに居た方が楽だからね」
「疲れてしまいませんか?」
「最近は僕も運動不足だし、一日歩くぐらいなら大丈夫だよ。ローブの中は冷やすしね」
それじゃ、おやすみ〜。
アルバンがニコッと微笑んで、輿の幕を下ろしてくれる。薄暗くて涼しくて快適。ゆらゆら揺れるし、狭いけど……ミトンが濃厚な眠気を放っているお陰で、すぐに眠たくなってしまった。
「ん……ニーナは眠らないんですか?」
「ああ。まだ眠たくないし、ニーナはツェツィーリアさまの護衛だから」
「そうですか。ニーナも、無理は、しないように……。」
ぐぅ。
疲れやすいのはデメリットだが、最近気付いた。
私は案外どこでも眠れる。これはかなり大きなメリット。恐らく実家で遊び暮らしていた頃、ボートの上でお昼寝したりしてたので、屋外でも揺れていても風を感じても熟睡とまではいかないが、居眠り出来るスキルが身に付いたのであろう。間違いなく淑女失格だが、しかし今、役に立っているので結果オーライである。やったぜ。
そこから寝倒して、起きた時にはもう夕暮れ。
「ツェツィーリア、街に着いたよ」
「え、ぇえ、と……は、早くない、ですか?」
「うん。ちょっとズルしたからね」
「ズル……? え、ま、まさか……?」
「全員、飛行魔法で飛ばしてショートカットしたんだ」
「おぉう、これ、良いんですか?」
「良くはないね。前もって準備してくれていたのを前倒しにしちゃったから……手配していた宿や村には連絡はしたけど……ここの領主には何か埋め合わせをしないといけないだろうね。予定よりずっと早く到着してしまったから」
「ぁ、ご、ご挨拶に……? でしたら、私も行きます」
寝起きでボサボサの頭を急遽、ニーナに頼んで整えてもらい、血色を良く見せるために口紅引いて、よれた服直して、アルバンのエスコートで歩く。
輿から出ると、もう立派な街だった。
砂色の土の煉瓦で作られた街並みは玩具みたいで可愛い家々が立ち並ぶ。が、しかし、人の数が多い。もう夜だというのに道には松明で明るく照らされ、出店がたくさん出ている。老若男女で賑わっており、活気があった。
「こ、ここは……?」
「ここはね、クエルノ辺境伯領。その最東端の都市だよ。もうベスティア王国に入ってる」
「つまり、ベスティア王国における対クライノートのために構築された街と領地ですね?」
「その通り。ベスティアにおける最重要地点だよ。そこに僕のような白銀の辺境伯が来るんだから、まず挨拶は必須だね。敵対する意思がないことを明確に示さないといけない。それに……今回のダンジョン調査チームで、最も身分が高いのは僕とツェツィーリアだからね。体調が悪いところ申し訳ないんだけど、そのために起こしたんだ」
「分かりました。私も、失礼がないよう、気を引き締めます」
「うん。ありがとう」
ひとまず、調査チームの方々には一旦待機して貰い、アルバンと私とニーナだけで先にクエルノ辺境伯にご挨拶するという流れに話が纏まっているらしい。
クライノート側の外交官さんと、ベスティア側の外交官さんが既に情報共有と伝達、それに挨拶するための場は整えてくれているらしく、指定された場所に行くだけで良いとのこと。
その場所というのは、クエルノ辺境伯家の所有するお屋敷の一つであり、私たちはそこに向かっているのであった。
到着するなりスムーズに中へとご案内。
クエルノ辺境伯家のお屋敷は、他の家々と同じように土を固めた高い壁に覆われていたが、中はかなり開けた風通しの良い造りで、噴水のある立派な中庭もゴージャスな仕様であった。
その中庭を一望できる部屋に通されると、そこでは既に、クエルノ辺境伯と思われる濃い茶色の髪と髭を蓄えた、ダンディな紳士が待ち構えていた。両国の外交官も既に着席しており、あとは私たち待ちだったらしい。
入室と同時にフードを取って、アルバンが挨拶をする。
「遅くなりました。クエルノ辺境伯、お会いできて光栄です」
「貴方が……。」
すぐ、クエルノ辺境伯の方もサッと立ち上がってこっちに来てくれる。うぅん、この方も仕事の出来る人の気配がするぜ。
いやまあ、国防の要である辺境伯が無能である訳もないのだけれども。
「初めまして。アルバン・フリートホーフと申します。こちらは妻のツェツィーリア」
すかさず私もカーテシー。寝起きでよろめきそうだがグッと我慢だ。なんとか失礼がないレベルでやれた。フード取るのちょっと遅れたけど。
