【181】魔植物研究家スヴィン博士
さあやって参りました、王立学園。
貴族の子息令嬢のみが通える学校。主に魔法教育に力を入れている、誰もが知ってる超名門校。身分と魔力がなければ入れないその場所に、身分は貴族でも魔力がないから通えなかった私は人生で初めて足を踏み入れた訳だが――学校って、やっぱりなんか、変。
「同じ年頃の子供ばかりが集められているのって、やはり少し変なのではないでしょうか?」
「まあ、生き物の生態としては変だろうね。一部の生き物は親から子へと後天的に生きる術を教えるけど、学校ってその教える役割を特定の成体に委任して一気に複数の教育を済ませようっていう試みだし。本来なら教える側の成体と教わる側である幼体の比率がそう変わらないとは思うんだけど、学校ってさ、そのバランスがある意味では最初から崩壊してるから」
「ああ、なるほど。確かにそうですよね。人口比として大人と子供だと大人の方が多い筈ですし」
「そうそう。だからさ、勉強とか武術とか魔法とか、技術的なことを習得させるってこと以外を学校っていうシステムに期待しちゃいけないと思うんだよね。人格としても、貴族の模範となるように指導をって謳ってはいるけど……それって単なる技術指導よりよっぽど難しいんだ。現に、今活躍しているまともな貴族の大半は、親のやりようを見て学んでそうなっている感じかな。コンラートや、それにトゥルペ伯爵なんかはその代表例」
のんびりまったり学校の廊下で私とアルバンがお喋りしているが、私たちの目の前では頭を下げたまま硬直する三人の若者。いずれも男子。
気の毒なことに、私たちが雑談しているために、90度の角度に腰を曲げたまま動けずにいるし、なんならダラダラ脂汗掻いているし、私は別にいつも通りではあるのだけれど、隣のアルバンは物凄く不機嫌である。半眼になりながらネチネチ三人の少年らを虐めるモードに入っている。
大変、大人げがない……。
が、まあ、なんというか、これはもう正直どうにもならない。
何が起きたのかというと、まあ、端的に言うと……魔力制御の甘い子供ばかりの場所を訪れるにあたり、私はヴェール着用で臨んだところ、少年たちが悪戯心を出して私のヴェールに手を掛けたのである。
すれ違いざまのことであり、殺意はなかったことからニーナも反応しなかった。
ニーナに関しては相手が敵対行動を取らない限り警戒のみに留めるようにと教えているため、女の子を虐めるタイプの、ニーナが最も嫌いな少年たちを発見して威嚇のために睨みを効かせてはいたらしいのだが……残念なことに、この少年たちはニーナの威嚇を感じ取れないくらい鈍かったので、やってしまったのである。
まず、到着したらアルバンと一緒に学園長にご挨拶。応接室で軽く無難に雑談。
学園長、私には視線を向けず、常に、最初から最後までアルバンに向けて会話。
私、ほぼ置き物。
途中途中、アルバンは律儀に私に対して話題を振ってくれたし、新しく作る女子校は私がプロジェクトリーダーなので「ツェツィーリアはどう思う?」とか、アルバンは聞いてくれたのだけど、学園長はガン無視してアルバンにのみ話を振っていた。
でもこれは仕方ない。
国家規模の事業を女性がリーダーとなってやったことなどないため、普通に考えると、私の名義であっても実際に仕事するのはアルバンなんだろうなというのは妥当な判断。私とて、自分だけで出来るとは到底思えないため優しい甘やかし夫のコネとか経験とか使ってここぞとばかりに手伝って貰おうと思っている身なので、特に異論はない。と、いうか、私もちょっとは仕事するんだな〜、と認識されていない段階で学園長の説得から始めるの、面倒臭い。
アカデミーはあくまでも新しい学校を作るための参考資料。良い要素は取り入れて、良くないところは改善案を出してやってこうねという話なので、学園長が私のことを軽視していてもあんまし関係がないから、手間だし、他人だし、まあいっか〜、で終わってしまう。
