【168】格安の情報料
キャッキャウフフ。
女の人たちの笑い声。たまに赤ちゃんの泣き声。稀にアン! という高い若犬の鳴き声とか、ニャー、なんていう猫もといケットシーの鳴き声とかも。
嵐が去って、子供部屋はこの世の柔らかくて優しいものを集めたかのような仕上がりである。有能なナースメイドも乳母たちも平和にニコニコ、楽しく仲良く働いている。
そこにいきなりぶち込まれた育児初心者オラシオさん。
プロの育児チームによる訓練を受けることになったのだが……。
「おい」
「うちの子、本当に可愛いでしょ? アルビレオはツェツィーリアにそっくりだし、アマーリアもツェツィーリア似で。オーギュストは僕寄りだけど、耳の形はツェツィーリアなんだ」
「おい」
「僕、生まれつき斜視があってさ。傷が酷いから目立たないけど、遺伝しやすい要素だし……三人とも受け継がなくて良かったよ。これからは遠距離武器が台頭すると思うし、距離感が掴みにくいと転んでケガするかも知れないし」
「おい」
「あっ! あっあっあっ! アルビレオが、アルビレオが掴まり立ちしそう! が、がんばれっ……! がんばれっ……! えっ、ちょ、ちょっとツェツィーリア! 見て! アルビレオが!」
「わぁ、もう立てるようになったんですか。子供の成長って早いですね」
「すごい! すごいよアルビレオ! 立ってる! 掴まり立ちだけど、一人で、一人で立ってる……!」
「話を聞けっつってんだろが! 三人とも白銀じゃねぇかよ!」
「今はそれより掴まり立ちだよ!」
ツッコミを躱され続け、とうとうオラシオさんが力強く声を張り上げてしまった。
が、私たち夫婦はもうそれどころではない。
長男がプルプルしながらベビーベッドの柱を掴んで立ち上がっているのだ。素晴らしい。ハイハイから二足歩行へ。一気に人間らしくなってきた。
おぉ、に、人間の子供だ……!
いや今更だし当たり前のことではあるんだけど、今や「赤子」ではなく「子供」なのだなぁと実感したというか。
アルバンは我が子が立ったことによる感動でわーわー言いながら拍手までしてアルビレオを褒め称えているし、私は私ですごいですねぇ、とまったりしている。
「わっ、危ないっ!」
初めての掴まり立ちで疲れたのか、アルビレオが転びそうになったので、アルバンが咄嗟に風魔法でやんわり着地させた。うん。普通ならこんなことに魔法なんて使わないし、魔力の無駄遣いでしかないが、アルバンの場合は必死になってうっかり力加減を間違えると取り返しがつかないことになるため、魔法使った方が安全性が高い。
よくよく考えてみると、アルバンの魔力操作の精度が死ぬほど高いのは、自分の手の代替品として使いたい場面が多かったせいなのであろう。避けられない積み重ねの努力が理由。
「アルビレオ、大丈夫? どこも痛くない? ひねったりしてない?」
「ぅあ〜、ぁう〜!」
「平気そうだね。よしよし、抱っこしようか。あ、嫌? そう……今は気分じゃないんだね?」
アルバンが抱っこの提案をするも、アルビレオは体をゆすって拒否の意思表示。うちの長男は父親に似て天才なので、喋るのはまだ無理だが、大人の日常会話は既に理解している。故に、物分かりの良いお父さんを前に自分の意思をイエスノーで伝達するぐらいは出来るのだ。
アルバンの見つけた法則性によると、イエスは一語、ノーは二語とのことで、アルバンが色々質問をする形でコミュニケーションを取ることが多い。私もたまにやる。
「んんん、ぅ、わ、ぁ、んぁあ!」
おっ、なんか、アルビレオが気合を入れている。珍しい。いつもはスン……としていることが多いのに。
と、思っていたら、急になんか宙に浮いて、ふよふよ飛び始める我が子。
「えっ!? 風魔法!? 早いね〜!?」
「アルビレオ、頭をぶつけないでしょうか? すみません、誰かアルビレオが運動する時用に、クッション入りの頭巾を作ってくれませんか?」
「あ〜! クソッ、どうなってんだよここはよぉ!」