「お初にお目にかかります。支度が遅れましたこと、お詫び申し上げます」
「失礼。妻が慣れぬ旅で体調を崩したもので……到着を急いだのです」
「なるほど……して、それはどのような手段で?」
あっ、なんか、やっぱり凄く警戒されている。
どんな魔法を使ったら一週間の旅程を一日に短縮出来んだよと言わんばかりの視線と硬めの態度。
まあしょうがない。
これは全面的にクエルノ辺境伯の方が正しい。だって普通は無理だし。
「風魔法で空路を使いました」
「いやはや……流石は白銀、といったところですかな?」
ああっ、これは完全に「示威行為いきなりかましてんじゃねーよ」の雰囲気。
違うんです。誤解なんです。確かにそう捉えられても仕方ないけど、でもアルバンは妻最優先男なのでそっちの意図しかないんです。悪気も敵対する意図もないんです。
だけど、やった内容的には完全にイキってる感じになってるのは事実。
ここは私が緩和するしかない。
「申し訳ございません、クエルノ辺境伯。夫は酷く心配性で……私が虚弱であるが故に、クライノートに残すのも不安なほどでして……。」
「ほう。それはそれは……失礼ながら、夫人は……。」
「妻は先天的な魔力欠乏症なのです。それ故に虚弱体質で……国の思惑が絡んだ結婚ですが、それでも、私によく連れ添ってくれます。最愛の妻です」
他意はないよ。
単にアルバンが極端な妻ラブ男なだけですよ、とアピールしたら、クエルノ辺境伯の警戒がちょっと緩んだ。が、同時に、やや呆れられた気配もしている。こいつら政略結婚の癖にバカップルかよ、という視線を、感じる……。
「ふむ。なるほど。事情は把握しました。ですが、少々……時期がよろしくない」
「予定を繰り上げてしまったことによる不便は承知の上ですが、何か問題が?」
「雨季が遅れているのです。故に、水不足で、この噴水も明日には止めるつもりでした。井戸も枯れる寸前ですな。もし、予定通りのご到着であれば……他の村々からおもてなしに充分な量の水を確保していたのですが」
うーん、明確な嫌味。
が、こう言われるのも仕方ない。だって、私の体調が悪いからというだけの理由で早く到着してしまったのだし、まだ準備整ってませんと言われてもそれは当然。しょうがない。
それに、この乾燥した砂漠と隣り合わせの領地で、雨季が遅れるというのは一大事であろう。フリートホーフ領の冬が早く春が遅かったりすれば……と考えると、他人事とは思えないし、よくよく見ると、クエルノ辺境伯の目の下にはうっすらクマが。領主として、領地が物凄く心配で忙しい時期に、よりにもよって国と国とで行う一大プロジェクトのため、他国から来るチームをおもてなしし、都市に受け入れなくてはならない。それはどれだけの負担だろう。
ああ、み、身につまされる……!
しかも、他国の辺境伯まで居るとあればその時点でブチギレて仕事を全部投げ出したくなるだろう。面倒臭すぎる。わかる。もし自分たちだったらと思うともう……!
クエルノ辺境伯、これ、普段からベスティアの王宮に無茶振りされまくってるんだろうな。
気の毒……!
「なるほど、それは……大変な時期だったようですね。それなら……お詫びを致しましょう。代わりに、三日ほどこちらに逗留したいのですが、構いませんか?」
「三日の逗留は問題ありません。しかし、フリートホーフ辺境伯、何を……?」
「この都市の規模は概ね把握しました。雨季の代用にはなりませんが、魔力を全て使えば都市一つ分の水は賄えるでしょう」
言うなり、アルバンが中庭に出る。
空を見上げて、そして、水魔法を駆使して水球を出現させる。人の頭ほどの大きさであったそれを目にして、クエルノ辺境伯は首を捻っていたが、その水球が見る間に大きくなるのを見て、息を呑んだのが側から見ていてわかった。
巨大化した水球は更に高度を上げ、更に体積を増やしてゆく。膨大な魔力の気配を肌で感じる。
恐らく、この都市全てを覆えるほどの量の真水であろう。
夜空を覆う水が、一気に弾けて降り注ぐ。
「うーん、やっぱり、難しいな」
アルバンは首を捻りつつ、フード被って、普通に歩いてこっちに戻ってくるが、クエルノ辺境伯は固まっている。両国の外交官のお二人も硬直。
「今のは……?」
「単なる水魔法と、風魔法の応用です。水を都市上部に発生させ、格子状にした風魔法で裁断。擬似的に雨を再現しました。本物の雨よりまばらではありますが、繰り返せば水量は確保可能でしょう。私の魔力量では真夜中まで断続的に降らせることは出来ますが、やはり不十分ですか?」