が、この時点でアルバンのストレス指数が上昇。
私が軽視されているとアルバンは不愉快ですという態度を全面に押し出すのだが、学園長、不機嫌なのは分かるのだけど、その原因までは理解できず。
仕方ないので、案内役だという若い男性教師に引き継いで貰って、校内を見学。
ほうほうほほう。なるほど天下の王立学園だけにあらゆる設備にお金が掛かってますなぁ、などと呑気に見て回っていたのだが、その若い男性教師、やはりドラゴンスレイヤーとして時の人となったアルバンに対して熱心に話し掛けていたのである。
内容は私も横でちょっと聞いたのだが、ここは図書室で、こっちは講堂で……と割と見れば分かることだけ頑張って説明してくれていたので、顔に「ウンザリ」と書いてあるアルバンに説明を聞く役はお任せして、私はウロチョロ好き勝手に色々見せて貰った。
ほうほうほほう。なるほど。講堂の机とか椅子はこんな感じなのか、とか、図書館のラインナップこんな感じか、とか。色々自由に細かいところまで見れたので気が楽だった。
が、アルバン、ますます不機嫌。
「案内は結構。私もここの卒業生だ。学内のことは知っている」
絶対零度。あからさまに邪魔だどっか行ってろのアルバンの発言により、案内役、退散。
「ツェツィーリア、もう帰ろう。議会から直接抗議して貰ってから、次はきちんとした案内役再選定させて見学しよう」
「見るものは同じですし、私としては何も問題ないと思うのですが」
「教師始め、人間の質の問題だ。事前に君がプロジェクトリーダーだと聞いている筈なのに、誰一人として君のことを重視しない」
「仕方ないです。私はその、昨年のこと……があるとはいえ、黒髪ですし、女性ですから」
「君にその諦めを覚えさせた社会構造こそが問題だな」
私は落ちこぼれ。
個体としても弱いし、一人では生きていけない自信がある。
魔法も使えず、疲れたらすぐ寝込むぐらい体も弱めだし、なんなら裕福な子爵家に生まれず、庶民として生まれていたら子供のうちに死んでいたと思う。魔力耐性があったとしても、である。衣食住の質が良くないとすぐ淘汰されて死ぬ個体、それが私。
だから、初対面の人にクソザコ扱いされて相手にされなかったり、会話して貰えなかったりはまあ普通。
別に害がないならいいや。
そんな気持ち。
「研究棟から暇そうな知り合いを引っ張ってくるよ。ツェツィーリアはちょっと待ってて」
「わかりました」
研究棟とは、アカデミー在学中から特定の分野で優秀な研究実績を築いた人々が院生として、または教授として学術研究をするための建物の名称である。機関としての名称は王立魔法研究所なのだが、一般的に研究棟とだけ呼ばれがち。
これもアカデミーの敷地内にあるため、郷を煮やしたアルバンが知り合いの叡智ある人々を召喚しようと思い立ったようなのだが……渡り廊下の窓から外をなんとなく眺めつつ待っていたところ、見知らぬ三人組の男子たちがすれ違いざま、いきなり私のヴェールを掴んで引っ張った、という流れである。
そこに、知り合いの研究者の方を連れて戻ってきたアルバンが登場。
タイミングの悪いことに、本日の私はヴェールがずり落ちないようにと、ニーナがピンで髪に固定してくれていたので、軽めに引っ張られて首がクンッ! とやや後ろにいったりしていた。
それをアルバンは真横から目撃してしまった訳で……。
地獄が、誕生した。
「君たち、何をしているのかな?」
あくまでも穏やかな、子供に対して語り掛ける口調だが、魔力がビリビリ充満している。素晴らしい滑舌と発音。恫喝していないというのに、威圧感がある。
が、アルバンの魔力制御は完璧だし、私に対して怒っていないため、体調に変化なし。無事。
が、モロに殺意を浴びた悪戯っ子たちは身動きも出来なくなっている。