オラシオさんが頭を掻き混ぜ始めてしまったが、不安定にフラフラヨロヨロ、ゆっくりめに飛行するアルビレオをアルバンがニコニコでキャッチ。お父さんに抱っこされて満足げなアルビレオの頭を撫で撫でして、ご機嫌にふくふくほっぺにキス。
「いや〜、オラシオが物事に動じない、肝の据わった冒険者で良かったよ〜」
「限度ってモンがあるだろうが」
アルバンがニコニコしながら私にアルビレオをパス。おおよしよし。初めて魔法を使って疲れたのか、早速おねむの気配である。
「それじゃコレ、口止め料ね」
「重っ!」
徐に、手慣れた様子で懐からズルゥリと飛び出す革袋。ニコニコ笑顔でご機嫌の大貴族らしい振る舞い。お主もワルよのぅ。なんて私は呑気にしていられるが、渡される方としては緊張するだろう。
「なっ、き、金貨!? 幾ら入ってんだコレ!?」
「受け取ったね? ウチの子たちのこと、黙っててくれる?」
「黙る黙る。超黙る。養育費のかわりだろ? 助かるぜ。ありがとな」
「……口止め料ね。養育費だとほら、僕たちの立場だと面倒なことになっちゃうからさ。だから口止め料」
「おう! 口止め料な! 有り難く受け取るぜ!」
思ったより朗らかかつ、スムーズに口止め料を受け取ってくれた。
冒険者、融通が効かないとやっていけないんだろうなコレ。
そんな訳で、オラシオさんとイシドロさん、そしてメラニーとその赤子は去っていった。
滞在期間、約七日。
あっという間に終わってしまった。まさしく嵐のような怒涛の日々である。
「オラシオさんたち、無事に帰れると良いですね」
「まあ心配ないだろうね。ハインリヒと打ち合えるぐらいだし……ただ、彼らが冒険者の中でも最上級ではないというのは驚きだ。貴重な情報だよ」
「冒険者のトップ層と騎士のトップ層にそれほど実力の開きがない、というのには驚きましたね。そもそも騎士は軍事的に運用することを前提としていますが、それでも、個人としての武力が天覧試合に出場可能な実力者と大差ない、しかも人数で言えばベスティアの冒険者の方が多い、というのは驚異的だと思います」
私の意見に、アルバンも首肯する。
想像していた以上に、ベスティアの冒険者は強い。
話に聞くところによると、オラシオさんとイシドロさんの二人は共にB級冒険者。最上級とされるA級ではないそうだが、しかし、イシドロさんは若い頃にA級だったという。
そして、好都合なことに……そのイシドロさんにハインリヒさんをぶつけることが出来た。これは最も理想的な比較が出来たと言って良い。
ハインリヒさんは過去の天覧試合に於いて、剣術部門と馬上総合部門では共に三連覇を果たしている。個人としては現在、我が国で最も強い騎士の一人だろう。というか、槍術に関しては間違いなく国内一の遣い手。
大半の騎士であれば、ハインリヒさんの猛攻を前に躱すことは出来ない。イシドロさんはハインリヒさんの攻撃を見切って、その後の展開を予測して反撃もしなかった。ただただ回避と、受け流すことだけで済ませようとしていた。彼にはその実力がある。
A級冒険者というのは、イシドロさんクラスの実力を想定しておくので良いということだろう。つまり、天覧試合に出場しても上位の成績を取れるだろう実力者達。それが西の国ベスティアには複数銘存在している。
冒険者とは我が国で例えるなら傭兵と猟師と騎士を混ぜこぜにしたような、武力とサバイバル術を駆使する何でも屋。地上の依頼を多く受ける人や、ダンジョンにのみ潜る人など仕事のスタイルは様々であるらしいが……ダンジョンに潜る層は武力に加えて、食糧のペース配分や応急手当てなど生存のため必要になる知識を備えていると考えるべきだろう。つまり、専門職が居ない中、自身の武力と資金力、知識の全てでもって過酷な環境から生還し、かつ、目的を達成するというプロフェッショナルだ。
そんな、ダンジョンに特化した冒険者を軍事的に運用するのなら、どうなるか?