「いや……はは。本物の雨季が到来するまで凌ぐには充分です。それにしても……やはり、白銀というのは途方もないものですな」
「少しでも埋め合わせになれば良いのですが……ただ、夜半まで降らせるとなると、私の魔力も底を尽きる。回復のために三日ほど必要なので、屋根を貸して頂きたい」
「勿論です。して、フリートホーフ卿、酒は飲めますかな?」
土砂降りの雨を一晩降らせるので、忖度お願いします、というダイレクトな交渉により、クエルノ辺境伯は爆速で心を開いてくれた。
よ、よかった。
アルバンはもうこれ多分だけど、何言っても警戒されるし塩対応しかされないなら、開き直るしかないと判断したんだろうな。
要するに「なら本気で示威行為してやるよ、水不足なんだろ? オラっ、雨だよ!」とやったわけだ。
大規模魔法にしても限りなく無害だし、これでずぶ濡れになった人も多くはあるだろうが、水不足に悩まされているのであれば、領地の問題がひとつ解決したということなのでクエルノ辺境伯も悪い気はしないだろう。
少なくとも、アルバンは強い力を持った人間兵器ではあるものの、本人に敵対する意思はないし、なんなら友好的ですとアピールしているのだし。
「お付き合いしたいのは山々ですが、先に妻を休ませても?」
「案内役を寄越しましょう。隣は、夫人の侍女ですかな?」
「いえ、あれは護衛の女騎士です。お望みなら武装解除させますが」
「不要です。夫人の身を案じるのも無理のないことでしょう。離れを用意するので、その範囲でなら自由にしてください」
「ご厚情に感謝します」
雨降った途端にクエルノ辺境伯が超ご機嫌。
お屋敷のメイドさん達に案内して貰って、私とニーナは離れにあるゴージャスで風雅なお部屋にご案内。薄い青とグリーンの紗の天蓋が重ねられた、真っ白な広いベッドに倒れ込んでひと息。
どはぁ〜、疲れたぁ〜!
クエルノ辺境伯、やはし、切れ者の気配。そして多分だけど、自分と領地の損得最優先。優秀で真面目な辺境伯の気配がする。なんとか許して貰えて良かった。
そのままアルバンは夜中までクエルノ辺境伯と飲み会。
地元名産という強いお酒を振る舞われたらしいのだが、アルバンはザル通り越してワクなので、いくら飲んでもケロッとしている所でも気に入られたようである。
なんなら、どっちも気候は違うが辺境伯という立場なので、それぞれ当たり障りない範囲ではあるものの「辺境伯あるある」トークで場を繋いできたらしい。
「話してみたら、クエルノ辺境伯は凄くまともな領主だったよ」
とは、翌朝、宿泊する部屋に併設された小さめなお庭でフルーツ盛り沢山の朝食を摂っている時に聞いたアルバンの証言である。
ベスティアはまともな貴族が少ないという評判だったが……流石に辺境伯となればまともな人であるらしい。
「ただ、クエルノ卿の方が僕より大変かな。どうも、他の貴族の出来が悪すぎて、だいぶ皺寄せを食っているらしいからね」
「それは本当にお気の毒ですね」
「僕がまだ話が通じるってことで、単純に嬉しかったみたいだし、もう悪いようにはされないと思うよ」
「ええ。朝食の内容が……凄く豪華なので……それは感じていました」
唐辛子入りのソーセージがどっさり。ジャガイモとタマネギがふんだんに入ったオムレツがたっぷり。カリカリに焼いたパンに、それと合わせるためのオリーブオイルとトマトを合わせたソース。加えて、美しくお皿に並べられた、スライス済みの生ハム。
更にトドメとばかりに、飲み物はレチェ・メレンガータというもので、これは何ぞやというと、牛乳に卵白とシナモンとレモンピール加えて作ったフローズンドリンクである。夏なので、風魔法と水魔法使える人をわざわざ雇うか、氷室で貴重な氷を消費しなくては作れないのが氷菓子系なので、これは明確に歓迎されている。冷たくて甘くておいしい。
デザートにはオレンジ、ダークチェリー、メロンまでカットして出してくれるしで、もう至れり尽くせり。
おまけに、メイドさん達のお話だと、昨晩雨が降ったので、今日は昼から私たちのためにお風呂を支度してくれるらしい。
アルバンが擬似的に雨を降らせたというのもあって、全体的に……クエルノ辺境伯邸のメイドさん達が、やたら優しい。
「でも、アルバン様が回復に三日も掛かるなんて、珍しいですね?」