咄嗟に、息を呑んだ一人が意を決したように勢いよく頭を下げた。残る二人もそれに倣った。
「何をしているのかと聞いているんだけど?」
再度の問いかけ。
目の形が下弦の月のように歪んでいる。
うっそりと歪んだ微笑。傷跡が引き攣れて不気味な形を作っている。
「ツェツィーリア、こっちにおいで」
「……アルバン様」
「おいで」
「……はい」
殆ど命令だった。無言の、有無を言わせぬ指示。
言われた通りに、ゆっくりと歩いてアルバンの横に移動する。大きな手が掌を上に差し出されて、それに自分の手を乗せた。ニーナも私の後ろに付いて移動した。
そこでやっと、アルバンの笑みの質が変わる。
軽く指先で、払うようにしてヴェールを捲られる。顔の側面、耳の裏側から頬、顎を撫でられる。
後頭部、髪を結いピンで固定したところを確認される。怪我がないことが分かって、アルバンが小さく息を吐いた。
よかった。
これなら話を聞いてもらえる。
「まだ子供です」
「ニーナより年長だ。分別の着く年齢だと思うけど」
「ニーナは特別です。同じ年頃の男の子たちの悪戯から、他の女の子を守ってきた子です。それに、既に……私が叙した騎士です。フリートホーフ北方騎士団で認められた、特別な子です。この年の騎士でも、果たしてベルンシュタインの騎士の間に入れる子が他に居るでしょうか?」
「だとしても、彼らのこの行動は到底、貴族の子息に相応しいとは思えないけどね。君たち、どこの家の子かな?」
アルバンの問い掛けに、三人はそれぞれ家名を答えた。なんと筆頭は侯爵家のご子息。残り二名は伯爵家のご子息であり、なんというか、うん……偏見かも知れないけれど、身分を傘に着て調子乗って学内でブイブイ言わせているんだろうな〜!
現在、確かアカデミーに在学中の子息令嬢で最も身分が高いのはガブリエラさんだが、そのガブリエラさんは留学中。
それが故に調子こいてアホなことを仕出かしたのであろう。
閉鎖空間で同じ年頃の人間しか居ない環境による井の中の蛙化現象、恐ろしい……!
世界が狭いと思考も狭まる。
身体的にも精神的にも未発達な子供なら尚更だろう。
と、思ったので、学校に通っていない身ながら、同じ年頃の人間ばかり沢山集められた環境ってイレギュラーじゃないですか? という旨の疑問をそのまま口に出した結果、怯えて頭も上げられない三人の少年の前で雑談することになってしまった。
ちなみに、私に対してちょっかいかけたから、三人の近くまで行ってニーナが剣の柄に手を掛けてチャキチャキ鳴らしてわかりやすく、かつちょっとガラの悪い感じで威嚇している。やめなさい。チンピラみたいだから。とは思うが、ひとまずアルバンの鎮火が先なので放置。ニーナは私の号令がない限り基本無害なので。
「倫理の授業もあるにはあるけど、そんな情報を流し込むだけのお勉強で品性が身に付けば苦労はないって話だよねぇ」
「性格には個人差があるのも大きいですし、確かにそれは、座学や実技以上に大変なことかも知れませんね」
フリートホーフ北方騎士団の入団試験でも、高ストレス下で耐性がどの程度あるかを見るらしいので、それぐらい、後天的に鍛えにくい分野なのだ。というか、あの育成大好きハインリヒさんでさえ人材の厳選という手段を取っているというのはそれなりに説得力がある。
要するに、他者への思いやりとか気遣いとか謙虚さとかが少なめな子供をどう教育するのか、というのは大きな課題である。在学中に明白な問題行動が無かったとしても、そこそこ高潔な精神を持った大人に仕上げるためにはどうするか。
うーむ、難しい。
というか、これ、人類がずっと考え続けねばならない課題ではなかろうか?
少なくとも私はその答えを持っていないし、教育という分野を専門に勉強している偉い学者さん達もまだ答えは出せていないだろう。
きょ、教育って、大変そう……!