ゲリラ戦で投入すればそれこそ、素晴らしい戦果を挙げるだろう。彼らは十名前後のパーティーを組んで動くこともあるという。ならば、小隊規模で急に編成しても相互に情報共有をしてそのまま運用しても問題が発生しにくいのではないか?
騎士はある程度、近接攻撃を担う前衛と遠距離攻撃を担う後衛、更には衛生担当や食糧担当など役割分担が成されいる。組織立って動ける点に於いては利点だし、上手くいけば大きな力を発揮するが、突発的に有り合わせの人間を寄せ集めて新しく部隊を作り、突発的な作戦に投入することに向かない。
対して、冒険者のトップ層のみを選んで寄せ集めて、急襲作戦のための部隊を急造しても、恐らくかなりの確率でそれは成功を見るだろう。話に聞くと、西の国の貴族はだいぶアホだし無茶振りばかりのようではあるが、彼らはなんだかんだ、苦労をしつつもその依頼を達成してしまえている。するだけの実力があるのだ。
恐ろし過ぎる。
指揮官が無能なアホでも、現場で動くトップ層の冒険者を集めて命令すれば、高難易度の作戦でも達成出来てしまう。元々、冒険者は依頼の達成のみを目的として、過程は冒険者自身が考えるため……言ってしまえば「相手の軍に大打撃与えてこい」という依頼を受けたら、ブツクサ文句言いつつ何らかの手段でコソッとヌルッと後方支援部隊のところまで行って何らかの方法でそっちを壊滅させてしまいそう。
もし後方支援部隊が潰せそうになかったとしても、依頼主に対して後から言い訳が立つように、ゲリラ戦でこう、なんか、手こずらせてくれそう。
というか、元A級のイシドロさんで、国内最強とか言われちゃってるフリートホーフ北方騎士団の上の方の騎士達とあんま変わらないっていう事実が怖い。その時点で苦戦確定。というか、もし戦争になって、冒険者たちが兵士として動くことになったとしたら……ベスティアの指揮官側が張り切って余計な指示を出してくれないと、作戦の読み合いが成立しないかも。依頼のノリで丸投げされたほうが、冒険者たちの動きが読めなくて厄介。
う〜ん、ちょっとこのパターンは想定してなかったですね?
「オラシオやイシドロでもA級ではないって事実が恐ろしいね。不幸中の幸いとしては、ベスティアにはもう戦争をするだけの財政的な体力がないってことぐらいかな。このままだといずれ国家そのものが財政破綻するだろうね」
「そうですね。ベスティアには資源が乏しいですし」
「ただ、ひとつだけ……オラシオの話だと、ダンジョンの深部から、魔力を持った鉱物資源が発見されたって話。オリハルコンや、東でのみ産出されていたヒヒイロカネなんかの金属質な魔鉱物とはまた違う、結晶構造を有する魔鉱物があるって噂が本当だとしたら……その魔鉱物の性質によっては、魔導工学で莫大な利益を産み出すかも。冒険者ギルドを運営している層は馬鹿じゃない。優秀な交渉人で商人だ。政治能力もある。一度財政破綻して、王家や貴族の力が失われたら、一気に台頭してくるかも」
「魔鉱物ですか。でも、まだ性質はよく分かっていないんですよね?」
「うん。オラシオが聞いた噂だと、水晶に似た透明な結晶体だって。具体的にどんな性質かは不明だけど、魔力を含有する鉱物、その性質がガラスと類似するなら……それこそ利用方法は無限にあるだろうね」
「ガラスは加工しやすい鉱物ですもんね」
「そうそう。衝撃に弱く傷付きやすいけど、酸化も劣化もしない。おまけに熱で溶かして任意の形にできる。見たまま石英と同じ性質なら、それこそ夢の鉱物だよ。もし、溶かしての加工が出来なかったとしても、研磨が出来ればパーツとして使えるだろうし、どっちにしろ興味深い物質だよ。おまけに、鉱物資源なら鉱脈からしか産出されないから……我が国にはグリンマー領の黒曜ツルバミがあるけど、あれは植物だし、そのうち種を盗み出されるだろうから、そこに関しては羨ましいよね」
「すみません。それに関しては本当に……グリンマー領はその、機密保持とかに向かない土地で……。」
「そんなことはないよ。単純に、植物だと盗まれやすいってこと。落ちている黒曜ツルバミの実を全部守るのは物理的に不可能だよ。そもそも、そうやって増えていくのが植物だからね」