確か、火竜を倒した時も、一晩寝たら五割くらいは回復したと言っていたような気がするが、やはり五時間くらい雨を降らせるのはキツイのかも知れない。
「いや、本当はもう九割九分くらいは回復してるんだけど、ツェツィーリアを休ませたくって」
「あっ、ハイ。足手纏いで大変申し訳ございません」
「謝らないで。結果的に、クエルノ卿に恩を売ることが出来たし、友好と親善のためにもこれは大きなメリットだよ。ツェツィーリアは三日間ゆっくり休めるし、余りやり過ぎてもまた警戒されるからね。僕の魔力にも底があると認識されていた方が良い」
「ああ、戦略的にはそうですよね。アルバン様が強すぎても、疑心暗鬼になってしまうでしょうから」
「そうそう。それに、魔力を全部絞り出したら、不測の事態に対応できなくなっちゃうし、旅先では控えたいかな」
常に安全マージンを確保する。アルバンは慎重派。素晴らしい。用意周到。油断しない真面目な性格、本当にかっこいい。好き。
「それに……護衛の騎士とかは兎も角、研究チームも何人かこの暑さでヘバってるから、休まないとダンジョンまで保たないだろうし」
「あっ、私だけではないんですね?」
「うん。スヴィンがもう完全に夏バテ。食欲ないって言って寝込んでるよ。部屋に氷の塊は置いてきたけど、しばらくは無理だろうね」
「スヴィン博士……暑さに弱いんですか?」
「極端な暑がりなんだってさ」
「それは……このチームに参加して大丈夫だったのでしょうか?」
「それでも、ダンジョンは洞窟の中だし、湿度は高いけど気温は常に10度前後だから、問題ないって。湿度が高いのは全然平気みたいだし、スヴィンに関してはダンジョンに入ったら元気になるんじゃないかな?」
「な、なるほど……! ダンジョン、湿度が高くて涼しいとは聞いていましたが、スヴィンさんだと……調査期間中、ずっとダンジョン内に居る方が快適かも知れませんね」
「本人もそのつもりみたいだよ? 僕が居る間は絶対安全だから、ダンジョン内で使うための良い寝袋持ってきたって」
す、筋金入りだぁ。
もうこれ、スヴィン博士は調査期間中、ダンジョンに住む気なんだろうな。ガチだ。興味の方面は違うものの、その熱意、確かにハインリヒさんの兄弟……!
「スヴィンが大変なのか。ツェツィーリアさま、スヴィンのお見舞いに行ってきたい。良い……?」
「アルバン様、良いでしょうか?」
「良いよ。じゃあ、ツェツィーリアはしばらく僕とのんびりしてようか」
血は繋がっていないとはいえ、スヴィン博士とニーナは叔父と姪。ニーナは優しい子なので、新たにできた優しい叔父さんのことを気遣っているようである。素晴らしい。
一応、調査チームの他の方々も、このクエルノ辺境伯邸の敷地内にある別な建物に宿泊中らしいのだが、かなり大所帯だし、このお屋敷の使用人の方々もきっと大忙しであろうから、どれくらい手が行き届いているかは分からない。はっきり言って、白銀で辺境伯のアルバンと私はVIP待遇。伯爵家とはいえ家督を継ぐ立場でもないスヴィン博士がどのレベルで歓待されているかは不明なため、ニーナに様子を見に行って貰った方が安心ではある。
ニーナは二時間しないくらいで戻ってきた。
やはり、水とかフルーツとかはお屋敷の方で用意してくれていたらしいのだが、その他の食べやすそうなものはなかったらしい。
急遽市場に行って、爽やかな風味のパセリのサラダとローストした鶏肉を入れたピタパンのサンドとか買ってきて置いてきてあげたとのこと。
「ついでにオレンジも絞ってきた。そしたら、ミトンが嫌がってどこかに行った。たぶん、ネズミ取りが終わるまで戻ってこない」
「ああ……猫ちゃんは柑橘、嫌いですもんね」
対鼠に於いては殺戮兵器なのがケットシーという魔獣。フリートホーフでは悉くを鏖殺し尽くしたが故に、最近ではミトンもまったり暮らしていたようだが、ここは獲物がたくさん居るようなので、久しぶりに野生を炸裂させていることであろう。
案の定、夕方にはミトンが仕留めたネズミの死体で、食物庫の横に小山が出来上がっていたらしく、若いメイドがそれを見て腰を抜かしたとのこと。
しかしながら、ミトンはなんと久しぶりのハンディングに興が乗ったようで、お屋敷近くの民家にまで範囲を拡大していたらしく……クエルノ辺境伯からは感謝された。
鼠は病気を媒介するので、一部地域だけとはいえ、駆逐してくれるなら有難い限りとのこと。
ううん、やはりケットシーって、居るだけでまともな領主の好感度を稼いでくれるな?