今更弱気になってしまう。
が、とりあえず、この少年たちを「どう料理してやろうかな〜?」という目で見ているアルバンをどうにかしなくては。
単なる悪戯程度だし、私のこれまでの経験からすると、まあこの年頃の男の子がやる悪戯としてはまだマシな部類だし、注意と警告だけで済ませたいところ。というか、正直、こんなことで侯爵家とか伯爵家と揉めたくない。穏便に済ませたい。
揉めた家が多いと、あとあとなんか、何かあった時に足元掬われるリスクがあるし、今の状態なら逆恨みで仕掛けて来られたらその家だけ殴れば良いのだし。
「あなた方、貴族の子息であるのなら、女性の衣服や体を引っ張ってはいけません。身分の上下に関係なく、それは紳士のすることではありません」
私は立派な人間ではない。
ないけれど、もう大人だから。
自分の至らぬところを棚に上げてでも、悪いことをした子供は叱らねばならぬのである。
子供の視点からしたら理不尽極まりないし、お前に言われたかねーよ案件でしかないのだが、これは大人のするべきことなので……仕方ない。この三人の少年たちには諦めて欲しい。
「もうやらないと誓って下さい」
「は、ぃ、ち、誓います……!」
「どの女の子にでもですよ? 必ず、守って下さいね?」
重ねて確認すれば、三人ともうんうんと何回も首肯して頷いてくれた。おお、思ったより素直。きっと本当は良い子たちなのだな。
私のあの最悪な従兄弟たちの子供時代とは大違いである。
分かればヨシ。
「良い子ですね」
微笑ましい。そんな気持ちで言ったら、三人ともピャッと小さく飛び上がってしまった。
今時の調子乗りボンボンって、割と善良だし素直なんだな〜?
良い時代になったものだ。
「……ツェツィーリア、行こうか」
コホンとひとつ咳払い。アルバンに促され、肩まで抱かれて見学の続き。
改めて、アルバンが読んできてくれた研究者の方とご挨拶。
うん、なんか今、背後で三連続でバタンとかゴトンとか派手目な音がしたけど無視だ無視。誰かがなんか、なんか三人ぐらい尻餅ついて転がったみたいな音がしたけど、後ろのことなので見えないです。はい。ごめん少年たち。多少君たちがお間抜けな感じで成敗されねばアルバンとニーナという私過激派がどうにもならんのだ。犠牲になってくれ。
「お久しぶりです。辺境伯夫人。魔植物研究をしております、スヴィン・ヴァインシュトックです。フリートホーフ卿とは院生時代、何度か共同研究をしておりました」
現れたのは青い髪をオールバックにした眼鏡の男性。目の下に隈があって、よれた丸首シャツと擦れたズボンとそれから留めとばかりに謎のシミが付いた白衣。
お、同じだ……!
出会った時のアルバンと全く同じスタイルだ!
これは間違いなく同じ人種。というか、失礼ながら近寄るとふわっと草の匂いとか薬っぽい匂いがするあたりこれは研究馬鹿間違いなし。頭はカチカチに整髪料で固めてあるので不潔な感じは薄いけど、これこの人お風呂まともに入ってるか怪しいな?
ただ……正直、スクエアフレームな眼鏡の奥の瞳に宿る、叡智の光。素晴らしい。特定の分野を深くマニアックに研究している人特有の空気がある。たまらん。なるほど、アルバンが連れて来るだけのことはあるぜ。
初対面だけど、アルバンと親しくて同じ人種というだけで好感度が上がってしまう。
スヴィンさんも友好的な人らしく、ニコニコ挨拶してくれたので私もニコニコ愛想良くしておく。
……うん、ごめん。
お久しぶりって言ってくれてるあたり、これ、どっかで一回お会いしてるな。全く記憶がないけど、なんかあの、去年の夏に初めて王宮に呼ばれた際にいろんな人に会ったから、きっとその時だな?