うーん、なんというか、西の国ベスティア、ポテンシャルは高いんだよね。
冒険者文化のようなものも育ってきているみたいだし、国がしっかりしていない分、国民がしっかりしていそう。治安とか財政とかに不安があるし過酷だからか、国民が強い。生き残るためにそうあらねばならないのであろうが、それはある意味、国としては強味でもある。
我が国、全体的に平和ボケしてるのは否めないので。
私がその代表格。
おまけに、今のところは西の国から賠償金を毟り取って優雅に国を回せている訳だが、今後、未来のことを考えると、魔導工学の発展に運命が左右されそうな気がしてきた。新たに発見された魔鉱物の性質がまだ分からないし、大量に産出されている訳ではないから猶予はあると思いたい。
「魔導工学など、技術面に関してはベスティアはどうなのでしょうか?」
「今はうちが一番。西は財政難の関係で出遅れているから当面は心配ないね。研究機関に回す予算も少ない。ダンジョンに国調査が入っていないのが証拠だよ。ただ、錬金術という学問はベスティアで生まれた。基礎はあるし、国民性としても本来は向いているだろうね。冒険者ギルドの運営側が私立学校でも建てたら一気に風向きが変わるかも」
「ベスティアでは、チェスも盛んで平民でもやるんですよね? ということは、物事を順序立てて考えるという基礎自体は既に国民の中にある?」
「だろうね。オラシオも無教養だけど馬鹿じゃなかった。勿論、優秀な冒険者だという点を加味するにしても、平民の質が高い。離農が進んだ副作用ってところかな?」
皮肉なことである。
そもそも、農夫は国の土台。食べるものを生産してくれる人が居ないと国として、集団として成り立たない。身分制度があるので私たち貴族は口に出してはいけないのだが、はっきり言ってお百姓さんが一番偉い。だって食べ物作ってくれる人居ないとみんな死ぬしかないので。
そんな一番大事なお百姓さんと食糧を護ろうね。じゃあそのために魔獣を倒す専門職作りましょう。はい騎士です。お百姓さんが農業に集中できるように計画練って諸々運用するために考える専門職作りましょう。はい貴族です。貴族や騎士が暴走しないように、国全体を管理するための専門職作りましょう。はい王族です議会です。それがベース。
農業、あれは超高度かつ超専門的な技術職。作る農作物の知識、経験、更にはその農作物特有の病気や害虫への対処法、果ては旱魃や嵐やら豪雪やら、人の力ではどうにもならん大自然の驚異を前に畑を守り、収穫を確保しなくてはならぬというハードで責任の大きいお仕事。
お百姓さんは……みんなプロフェッショナルなんだ。
貴族というか、領主の仕事としては「雑事は俺たちが引き受ける! 君たちは農業に、農業だけに集中してくれ! 戦争とか魔獣とかはどうにかしてみせるぜウオオオ!」というものなのだ。突き詰めてしまえば。
お百姓さんが世襲制なのは意味がある。一朝一夕には上手くいかないのが農業。なので、生まれた時からノウハウのある親とか祖父母に教わって、みっちりバッチリ技術継承と研鑽に努めてくれるのが理想形なのである。
我が国が騎士の国であったのも、そこに理由がある。
騎士は言ってしまえば、死ぬのが前提の職業。魔獣相手や盗賊相手でも同じではあるが、戦争になるとまあ死ぬ。ではどうして騎士を犠牲にするのかというと、育成と技術継承が騎士以上に大変なお百姓さんたちを極力戦争に出したくないからである。国としては「農夫を戦争に出したくないよぅ、ヤダヤダヤダヤダ!」と床に転がってジタバタするくらい嫌なのである。だって戦争で農家の方々が大勢お亡くなりになってしまったら、もし戦争に勝ってもその後が悲惨だからである。一旦途絶えた農業技術および、農業人口は簡単には戻ってこねぇんだなコレが。
まあ、本当の本当に国を挙げての総力戦とかになったらまた話は別だが……出したくない。死なせたくない。農業従事者。
離農? お願いですからやめてください。
な、なにが嫌? わかるよ農業すごく専門職。大変だよね? 科学と努力が必須。ぜ、税率下げるね? 大丈夫? 視察いくね? あっ、なんか困ったことある?