「スヴィンは優秀な魔植物研究の第一人者。博士号持ってて、国から予算を貰って魔植物研究をしてるエリート。在学中は僕と共同研究も何度かやっていてね。まだまだ魔植物研究については未開拓な要素が強い分野ではあるんだけど、バロメッツと野菜の交雑種、あれが食用に耐えるか成分分析してくれたのもスヴィンの実績」
「では、巨大カボチャの? ありがとうございます、ヴァインシュトック博士。貴重な時間を頂き、感謝致します」
「いえいえいえ! 息抜きのついでですから!」
研究をしっかりして国家と人類の未来に貢献してる賢くて偉い人だ!
これは改めて心からの礼儀を示すために本気のカーテシー。頭が下がる思いだぜ。ご本人が謙虚なのも素晴らしい。
それからはアルバンとスヴィンさんの解説によって、まったり学内の設備とか予断についての解説。スヴィンさんもアルバンとはタイプが違うもののおっとりした人柄だったので、色々初歩的な質問をしたりとか。
「貴族家の跡取りであれば、有事の際には騎士団の指揮を執ることにもなりますし、その場合は籠城戦や防衛戦となるものと思います。ですが、学内の見取り図が掲示されていること、加えて、地図として共有されているということは、つまり……貴族の子息、男子生徒に対して実践形式で戦術を学ぶということはない、という解釈でよろしいでしょうか?」
「そうですね。学内での剣術大会などは行事としてありますが、チーム対抗戦というのはないです。フリートホーフ辺境伯夫人はユニークな方ですね」
「ツェツィーリアは戦術マニア。僕よりチェスが強いし、魔獣研究にも理解があるんだ」
「魔獣研究や魔植物研究をする人材は常に居た方が良いと思うんです。ですが、恐ろしいものとして嫌厭されがちですし、学校の授業の単元として魔生物というものがあっても良いのではないかと……ヴァインシュトック博士の研究は領地を富ませるためにも役立つものですし、領地運営の一助として知識を得ておいた方がメリットがあるかと」
「素晴らしい! 辺境伯夫人、それはぜひやるべきです。議会から私も話は伺っていますし、必要であればテキストを作る際に協力させてください」
「ありがとうございます。博士が協力して下さるのであれば心強いです。ですが、その……ヴァインシュトック博士は、女性がそのような分野の勉強をする、ということに関して、どうお考えでしょうか?」
なんか、スヴィンさん、いや、スヴィン博士は議会から、フリートホーフに新しく学校作るよと聞いてはいるのだろうけど、学のない私のような奴が理事長の女子校、信用できないとか思ってないかな……? なんて心配になってしまった。余りにも自然体なので、男女共学校と思って、主に男子教育の話だと解釈していたのならここでまず誤解を解いておいた方が後々のためであろう。念のための確認である。
「国内初の女子教育専門機関という話はピルツ議長からも伺っています。構想に関しても……議会が希望するのは貴族令嬢向けの領地運営のための学部と、女性騎士のための学部と聞きましたが、夫人はそれだけでなく、商業科や、生物学や魔導工学に関しても学部を設けたいと希望していると」
「はい。その通りです。研究職というのは、これまで女性が居なかった分野ですし、既にご活躍されている方々にとってはどのようなお気持ちになるものかと、それがお聞きしたかったのです」
女性は男性を立てるもの、というのが美徳とされるこの国に於いて、これまで男性のみが活躍してきた研究という分野に女性が参入するのはどうなのか? 反発されるようであれば導入のやり方を工夫せねばなるまい。
「そうですね、人に寄るとは思います。ですが、私は個人的には女性であれ男性であれ、魔植物研究の後進が増えることに関しては全面的に賛成です。魔植物は魔獣ほどに脅威となる種類は少ないのですが、まだまだわからないことが多い。成分分析や魔法解析としても、根気と人手が必要となる分野です。確かに、女性であれば体力面を鑑みるにフィールドワークなどには適さないことも多いでしょうが、研究室で地道に実験とデータ収集をするというのもまた必要なことです。そのための専門知識と技術を持った人は……正直に言うと、私は幾らでも欲しい。理想を言えば三百人のチームを組みたい程です。ただ、そもそも興味を持ってくれる生徒が少ないのが現状なので、入口として、学部を開設してくれるというのは魅力的ですね!」
私の心配を、スヴィン博士は爽やかに笑い飛ばした。
性別とか関係ねぇから、兎に角研究のための人材がジャブジャブ欲しい。そのために、興味の取っ掛かりとしてまず学校の授業でやってくれるなら願ったり叶ったりだぜ、との意思確認が取れたのは嬉しい。
嬉しい、の、だが……なんか、なんか今、謎の既視感が……?
ついつい油断してそのまま首を捻ってまじまじとスヴィン博士を見てしまったが、遅れて、アルバンから衝撃の事実が。
「スヴィンはヴァインシュトック伯爵家の四男。で、今は居ない三男、スヴィンのすぐ上の、勘当された兄がハインリヒ」
「えっ!?」
「タイプが違うから気付かないけど、たまーにスヴィンが大笑いすると、怖いくらいハインリヒに似てる瞬間があるんだよねぇ……。」
「顔は似ていないんですが、表情が似ていると言われることは稀にありますね。我が家は文官の家系なのですが、何故だか上の兄……ハインリヒと私は毛色が違いまして。兄は家を出ましたが、私はこうして研究者になったのです」
「そ、そうなんですか」
「ヴァインシュトック伯爵家の現当主は大臣やってるし、上二人は王宮内でも要職に就いてるんだ。エリート文官家系だよ」
「い、いつもハインリヒさんにはお世話になっております」
「兄がいつもお世話になっているようで……。」
「じゃあ、博士はニーナの叔父さんだな」
沈黙。
三人一斉に、これまで無言で控えていたニーナの方を向いて黙ってしまった。
た、た、た、確かに――!?
言われてみればそうだった。
ハインリヒさんはニーナの継父。なので、そのハインリヒさんの弟ということは、ニーナにとってスヴィン博士は叔父さんだし、スヴィン博士にとってニーナは姪っ子。盲点。
「ハインリヒとニーナの母さんが結婚したから、博士はニーナの叔父さんだ」
「えっ、と……ニーナ、ですが、ハインリヒさんはご実家と縁を切った、と聞いておりますし、それに関しては、その……。」
「構いませんよ。私に関しては。私も、父や上の兄達が望む道に進みませんでしたから。もう何年も実家には顔を出していませんし。ハインリヒ兄さんとの関係も悪くはなかったので、遠慮なく叔父さんと呼んで下さい」
「わかった。スヴィンは良い奴だから親戚になってやってもいい。フリートホーフの村にある家にも一度遊びに来ると良い。ハインリヒが母さんのために大きくて立派な家を建てたんだ。かわいいサモエドも居る。良いところだ」
「そうですか。なら、暇を見つけていつかお邪魔します」
それから、ニーナの謎のコミュ力が炸裂。
急激にスヴィン博士と仲良くなって、最終的にスヴィン博士がニーナへのお土産としてミトン用にマタタビあげてお別れ。強い。
「義理の姪っ子とはいえ、女の子とどう話したものかと思いましたが、ニーナは話しやすい子ですね」
「ああ、うん。だろうね。コレ、この間は一人でキマイラ仕留めるぐらいだし。獣も捌くから魔植物なんて余裕だよ余裕」
「なるほど……! 話しやすい子が姪で良かったよ。ニーナ、またいつか、叔父さんのところにも遊びにおいで。君が退屈じゃなければだけど」
「わかった。次はスヴィンのためにお土産を持って来る。ミトンにマタタビをありがとう」
謎のまったりな空気に包まれながら帰宅。ふぅ、なんか色々あったけど、とりあえず平和に終わって良かった。
お家に帰ってホッとひと息。
……と、思ったら、家の中に入るなり、アルバンが真っ直ぐ目を見てこう言った。
「ツェツィーリア、ちょっと、二人だけで話をしようか?」
な、なに、なん、私、なんかやらかしたか!?
思い当たるところがないものの、どこかしらでやらかしているような自信はあるため、アルバンに促されるがままにティールームへドナドナされる。
ど、どの件ですか……?