うちの領地ではそんな感じ。
お他所の、なんか勘違いしちゃってるアホの領とかだと……無意味に見下したり嫌ったり虐げたり雑に扱ったりしているのもままあるが、やめろと言いたい。確かに甘々過ぎるのは統治者として良くないが、国の食料自給率とか考えた上でバランス取ってほしい。本当に。だからアルバンは国全体のバランス取るために、辺境伯に就任してから農業農業農業! 第一次産業は一番大事だ国力もっと! でしゃかりきに頑張り続けているのである。
私の愛するアルバンの負担と責任を減らすためにも……各地の領主の方々は……もっと食料自給率について考えてくれても良いと思うの。
そんな感じで、農業という技術は習得するのが大変。税率が高くて続けるのも大変となってしまうと、当然の結末として離農する。離農すると、その元農夫たちは農業するために必要とされていた頭脳面肉体面両方のコストが手元に残るため、他のことをする余裕が生まれるわけだ。
結果として、離農し、転職を果たした人々は別方面の教養を身に付ける。
それが現在、西の国では進行中という訳だ。
「ベスティアから何とか結晶体の魔鉱物、輸入したいなぁ……アカデミーに持ち込んで解析かけたら、今なら先手を打てるんだけど、こっちから依頼して買い取ったら足元見られそうだし。ただ、鉱脈としてどれくらいで枯れるのか分からないけど、今のうちから買い取り進めて、先物取引でのシェアを奪えればどうにかなるかも……まあとりあえず、議会に報告だけしといて保留かな?」
「アルバン様がダンジョンを見に行けたら、一番手取り早そうですが、そうもいかないですもんね」
時間が、止まった。
やめなさい。
「それだ」みたいな顔して私を見ないで。
あっ、これ駄目ですね。
明晰な頭脳で、どうやったら西の国に言ってダンジョンの調査が出来るか、具体的な道筋を考えにかかっていますね。
しっかりしてアルバン。領地はどうするの!?
「…………うん。それが出来れば一番たの、いや、手っ取り早いんだけど、今は無理だね。オーギュストもアマーリアも生まれたばかりだし」
「何年かしたら行くつもりなんですね?」
「行きたい。凄く行きたい。ダンジョン資源の内容と産出量が分かるだけでもかなり有利になるし。ツェツィーリアもそう思わない?」
「思いますが……私たちの立場では不可能ですよね?」
「うん……そうだね…………すごく、残念だよ」
アルバンがしょんぼりしてしまった。
やはり研究者魂が疼くのか。こんなやたら高い身分と、有り余る魔力を持った白銀に生まれてしまったばっかりに。かわいそうに。本当なら研究だけして一生を送っていたタイプだろうに。
でも、うん、アルバン、基本的にどうやっても死にそうにないから、ダンジョン、凄く向いていそう。強いから危険な場所にも一人で行けるし、生還して研究サンプル持ち帰ってきてくれるし、元から魔獣の知識があるから、現場で解剖と観察なんかもできるし、マメだから記録取るのも嬉々としてやれそうだし。
フィールドワークの適性が、あり過ぎる。
ただ、そうなると、私は紛れもなく足手纏いなので一人でお留守番になってしまう。
アルバンと離れ離れで何日かかるか知れずに過ごすの、さ、寂しい。心細い。耐えられる気がしない。出来たら行かないで欲しい……!
でも、アルバンがやりたいことだし、国のためになることだから、もしも奇跡が起きて行けるよってなったら、笑って送り出したい。
今度、夫を送り出す時の心得を、モニカさんから習っておこうかな?




